山咲、春のノーパン祭り。

arm1475

山咲、春のノーパン祭り。

 誰がこんな祭りを始めたのか知らないが、我が山咲町には毎年春にろくでもない奇祭が催されている。

 正直、どこかのパン屋さんに喧嘩売るつもりで始めたのだろうと思っていたが、戦国時代の頃から続いていると知って、おい嘘だろ仰いだもんだ。

 奇祭を簡単に言うと、女のコがパンツを履かない祭り。

 あ、そこ、引かないで。言ってる俺も充分引いてんだから、この祭りには。

 で、だ。パンツの代わりに点数が書かれたお札を股間に貼る。

 そして祭りに参加する男は、女のコに貼られているお札を奪い合って点数を競い合うという……ああ、もうここまで説明しているだけで頭がおかしくなる。本当なんだこの祭は。考えた奴どんなアホだ。

 無論、お札を剥がす行為以外は禁止である。所謂おさわり禁止だ。

 それでもたまに暴走する奴がおるので、お札争奪戦には参加せず、たとえば彼女を守ろうとする彼氏のように女のコを守る側に立つ男もいる。そういったポジションもこの祭を盛り上げる要素としてアリなので、お札を剥がす男とお札を守る男とのバトルもこの祭の見所の一つとなっているそうだ。

 俺? 彼女いない歴イコール年齢の高校生ですよ、HAHAHA。

 なのにこの祭に参加しているのは、色々と事情がある。

 参加と言っても剥がす方では無く、札を守るほうで。

 守る札は、幼なじみの地味子の札。俺が子供の頃から通っている古武道道場の一人娘だ。

 ぼさぼさの頭に、無口で直ぐ赤面する、影の薄い娘である。奥手で異性と付き合った経験も無い。子供の頃はもう少し笑顔が多かったような記憶があるが、思春期を迎えて色々思うところがあるのだろう。あいにく俺には女心は分からない。

 そんな地味子が今回、俺に助けを求めてきた。

 なんでも、今年自分に渡された札の点数がとんでもなく高いからだという。

 この奇祭で使われる札は、祭りが終わるまで誰も手付かずだった場合、その点数が累積されるそうで、地味子の場合、地味すぎて今まで誰にも狙われなかった結果、今年の点数がエライ事になっているらしい。

 いったいいくつなんだ、と訊くと地味子はスカートをたくし上げようとする。いやいやまてまて口で言え口で。今パンツ履いてないんだろ!

 地味子が恥ずかしげに言う聞いた数字は確かにあり得ない数字だった。地味子の札一つで優勝出来るんじゃないかと思えるくらいのボーナスチャンス。

 それがどうやら今回参加者たちにリークされているらしく、祭りの開始直後から家の周りで様子をうかがう男たちがいたというのである。俺の家は地味子の道場の隣なので外に気づかれずに何とかやってこられたらしいが、正直これが限界らしい。

 半べそをかく地味子を見て、俺はやれやれとボディガードを引き受ける事にした。なんだかんだ言って俺は昔からコイツの涙には弱かったし、正直この奇祭にむかついているので、便乗してセクハラしまくってる奴らをぶん殴れる口実が出来る。何ならこの祭そのものをぶち壊すくらい暴れてやってもいい。

 俺は怯える地味子を連れて祭りに繰り出した。スカタンな奇祭ではあるがたくさんの出店が出ていて、単純にお祭りを楽しんでいる人たちもいる。

 子供の頃は地味子と一緒に出店を回ってこの祭を楽しんだものだが、大人になるとろくな祭りじゃ無ぇ事に気づかされてあまり楽しくは無い。

 ふと、地味子が俺の手を引いた。よく見ると綿飴の出店がそこにある。

 綿飴は俺の子供の頃の好物だった。今は修行でこういう甘いものは避けるようになったが、地味子が欲しがっているようなので折角だから買ってみた。

 綿飴を口にする地味子の笑顔は、さっきまでの怯えが嘘のように見える。俺も少しだけ綿飴を分けて貰い食べた。クソ甘いそれは少しだけ屈託の無い子供の頃を思い出させていた。

