史上最恐の悪役令嬢には婚約破棄を申し込んだ王子ですら敵いませんわ!

天笠すいとん

史上最恐の悪役令嬢には婚約破棄を申し込んだ王子ですら敵いませんわ!

 

 ガルベルト王国の王都。

 その中で一番豪華であり、広大な敷地面積に建てられた建物。ガルベルト城。

 本日は国中から貴族達が集められ、煌びやかな舞踏会が開催されていた。


 一流の音楽家達が演奏する音楽に合わせて貴婦人達が楽しそうに踊り、美味しそうな料理や熟成されたお酒が振る舞われていた。

 会場にいる誰もが宴の熱気に包まれていて気分が高揚している。


 そんな会場でただ一人、つまらなさそうにしている人物が居た。


「はぁ、退屈ね……」


 溜め息を漏らすだけで絵になる女性だった。燃えるような赤い髪、ルビーのような紅色べにいろの瞳、ドレスだって赤を基調にしている。

 存在そのものが熱を放つ彼女だが、その心中は冷めていた。

 シャイナ・レッドクリムゾン公爵令嬢。

 国内でも随一の領地を持つ貴族の一人娘である彼女は、暇を持て余していた。

 間も無く成人を迎える彼女には婚約者がいるのだが、その姿が影も形も見えないのだ。

 本来、パーティーであれば男性側が女性を家まで迎えに来てエスコートするのだが、ジャイナは一人でこの城までやって来た。


「本当にどこ行ったのかしら?」


 イライラとした表情でシャイナが呟くと、近くにいた貴族達が蜘蛛の子を散らすように離れて行った。


「みんな、よく集まってくれた!」


 シャイナの周辺の気温が下がる中、よく通る美声が会場内に響いた。

 音楽はいつの間にか鳴り止んでいた。


「王子だ」

「ジーク様……」


 会場中の注目が一箇所に集まる。

 その先に居たのは金髪碧眼のイケメンだった。

 野性的にカットされた髪、自信に満ち溢れた顔で口角は吊り上がっている。

 将来的にこの国を背負う男、ジーク・ガルベルト。

 シャイナの婚約者である。


「今日集まってもらったのは皆に知らせたい事があったからだ」


 ツカツカと歩くジーク。それに合わせるように人垣が割れていく。

 そしてそのままシャイナの元にやって来た。


「やぁ、調子はどうだ?シャイナ」

「最悪ね。迎えも無しで会場でもひとりぼっちよ」

「それは良かった」


 ニヤリと笑うジークに対して更に不機嫌になるシャイナ。

 このやりとりや光景は貴族達には見慣れたものだったが、険悪さに当事者ではないのに胃が痛くなる人間もいた。


「実はシャイナに紹介したい人物がいる。おいでメリッサ」


 おずおずと現れたのはシャイナとは真逆の雰囲気の可愛らしい少女だった。

 あどけさが残るが、潤んだ瞳が庇護欲をそそって男ウケしそうな容姿だ。


「紹介しよう。メリッサ・マーベル男爵令嬢だ」


 メリッサの肩を抱き寄せるジーク。

 まるで自分との仲をシャイナに見せつけるように……否。実際に見せつけているのだ。


「シャイナ。貴様はこのメリッサに酷いことやイジメをして彼女の身や心を深く傷つけたようだな!証言は集まっているぞ」


 周囲の貴族から驚きと納得の両方の声が出る。

 シャイナの世間一般からの評価はあまり良くない。本人の見た目が恐ろしいのもあるが、愛想も悪く、弱い者を痛ぶる性癖があると噂されている。

 ジークが集めたという証拠の書類にはメリッサの病院での診断結果や、現場を見たという生徒からの目撃証言がこと細く纏められていた。


 その労力を他に活かせないのかしら?とシャイナは思ったが、話が拗れそうなので沈黙を選んだ。


「反論しないという事は認めるんだな」

