05.てんで駄目じゃん



同盟が結ばれて一年が経過した。

内半年は諸侯の説得のため方々を巡っていた。その様子を眺めていた俺がよくやるな、と呆れ混じりに言うと、陛下は新婚旅行が長くできていい、と冗談混じりに笑った。新婚旅行にしては随分色気がなさすぎる。

色気がないと言えば、姫さんだ。彼女は陛下から政治を学ぼうとする姿勢が強すぎて、嫁というより弟子化している。


「どうすればいいと思う」


政務室の机に肘をついて悩む陛下。国同士の統合に向けての舵取りは順調だ。今、この人を悩ませる案件は一つしかない。


「姫さんですか?」


陛下は押し黙る。その沈黙が答えだった。

信頼できる臣下がほしい、と宰相に召し上げられてからも俺が彼女への呼称を改めないのをいつもなら注意するのに、今日はその余裕もないらしい。


「直球で言うしかないんじゃないですか?」


「言っているつもりなんだが……」


渋面になる陛下の言い分も解るが、相手はあのポンコツだ。まだ足りない。


「もっとですよ」


これ以上どうすれば、と陛下は頭を抱える。

普段は温厚で冷静沈着な彼とは思えない様子が、内心面白い。よくよく考えれば歳の近い男なんだ。何でも器用にこなせる訳じゃない。


「言ってない言葉があるでしょう」


ヒントを与えると、しばし眉を寄せて考えた後、陛下は気付いたようだ。


「お茶が入りました」


メイドではなく、姫さんがティーセットの載った盆を持って意気揚々と現れた。放っておくと休まない人だから、こうして休憩を促している分には、彼女は役に立っている。

彼女の顔を見て、陛下は表情を綻ばせる。


「ありがとう」


「いえ、これぐらいしかできませんから」


淹れられた紅茶を一口飲み、彼は話を切り出す。


「やることは山積みではあるが、少し落ち着いたな」


「はいっ、すべて貴方のお陰です!」


流石です、と心からの称賛を姫さんは贈る。君の力添えあってこそだ、と返してから話が逸れたと気付いた陛下はそうではなく、と咳払いをする。


「その……、そろそろだな」


「はい」


「君とちゃんと夫婦になりたいんだが」


意味を理解するために一拍置いた姫さんは、拳を握って気合いを入れた。緊張したように頬を紅潮させている。


「世継ぎですね! 生娘なのでばっ、ばっち来いとまではいきませんが、鋭意努力しますっ」


陛下が思いっきり机に頭を打ち付けた。ティーカップはそのままで溢していないのを流石というべきか。爆笑しなかった俺を褒めてほしい。

まだしばらくは飽きなさそうだ。


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