 そこへ突然、このクソ祭りの参加者とおぼしき男が数人、地味子に襲いかかってきた。

 俺は口にした糖分に相当するだけの動きで男たちを蹴散らす。俺が高校武術大会で全国優勝した実力者だと知らないのだろう、セクハラ野郎どもはあっという間に地面に伸びた。

 俺たちのストリートファイトに喝采を送る観客には少し呆れたが、まあ悪い気はしなかった。いやそこのおっさん、地味子は俺の彼女じゃ無いからね!

 俺は悪い言い方だが地味子を餌に、群がる不届き者達を次々と倒していく。

 騒ぎを聞きつけた祭り好きどもが増えていくのをみて、どうやらこの祭の見所は、セクハラよりもこういった乱闘のほうにあるらしい。俺が地味子を守るために参加したのは、ある意味この祭の正しいあり方だったようで、上手く乗せられたような気がする。

 群がる不届き者を次々と蹴散らしていくうち、敵もだんだん強くなってきた。

 木刀や金属バット、メリケンサックを使う奴らも出てきた。武器も使用可能な何でもありルールバーリトゥードである以上文句は言えないが、正直ぶっちゃけスカート捲る祭りでソレは異常じゃね? 祭りのルール思いついた奴、ちょっとそこに座れ小一時間説教してやるから。本当、地味子が俺に相談してきて正解だったと思うわ。

 地味子はいつの間にか安心してお祭りを楽しんでいた。終いには不届き者を蹴散らす俺に声援まで送って喜んでいる。何だかなあ、と呆れつつ、俺はそんな地味子を見てほっとするようになっていた。

 そのうち、祭りの関係者というおっさんがやってきて、お札集めの参加者が残り数名になった事を聞かされる。大量のリタイアもで出てるそうで、何という血なまぐさいセクハラ祭りだ……え、大半は俺の仕業? HAHAHA。

 で、どうやらその残りの参加者たちが地味子の札に目をつけているらしい事も知った。点数的に接戦らしい。

 つまりその分、辱めを受けた女のコたちもいると言う事になる。

 地味子にそう指摘された時、俺は無性に腹が立った。フェミニズムとかそういう事では無く、自分らがやってる事に疑問すら抱かねぇ奴らがいるコトがどうしても許せなかった。

 だから俺は地味子に同意を得て、祭りのスピーカーを借りて地味子の点数を告げて奴らを挑発した。俺は誰の挑戦でも受ける、と。

 案の定、全員、俺が挑発して指定した、祭りの本部がある広場へ雁首並べてやってきた。腕の立ちそうな奴、小賢しそうな奴、部下を連れて集めていた奴と、その玉石混合ぶりに俺は舌なめずりした。結局俺もこのクソったれな祭りを最高に楽しんでいたようである。

 結局、点数集めに腐心していたような連中では俺の相手にはならず、全員伸してやった。いやぁスカッとしたねぇ。

 倒した参加者が運ばれていく中、地味子が俺を人気の無いところへ誘う。


「……お礼……私のお札剥がせば、きみが優勝するよ」


 地味子はまたスカートをたくし上げて俺を誘う。必死に、顔を赤くして、精一杯の感謝を込めて。

 でも俺は断った。

 だってさ、剥がさなかったら来年もこの点数が累積するんだろ?

 きょとんとする地味子は初めはきょとんとしていたが、俺が頭を撫でるとようやくその意味が分かったらしく、照れくさそうにうん、と頷いた。

 代わりに、と地味子は俺に不意打ちのキスをした。

 俺はソレは断らなかった。

 来年もこのクソったれに最高な祭りを彼女と一緒に楽しみたかったからな。


                       おわり

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