コロナ様祭り!集団感染エイサーツアー

雨森 雪

第1話

「では、今年の神様の情報です。現在コロナ様が街中を悠々と闊歩しており、それに伴って全国の小中高等学校は休校を余儀なくされています。また、コロナ様の全身から放たれる瘴気が人体には尊すぎて有害なため、それを防ぐためのマスクが飛ぶように売れており、転売が相次いでいます」


「お母さん。マスクまだある?」


 私はそのコメンテーターの言葉を聞き、弾かれたようにテレビから顔を離し、台所でご飯の用意をしている母の方を向いた。


「だいじょうぶよ。まだあと2箱あるわ」


「そっかー。ならよかったぁ」


 ほっと胸を撫で下ろし、テレビに視線を戻す。


「そんな中、トイレットペーパーや生理用品が品切れになるといったデマがインターネット上で蔓延しており、非常に混乱しています」


「え!?」


 私は慌てて手元のスマホを操作し、コロッナーとうアプリを開く。

 

 そこでは色んな人が情報交換をして日常的にコロナ様の事を『呟いている』。


 開いてすぐ私の目に飛び込んできたのは空っぽになったトイレットペーパー売り場だ。


「大変だ」

 

 もはや現代においてトイレットペーパーはなくてはならないものだ。今更葉っぱの生活には戻れない。


 下にスクロールすると次に飛び込んできたのは空になった生理用品コーナー。


「コロナ様……。どうしてこんなもの奪うの?」


 私は思わず涙が出そうになる。幾らコロナ様が私たちの生活を牛耳っているとはいえ、最低限度の生活くらいは保障してくれてもいいじゃないか。


 いや、この件に関してはコロナ様は悪くないか。何にもしてないし。


「案の定、転売ヤー達はイキイキとしてるし」


 それによるお金儲けを絶対的な悪だと断じるつもりはないけど、良心は痛まないのだろうか? 同じ種族として嘆かわしいと思わざるをえない。


「どうやら今年の神様は少々元気がいいようです。コロナ様は古文書によると、ウイルスの神様として知られていて、コロナ様自身が途轍もないウイルスを保持しているんですよ。しかし、降臨した年はその甲斐あってか、物凄い医療が進むんですよね。私共も全力で取り組んでいます」


 テレビの中で、ニコニコしながら国際医療科学研究所の所長がそう語る。


「しかし、出来るだけ犠牲者は減らさなくてはなりません。現在、世界一丸となってワクチンを開発しております」


 彼がそう言ったのを最後にテレビ画面が切り替わり、コロナ様の全貌が画面いっぱいに映し出された。


「うへぇ」


 うねうねと動くビル三階ほどの大きさの芋虫が道路を進んでいく。きもちわるい。


「コロナ様は賢いのでキチンと道路を通るんですよね。物は壊しません」


「意外と可愛らしいですね」


 女性アナウンサーが僅かに顔をほころばせる。


「コロナ様の現在位置は新宿です。現在、東京都全域に外出禁止令が出されています。くれぐれも東京都にお住まいの方は外出しないようにしてください」


 


 


「大変だなぁ」


 いずれあれがウチにも来る。ここは大阪だからまだ大丈夫だけど、いざという時を思うと震えが止まらなくなる。


 私はクマのぬいぐるみを抱えるようにして抱きしめた。これを売っているテーマパークもコロナ様対策で現在は閉園中だ。


 かつての黒死病をまき散らした功績を称えて建設されたそのテーマパーク。毒を持って毒を制して欲しいのに、ネズミたちは「チュー」とも「ミー」とも鳴かない。


「ところで今年のお祭りはどんな風にやる予定なのでしょうか?」


 テレビの中ではアナウンサーが、出雲大社の宮司にそう質問している。


 神様が降臨した際に毎回行う『お祭り』の話だろう。


「コロナ様は街を移動しているのを見るに、人間の事が余程好きなようです。全国を練り歩き終わったら、終着地の沖縄でエイサーによって歓迎したいと思います」


「それはいい案ですね」


 満面の笑みで頷くテレビの中の二人。


「いや、感染するだろ」


 思わずツッコミ。


「以上、中継でしたー」


 ブツリ、とテレビの電源を切った。


 薄いカーテン越しに外を見る。


「神様に踊らされすぎだよ」


 ポツリと茜色の空を見上げる。


 神様が絶対的に正しい訳じゃない。


 マスコミが絶対的に正しい訳じゃない。


 1つだけ正しさがあるとすれば、それは自分自身だ。


でも、


 「今回はさすがにヤバい」


 マスクを三重にした口でモゴモゴと呟く。



「最高のコロナ様祭り。集団感染エイサーツアー近日開催」


 3日後、コロッナーにそんな文字が躍った。




 

 参加者は―———いなかった。



 思ったより日本人は頭がいいかもしれない。

  

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