「さぁ?」

「ふざけるな!」


 会話すら面倒だと思ったシャイナの態度にジークは激昂する。

 手に握る書類がくしゃくしゃになる程度に拳には力が入っていた。

 涼しげな顔になったシャイナと顔を赤くするジーク。間に挟まれたメリッサはオロオロするが、シャイナがひと睨みすると縮こまってしまった。


「前から思っていたが、貴様のような奴を俺の婚約者とは認めない。所詮は親が決めた事だ」


 ジークとシャイナの婚約は幼い頃に国王とレッドクリムゾン公爵との間で本人の意思に関係なく結ばれ、実行された。

 ジークは激しく拒否したが、シャイナは家の為、国の未来の為にと受け入れたのだ。

 そうして二人は婚約者となった。


「この場で宣言する。俺はシャイナ・レッドクリムゾンとの婚約を破棄させてもらう!!」


 メリッサへのイジメを公表した時以上のざわつきが広がる。

 それもそうだろう。こんな貴族達が大勢いる前で言うなんて記録にも残るし、瞬く間に国中に情報が拡散されてしまう。

 王子に婚約破棄されたとなればシャイナの株は急降下。今後のレッドクリムゾン家の運営にも影響を与えてしまう。

 それが分からない程ジークは馬鹿ではないとシャイナは考えたが、すぐに否定した。


(この王子は現国王の最初にして唯一の後継者。たっぷり甘やかされて育ってきたから我儘の馬鹿だったか)


 愛妻家だった国王は後妻を選ばなかった。

 その代わりにジークにはあらゆる手段を使って英才教育を施し、欲しい物を与えてきた。

 その結果がこの婚約破棄だ。


 でも、このまま引き下がるわけにはいかない。

 シャイナは怠そうに、しかしながらハッキリとした怒りを込めて言った。


「婚約破棄をするというなら、この国のルールに従ってもらいますわ」
























 数日後。

 ガルベルト王国の王都で二番目に巨大な建物に大勢の人間が集まった。

 参加したのは貴族達の他にお金持ちの商人や国の将来を担う少年少女達だった。勿論、有料で。


『本日はお集まりいただきありがとうございます!』


 審判のアナウンスが闘技場コロッセオ内に響き渡る。

 会場の盛況っぷりにシャイナは呆れていた。


「よくもまぁ集まるわね。暇人なのかしら?」


 人、人、人、人。空席が全く無い。

 そんなに悪役令嬢と呼ばれたシャイナが負けてしまうみすぼらしい姿が見たいのだろうか?

 だとしたら民度が低い。趣味が悪い。


 ガルベルト王国は軍事力に優れた国であり、戦争では常勝無敗。敵に回してはいけない国というのが周辺国家の常識だ。

 その強さの秘訣は騎士達の実力の高さにある。

 貴族の若者や一般からの試験を突破した者達は等しく騎士育成学校に入学し、厳しい鍛練と模擬戦を繰り返して戦いを学ぶ。

 国民の娯楽として各地には闘技場が建設され、あちこちに武術道場が立ち並ぶ国だ。


 男性であれ女性であれ、戦闘に熱狂するガルベルト。

 シャイナとてその例外ではなく、騎士育成学校で剣を学んだ。

 でもそれは王子との婚約破棄の為なんかでは無かったはずだ。


『青コーナー!正義の為に立ち上がった我らが王子!ジーク・ガルベルト!!』


 観客の女性陣から黄色い歓声が上がる。

 容姿端麗であり、実力者でもあるジークは人気者だ。


『ジーク王子はメリッサ男爵令嬢のために今回の決闘を申し込まれたそうです。意気込みは十分ですしベストコンディション。軍を任されている将軍からもお墨付きを頂いています。グッズも完売。会場の中に入れなかった女性陣の声が外から聞こえそうです』


