最高のお祭りを目指して

結葉 天樹

ただいまお祭り企画中

「なあ達也ー。最高のお祭りって何だと思う?」


 隣で机に突っ伏した明宏が顔だけこちらに向けて聞いて来た。


「最高のお祭り?」

「いや、学校祭の実行委員に選ばれちまって」

「ああ、さっきのホームルームか」

「ちょっとサボっただけで俺にするなんて、みんな酷いと思わないか?」

「すまん。俺も加担した」

「お前もかよ!?」


 言っては何だが、そんな面倒な役回りはよっぽどの変わり者じゃない限りやる奴はいない。病欠ならさすがに慈悲はあるが、コンビニとホームルームを天秤にかけた奴にかける慈悲などない。


「その時間にいないお前が悪い」

「全ては限定タピオカパンが悪いんだ」


 そんな力説されても……って言うか何だそのパン。気になるぞ。


「タピオカと言えば、去年の学校祭の時のタピ屋は凄かったと聞いたぞ」

「確かに。タピオカなんて毎年どこかのクラスがやってたけど、去年はマジで凄かった。やっぱJKじぇーけーの流行ってバカにできないな」


 流行りに乗って三年の模擬店全部がタピオカ屋で出店希望出した時はさすがに先生も頭を抱えたとか聞いた。


「つってもよー。さすがに今年は無理じゃね?」

「例年より多少は売れるかもしれないけど、話題性には乏しいな」

「だよなあ……学校丸ごとタピオカ祭とかにでもしないとダメか」

「それはそれで話題にはなるけどな」


 教育機関としてさすがにそれはどうなのかと言われそうだ。


「今年の流行したものでも使うか?」

「今年の流行りか……?」


 と言っても、まだ二〇二〇年も半年も経っていない。上半期で流行したものと言えば……。


「コロナウイルスか」

「絶対にやめとけ」

「今話題の新型コロナウイルス。お金の音がチャリンとなれば、たちまち心も体もポッカポカ」

「それ発熱しているだけだからな」


 ついでに不謹慎だと炎上しそうだ。


「みんなでコロ友」

「殺し合う友達みたいな響きになってるぞ」

「それとも『タピる』に対抗して『コロす』で行くべきか?」

「そうじゃねえよ」


 そもそも、コロナウイルスの感染が判明した途端に学校祭も中止になるんじゃないだろうか。


「来校したお客さんたちが楽しめたり、得できたりするものとかどうだ?」

「ティッシュかトイレットペーパーのつかみ取りとか?」

「コロナウイルスから離れろ」


 そもそもそれはデマ情報だ。二月の終わりごろに流れたティッシュやトイレットペーパーの品薄情報のせいでうちも酷い目に遭わされた。


「うあー、難しい」


 再び明宏が机に突っ伏す。


「せっかくやるならさー、記憶にも記録にも残るものにしたいじゃん?」

「その気持ちはわかるけどな」


 昔は高校に入ったら学園祭みたいなもので思い切り楽しめると思っていたが、現実は甘くなかった。

 あれは駄目これは駄目と予算が足りなかったり、企業の協賛が得られなくて企画自体が潰れたり、日程の関係やら警察や消防への届け出やら制限が多い。

 結果、できることが限られてしまって毎年代わり映えのしない催し物ばかりでお客さんもそれほど増えない。

 先生によれば教育活動の一環なのだからそれでもいいようだが、生徒側としては一度でも大きなことをしたいと思うのは当然じゃないだろうか。


「先輩たちは部活もこれで引退だし、最高のお祭りにして受験モードに突入したいじゃん?」

「ん? 自分が楽しむためじゃないのか」

「そりゃ自分が楽しめるに越したことはねえさ。でもお祭りは一人じゃできねえだろ? 作る側も楽しむ側も満足できてこそだと思うぜ」

「……ちょっと見直した」

「なんだよ?」


 そう言うことなら俺もこいつが楽しませようとしている一人として協力してみるか。


「明宏、俺も実行委員に――」

「あ、デマ流してみんなでそいつを吊るし上げるゲームとかどうよ?」

「だからコロナウイルスのネタから離れろ」

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最高のお祭りを目指して 結葉 天樹 @fujimiyaitsuki

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