守りたい、僕たちの思い出。

オリオン

守りたい、僕たちの思い出。

“今年の『わくわく祭り』は開催しないこととなりました。楽しみにしてくださっていた皆様申し訳ございません”


「えー! わくわく祭りやらないって書いてあるよー!」

「まじ!? 楽しみにしてたのに!!」

子どもたちは、島の掲示板に書かれた『わくわく祭り』の中止の知らせを見つめていた。

「こう兄ちゃ〜ん、何でやらないのー?」

この小さい女の子はゆき。毎年『わくわく祭り』のヨーヨーつりでかわいい笑顔を見せてくれる小学2年生の女の子。

「山田のじいさんがやらないって言ったのかー? このあいだ、こしがいたいってぼくのお父さんのとこに来てたもん」

この子ははやと。お父さんはこの島で唯一のお医者さん。島のおじいちゃん、おばあちゃんと大の仲良しな小学3年生の男の子。

「山田のじいさんも歳だもんな〜。祭りの企画はもうきついかー」

こいつは俺と同い年で中2のゆうた。

「ざんねんだなー。今年もわたあめづくりのお手伝いする予定だったのに〜」

この落ち込んでる女の子は俺の一個下のももで、はやとのお姉ちゃんだ。

「んー。残念だよなー…。何かできることがあったらいいんだけど…、開催しないって書いてあるし…」

俺はこうき。この島には子どもたちが俺達5人しかいない。そのこともあって皆仲が良い。皆で『わくわく祭り』に行くのが毎年の楽しみだった。しかし、この島には年配の方が多く、祭りを続けることは難しいようだ…。


ーー次の日。

「こうきー! ちょっと聞いてくれよー!!」

母ちゃんの手伝いをしているとゆうたが何か叫ぶように話しながら入ってきた。

「あー? どうしたんだよ、そんな興奮して」

「祭り! わくわく祭りだよ!」

「お前、忘れてたのか? わくわく祭りはやらないんだ…」

「わかってるよ! でも、先生にそのこと話したら小規模にはなるけど学校でお祭りをしてみないかって言ってくれたんだよ!」

「え!? まじかよ! 田中先生やるな〜! そうと決まったら皆に教えてやろうぜ!」

「こうきー! どうしたのー?」

「あ! 母ちゃん! わくわく祭り、ちょっと小さくはなるけど学校でできるかもしれないんだ! これ終わったら遊び行ってきてもいいか?」

「あら! 素敵じゃなーい! そんなの後でいいから皆のとこ行ってらっしゃい!」

「ありがとー! いってきまーす!」


「えー! わくわく祭りを学校でやるのー!」

「めっちゃ楽しそう!」

「協力してくれる人を集めて俺達でわくわく祭り、開催させてやろうぜ!」

田中先生の提案を受けて、俺達の『“ミニ”わくわく祭り』の計画が始まった。

「私、お父さんに頼んでわたあめ屋さんやるね! 飾り付けもお母さんが手伝ってくれるって言ってた!」

「私もかざりつけのお手伝いするー! ヨーヨーつりって私でも作れるのかな…?」

「ヨーヨーつりか…。魚釣りゲームじゃだめか?」

「さかなつりゲーム楽しそ〜! ゆうた兄ちゃん作れるのー?」

「よーし。ゆうたとゆきは魚釣り担当な! 飾り付けは皆で担当! わたあめ屋さんと飾り付けの主任がももでいいか?」

「うん! 頑張るよー!」

「こう兄ちゃん、ぼくは? ぼく何したらいい?」

「よし、はやとは顔が広いから俺と宣伝して、手伝ってくれる人を探しにくぞ!」

「わかった! ぼくそんなに顔大きいかな?」

「ははは! 島の皆と仲良しってことだよ」

「そっか! ぼくがんばるよ!」


 それから皆担当の仕事を一生懸命やった。田中先生も手伝ってくれて、当日も何かやってくれるそうだ。俺とはやとは最初に山田のじいさんのとこに行ってこのことを話した。山田のじいさんは泣いて喜び、フィナーレの計画を立ててくれることになった、どんなものだろう。感謝を告げた後、他の島の人々のところもまわって協力してくれる人や当日遊びに来てくれる人を募った。たくさんの人が協力してくれて、楽しみにしてくれるお祭り、絶対成功させるぞ!


ーーお祭り、当日。

「あらー、かわいいお魚! お魚釣り1回お願いします〜」

「おー! すごい魚がいっぱいじゃないか! 私も1回よろしくね」

魚釣りはゆきのかわいいイラストとゆうたのセンスあるイラストで大盛況のよう。

「親戚の子がお祭りに来てくれてねー。わたあめもらってもいいかしら?」

「はい! 少々お待ち下さーい!」

もものわたあめ屋さんも夏休みで遊びに来ていた子ども達やもものかわいさにやられたおじさん達に大盛況です。でも、1番人気なのは…

「はーい!焼きそば3つねー! ん?斎藤さんはじゃがバターかな?」

田中先生…。楽しそう。あんなに屋台が得意なら言ってくださいよ…。

「おーい! こうきー! ちょっと“屋台 TANAKA”の受付手伝えよー!」

“屋台 TANAKA”…。ダサいな。

「はーい! 今行きまーす!」

はやとは休憩スペースでおじいちゃん、おばあちゃん達とおしゃべりに夢中なようだ。皆を元気にできる力は親譲りかもな。


「おー。素敵な祭りじゃないか」

「あ! 山田のじいさん!」

「わくわく祭り、引き継いでくれてありがとう。素敵な祭りだね。車椅子でも入れるところでよかったよ」

「素敵な祭り! 嬉しいよ、ありがとう! 来年もわくわく祭り続けられるように頑張ったんだ」

「こりゃあ、祭りはやめられないな。わしも来年には腰を直して盛大な祭りを開いてやるぞ」

「ほんと! やったー! 俺達も手伝うからね。今年は俺達の祭り楽しんでね」

「あぁ、フィナーレは任せとけよ。最後のお楽しみさ」

「わぁ、楽しみだ! さっそく屋台でも行こうよ!」


 皆、いくつか屋台やお楽しみの場所で楽しんでくれた。小さいけどお祭りできてよかったなぁ、大成功だ。あ、そういえばそろそろ終わりの時間だけどフィナーレってなんだ?

「皆さん、“ミニわくわく祭り”に来ていただき、ありがとうございます。フィナーレのお時間となりますので、校庭にお集まりください」

校庭…? フィナーレは外でやるのか。

「お集まり頂きありがとうございます。それでは校舎と反対側空をご覧ください!」

ん? 空…

“ドーン! パラパラパラ ドーン ドーン”

「わー! 花火だー!」

「すごーい! きれーい!!」

「え? 花火! 山田のじいさん、フィナーレって花火だったの!!」

「あぁ、知り合いの花火師に頼んで打ち上げてもらったんだよ。素敵なお祭りをもらったからね。さぁ、花火も楽しもうじゃないか」

「ありがとう、じいさん」


皆で作ったお祭りも、山田のじいさんの素敵なフィナーレもかけがえのない思い出。

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守りたい、僕たちの思い出。 オリオン @orion-ringo

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