 観客に手を振るジーク。

 城での舞踏会とは違って、今日は動きやすい軍服を着ていた。腰には1本の剣がある。


「逃げなかったのかシャイナ。今日、この場で貴様は終わりだ!前からずっと言ってやりたかったんだ。……その服、似合って無いぞ」


 その服、とジークが指差したのはシャイナが着ている白と限りなく薄いピンクのバトルドレスだった。

 スカートは短く、しかしながら中は見えないようにタイツを履いている。上半身には薄いプレートメイルの鎧という姿。

 由緒正しいレッドクリムゾン家の勝負服だ。


「別になんとでも。新調するのが面倒なので使いまわしているだけよ。舞踏会のドレスより高価だからこの服」


 シャイナの腰には1本の刺突剣レイピア


『赤コーナー!最恐と名高い悪役ヒール!シャイナ・レッドクリムゾン!!』


 審判の紹介があったので、シャイナは剣を抜いて空に掲げた。


「「「うぉおおおおおおおおおおおおお!!」」」


 ただそれだけの動作で闘技場が揺れる。


『売られた勝負は全て買う。逃げるという文字は辞書に無い!常に勝ち続け、男女の壁を無視した女騎士!!最近では将軍に剣の稽古をしてあげている我らがチャンピオン!レッドクリムゾン公爵家の中でも歴代最強の称号を獲得した剣姫だ!!グッズは作れば片っ端から売れる大人気。近寄り難い雰囲気で恐れられているが、実はファンが奥手なだけ。試合も国中に中継されています!』


「シャイナちゃーん!!」

「シャイナお姉様〜」

「よ、最恐にして最強の剣姫!」


 次から次へと野次が飛んで来る。

 いつもの事ではあるが、この熱気には慣れないと思うシャイナだった。

 対するジークは人気で完敗しているせいか、苛立ちを全身から発していた。


「ぐぬぬぬ!」


 いや、口で言ってた。もう試合前から負け犬だ。


「ジーク王子。試合が始まる前に降参したら?」

「そんな事はしない!誇り高き王族の一員として、俺は貴様に必ず勝つのだ!!」

「その台詞は聞き飽きたわ」


 シャイナがジークからの決闘を挑まれて何度も聞かされた言葉だ。

 年に一度はこうして勝負をしている。

 舞踏会より武道会。貴族達からしたらメリッサは割とどうでも良い。

 この二人の決闘は一番の注目対戦カードなのだ。


『ルールは単純で相手を倒す事。殺しは禁止な。降参もありだぜ!そして勝利報酬だが、ジーク王子が勝てば婚約破棄。シャイナ様が勝てば婚約者を続行だ』


 この国でのルール。



 それは決闘による恋愛の公認。



 身分が違えども相手に勝利すれば恋の成就は法的に認められる。

 欲しい者は己の力で手に入れろ。嫌ならば強くなって断れ!

