最高のお祭りって処刑だったよね

きつねのなにか

魔女狩り

「イヤーーッホゥ!」


僕が訪れた国の首都では

『ウルトラスペシャルミラクルメイクアップスーパーハイパーサムズアップフェスティバル』


という、何が何だかわからない名前だけどきっと最高潮に盛り上がるだろうお祭りが中央広場で開催されていた。


そこかしこに出店が出ており、人もごった返すほどの賑わいを見せている。あ、あの風船で人形作るやつちょっとほしいな……。


おっといけない、思考がそれた。まずは話でも聞いてみようか。


「あの、そこの出店のホットドッグ屋さん。このお祭りは何で開催されているのですか?」


僕がそう尋ねると


「イヤーーッホゥ!ああ、旅の人。ここの国の最後の魔女が今から処刑されるんだ。イヤーーッホゥ! お前さんもこのホットドッグを食べな!お代はいらねえぜ!イヤーーッホゥ!」


そう返ってきた。

うん、何言ってるかわからない。魔女狩りが終わるという意味なのかな。そうか……


この世界は魔女が存在する。それはもう当たり前のことなんだけど。

魔女は常に虐げられてきた。その悪魔の力、その知識、普通の者とはけた違いに持っているそれらが人々に畏怖を呼び起こしていたからね。


僕は人込みをかいくぐって広場の中心にまで近づく。そこにはそれはそれはひどい仕打ちを受けたであろう美女が磔にされていた。意識はなくぐったりしているようだ。


「うーん、綺麗だ」


「そうだろう、旅の者よ、この美貌と魔の力でこやつは王の側近にまで上り詰めていたんだ。国を傾かせようとする糞忌々しいネズミだった。だがもう終わる。今日の処刑でな!」


名も知らないおっさんAがそう答えてくる。説明オジサンありがとうございました。


「僕は異国の者なのでわからないのですけど、魔女ってそんなに悪い存在なのですか?僕の隣の国ではてをとりあ――」


僕そう言いかけると


「スターーーーーーーーーップ! 貴様魔女の崇拝者か!?」


スタップ守衛さんが猛烈に割り込んできた。お前一体何なんだ。

僕はその場をなんとかやり過ごし、ぐるりと広場を回る。

……ホットドッグにピザ、ハンバーガーなどを食べて回るだけになったが、まあ良い。時間はつぶせた。


どうも処刑の時間になったようだ。王の演説や宰相の独演会を聞きながらずっと魔女のほうに視線を送る。


「やはり綺麗だな……」


ぼそっと呟く。


「うんたらかんたらかんたらうんたら、ということでいよいよ火あぶりの刑に処す!こやつにギロチンはもったいない、ギロチンは高貴なものにしか与えられることのない栄誉であるからな。この腐れ外道には火あぶりという最大の責め苦が一番似合う!!」


一気に会場が盛り上がる。怒号罵声が魔女に飛び掛かっていく。


この状態になってやっと魔女は気を取り戻したようだ。絶望した顔で周りを見渡した後、小さく何かを呟いてから――それが何なのかは周囲の声でかき消されてしまったのだけれども――うなだれてしまった。


松明から火あぶりの燃料に火が移される。

うめき声と最高潮に盛り上がる民衆の歓声を背に、僕はその場を後にしたのだった。




「で、ですよ。僕があなたを助けた理由ってわかりますよね?」


「――生き恥をさらさせるためでしょ」


「ひっどいなーひどい。大体なんであなたを助けられたか、その理由もわかっているわけでしょうに」


「魔法で私の転移そして身代わりを作ったのよね。魔法が使えるということはあなたも――」


「ええ、魔女です。余には珍しい男性魔女なんですけれども。この風貌を生かして虐げられている魔女の救済をしてまわってます」


「そう。私はもうここにはいられないわ」


「そりゃそうでしょうね。――よろしければ、魔女の組合を作っているのですがそこに加入して、魔女を必要とする国へ派遣されてくれませんか」


「悪くないかもしれないわね。でも、少し時間を頂戴」


「どうぞどうぞ。いくらでも時間はありますから」


こんなことをやっていたら、この組合が世界組織になってしまったよ。


僕の話はここまでなんだけど、さっきの国がどうなったかっていうと、あの一帯にとてつもない伝染病が襲い掛かってきてね、唯一伝染病を治すことができる、魔女の力を借りることができずに無くなっちゃったよ。うーん慈悲深い世界だ。

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最高のお祭りって処刑だったよね きつねのなにか @nekononanika

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