第36話 エピローグ


ガラニア暦 1399 年 四十二歳で王位を継いだアスタリオンが、

わずか在位十二年でこの世を去るまで、エミリアは彼を支え

リバルドの王妃として国に尽くした。


二人にとっては、” 早すぎる 別れ “ であり、運命はエミリアに

大きな悲しみをもたらしたが、まだ若い新王である息子を支え、

彼女はリバルドの王妃、また太后としてその後を生きた。



生前、彼女は一度も故郷を訪れなかったが、

晩年、病のため寝たり起きたりの生活の中、うつらうつらと過ごす彼女に

側仕えの者が声をかけると、決まってこう言ったという。

 

” 今、ムリノーに行ってきたのよ“


誰もが夢を見たのだろうと思っていたが、彼女の死後、

ムリノーを訪れた側仕えの一人は、驚いたという。


全てがエミリアがベッドの中で語った通りであり、

それは見てきたものでしか語れない事だったと。



” そこにはね、まだ若いウワミズザクラの木があるわ、

 壺はその根本に埋めてちょうだいね ”


彼女の死後、ムリーノーを訪れた側仕えだった彼は、言われた通り、

エミリアとアスター二人の遺髪の入った壺を、かつてノーズ公爵家があった

とされる場所に埋めた。

そこに建物があった痕跡などは全くなく、青い空を背景に今そこには

満開のウワミズザクラが、淡く濃く薄紅色にまわりを染めて立っている。


それははっとするほど美しく、桜の若木を中心に、

その場所は不思議な調和に満ちていたという。

眩いムリノー陽光の中で、若木は強く伸びやかに、どこまでもどこまでも

天に向かっていくように見えたという...... 。


・〜・〜 The End











   

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あの日からずっと、何度でも恋に落ちて 〜王太子の秘めた花〜  やまの紅 @ca16

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