 なお、決闘にはお互いの了承と国が指定した審判への申請とその他諸々の手続きが必要です。


「この手際の良さ。前から企んでましたわね?」

「何の事だかわからないな!」


 惚けるジークと、やっぱりこの情熱を他に活かして欲しいと思ったシャイナだった。

 とんだ迷惑なお国柄もあったものだと呆れてしまう。


 最初は冗談のつもりだったのだ。


 幼いシャイナは将来の王妃になる為に育てられてきた。その事に不満な無い。貴族だから。

 他に候補者がいたが、シャイナは全て倒した。

 父からの指令を実行しただけ。これでレッドクリムゾン家は王妃の実家として莫大な利益を得ることができる。

 そしてその利益で更なる金儲けを企んでいた。

 別に公爵が金の亡者というわけでは無く、戦争時の借金返済のためだったりする。


 シャイナが婚約者に選ばれた事で万事解決のはずだった。

 しかし、ジークだけはそれを拒んだ。

 そして年に一度の決闘を繰り広げて今回に至る。


『それでは、デュエルスタート!!』


 決闘の開始を知らせるゴングが鳴る。

 ジークの剣はこの国で一番有名であり、手堅く強いとされる流派。

 傲慢で派手好きの彼からは考えられない堅実な戦いだ。


 シャイナは刺突剣を構えたままひらりと攻撃を回避する。

 いくらシャイナが強くても男女ではパワーの差が出てしまう。

 一度でも重い攻撃を受ければ戦闘不能になるが、いくら攻撃しても彼女には当たらない。


「おのれ!ちょこまかと!」

「如何ですか私のステップは?」


 剣舞を披露するかのように攻撃を躱すシャイナ。汗一つかかずに動き回るその姿はまるで妖精。


「舞踏会でも踊るのを楽しみにしていたのに」

「はっ。退屈そうにしていたくせにどの口が!」


 つまんないわ、とシャイナは思った。

 からかってもジークの猛攻は止まらないし緩まない。

 昔は嫌味を言うと素直に受け止めて謝ってきたのに。


「そうだ。メリッサさんだったかしら?可哀想に。後でお仕置きしなきゃいけないわ」

「彼女は関係無い。俺が勝手に調べて巻き込んだだけだ!」


 剣撃を交えながら会話する。

 常人には到達しえない最高峰の戦いだった。


「でしょうね。彼女から私に教えをせがんで来て気紛れに指導したら怪我して挫折しただけだもの」

「貴様の物差しで常識を考えるな!メリッサ嬢には相応しい指導者を紹介してある」


 ジークの集めた証拠は本物だ。シャイナもそれは理解している。

 ただ、もっとよく調べたら真実は明らかになっただろう。シャイナについていけない者がいるのは別にいつもの事だし。

 上を目指す事を諦めた人間に輝かしい未来は無い。あるのは停滞か衰退のみ。

 成長の為にしごいて痛めつけたが、メリッサは残念ながら化け物になる資格が無かった。

 とはいえ、この国の人間なので闘技場内に普通に居る。手にはシャイナの名前が刺繍されたタオルが。


「私のファンみたいね。残念だったわねジーク王子」

「気にしてなどいない!観客も他の女も関係無い!貴様は俺が倒す。それだけだ!」


 煽りも効果無し。いつにも無く真剣な状態だった。

 騎士育成学校を卒業し、成人すれば自動的に結婚式の準備が始まり、二人は夫婦になる。

 そうなってしまえば次期国王の離縁なんて外交的にも内政的にも難しいし、不可能に近い。

 故にルールに則って合法的に婚約を破棄してもお祭り騒ぎで済む今しか無い。

 シャイナはあと少しの我慢だが、ジークには残り僅かなチャンスなのだ。


「はぁああああっ!」

「いやあっ!!」


 カンカンキンキン!ズバズバ!!

 火花飛び散る熱い戦いに場内の温度が上がる。観客のボルテージはマックスだ。

 そのおかげでレッドクリムゾン家の領地で生産されたエールがよく売れる。

 シャイナの実家まで今回の件に一枚噛んでいた。


「トドメだ!」


 堅実な攻撃を繰り返してきたジークの動きが変わった。

 いつもの彼らしからぬ荒々しい太刀筋。

 シャイナの知らない流派の技だ。


「くっ」


 初めて赤い悪魔から苦悶の声が漏れた。

 いつも戦ってきた相手だから攻撃パターンが読めたのに、自分の戦闘スタイルすら曲げて虚を突く小手先の技を使うなんて。


「もらったぁ!!」


 勝利を確信したジークの顔が歓喜に染まる。

 遂に負け続けた相手に勝てると


「私の事が嫌いなのジーク?」


 普段のシャイナらしからぬしおらしさ。怯えるような弱々しい声。潤んだ紅い眼。

 ジークの知らない美少女が現れた。


「あら。やっと反応した」

「っ!?」


 たった一瞬。

 されど一瞬。

 シャイナ程の達人を前にしては致命的な躊躇だった。

 振り下ろした剣は地面に突き刺さり、シャイナはそれを踏み台にして跳び上がった。

 剣を引き抜こうにも、渾身の力と剣姫の体重で剣身が半分も埋まっては簡単には抜けない。

 空中で一回転したシャイナは鮮やかに着地すると同時に、刺突剣の剣先をジークの首筋に当てた。


「卑怯者め」

「あら、私は悪役ヒールですわよ?」


 悔しそうにジークは両手を剣から手放し、参ったと審判に宣言した。


『試合終了!勝者はシャイナ・レッドクリムゾン!!なんとも恐ろしい女騎士の勝ちだ!また最強神話に新たなる一ページが刻まれた!!』


「「「うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」」」


 今日一番の歓声と熱狂が闘技場に生まれた。

 素晴らしい戦いを魅せてくれた二人を称える拍手がしばらくの間鳴り響くのだった。


























 闘技場の控え室。


「焦ったわ……」


 荒々しい息を整えるシャイナ。

 べっとりと汗をかいていた。

 闘技場を去るときには涼しい顔をしていたが、控え室に入るやいなや椅子に倒れ込んだ。

 立ち上がるのにはしばらく時間がかかるかもしれない。


「あと何回……やせ我慢すれば良いの?」


 実際の所、シャイナの強さは限界だった。

 将軍に勝ったのは事実だし、刺突剣についてはシャイナが一番の使い手なので、その対抗策を考える為の指導をしたのは事実。

 しかしながら、男女の壁はそれだけでは埋まらない。ルール無用の殺し合いならばシャイナだって手段を選ばない戦法で勝てる。相手を揺さぶり、蹴落とすのは得意だ。

 ただ、決闘となれば話は変わる。殺しは厳禁で、下手な手を使えば悪役どころか決闘を汚した罪人だ。


 相手も悪い。ジークは伸び代が高く、まだまだ強くなる。シャイナの見立てでは数年以内に抜かれてしまう成長スピードだ。

 だからこそ負けないように限界地点の力を常に維持できるように鍛え続けている。


「王妃になるまでの我慢。婚約破棄なんてさせないわよ」


 シャイナにも意地と執念がある。

 自分に負けっぱなしのジークに負けたくない。

 それに今回は自分を放っておいてメリッサの心配をしていたのだ。

 肩まで抱き寄せて生意気な。

 さっさと諦めて大人しくしていれば悪いようにはしないのに。

 自分と真逆の女の子がタイプなのだろうか?

 自分には魅力が無いのか?


 最初に決闘を挑まれた時からシャイナには不安がある。

 悲しいという気持ちだ。


「あんなに婚約破棄したがるなんて、ジークは私の事が嫌いなのね。……私は最初から好きなのに」


 他に誰もいない控え室で漏らした言葉が、この少女の偽りない本音だった。









 一方で、ジークの控え室。


「ま、また負けた……」


 タオルで汗を拭き、水で喉を潤す。

 地面に刺さった剣は付き人の騎士に回収と手入れを任せて一人で控え室に戻ってきた。


「あれは卑怯だぞ」


 今回の決闘で逆転の一手になったシャイナの行動。

 思い出すだけで腹立たしい。


「今まであんなシャイナの表情なんて見た事ないぞ!!」


 苛立ちから地面に叩きつけたタオル。

 そこにはしっかりとシャイナ・レッドクリムゾンと刺繍がしてある。今回の限定グッズだ。


「いつもいつも俺の動揺を誘おうとして!耐えても更に上を行く……」


 その度に自分を鍛え直してきた。

 親が決めた勝手な婚約を破棄する為に。


「俺が勝たねば格好つかないだろうが!!」


 自分を叱責する。

 時間が無いのだ。今のままでは婚約者に負け越して親の言う通りに甘やかされて育ったお飾りの王になってしまう。

 ジークだって男だ。好きな女性には情け無い所を見せたくないし、愛している証拠を証明したい。


 最初に紹介された時から一目惚れなのだ。

 次に見た剣筋に更に深みに嵌った。

 いつしか昼も夜もシャイナについてしか考えられなくなった。


 でも、弱いままだと格好良くないので普段はツンツンした態度を取ってしまう。

 本当はイチャイチャしたい。ベトベト触り合いたい。

 みんなにシャイナの可愛さと凄さを自慢したい。


 だがしかし!それらは全て勝利の先の事だ。


 勝って婚約破棄をして、改めて告白する。

 そしたらシャイナが嫌がろうが何をしようがジークが勝てば拒否出来ない。

 それがジークの理想だ。

 その為に色々な手や理由をつけて勝負を仕掛けた。今回のメリッサだって偶々見つけて使えそうだったから大袈裟にした。

 彼女は観戦チケットとシャイナグッズの進呈、新しい道場の紹介で買収した。


「まずは将軍を倒して、そこから再戦だな。時期的にも次が最終決戦だ……」


 痛む体、疲れた体に鞭を入れてジークは室内で筋トレを始めた。

 愛する者のために立ち止まっている暇なんて無いのだから。

















 数年後。誰も勝てない史上最強にして最高最善の王が誕生する事になる。



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