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 そして、その次の日。


 べニーズのライブの日だ。よく考えたら、正式なカップルとなって最初のデート。今回はさすがに制服というわけにはいかない。ぼくは自分の持っている私服の中でも特におしゃれそうなヤツを選んで、ネットの情報を参考にしてコーディネートした。


 当日は、会場の市民ホールに現地集合。今回はぼくの方が早かった。いつもなら高科さんの方が先に来ているはずなのに。


 だけど、よく考えたら、彼女の私服を見るのは初めてだったりする。あ、もちろん演奏会用のドレスはこの前の川村先生のリサイタルの時に見たけど。まさか、あんなのライブに着て来ないよな……


 待ち合わせの時間ギリギリになって、ようやく彼女は現れた。ベージュっぽい色の、花柄のワンピース。ちょっと大人っぽい感じだけど、よく似合ってる。それに……髪型が、ポニーテールになってる……初めて見た……意外にかわいい……


「ごめん……待たせちゃったね。着ていく服がなかなか決まらなくて……」


 そうか。高科さんも、服選びに苦労したみたいだ。


「どう? 変かな?」


「そんなことないよ。すごく似合ってると思う」


 ぼくがそう言うと、彼女は照れ臭そうに微笑む。


「えへへ……ありがと」


 やばい……胸キュンモードだ。かわいすぎる……思わず抱きしめたくなっちゃうよ……


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 会場は1500人が入る大ホール。さすがに広い! だけどチケットは完売だそうで、もう観客がぎっしりと入っている。客層は……若い人が大半だけど、中年と呼ばれるべき人たちも結構いる。


 いきなり会場が暗くなり、オープニング曲のイントロが流れ始めると、とたんに会場が一気に歓声に包まれる。レーザー光線が飛び交い、イメージ映像がスクリーンに映し出される。こんな演出、クラシックのコンサートじゃあり得ないよなぁ……


 スポットライトがべニーズのメンバーたちの姿を浮かび上がらせると、会場に満ちた歓声がさらにヒートアップする。隣の高科さんはどうだろう、と見ると、さすがに歓声を上げたりはしていないけど、もう目がキラキラと輝いていた。


 アップテンポな曲が続いた後で、MC。そしてスローバラード。客席も一気に静かになる。この一体感。すごく心地よい。


 そして、ぼくが一番好きな「アスタリスク」。やっぱりこの曲は盛り上がる。自然に手拍子が始まって、ぼくも高科さんも知らず知らず手を叩いていた。


 演出もすごい。スクリーンに映される映像が、どれも曲にすごくマッチしている。時々メンバーのアップや会場内のカメラの映像になるのもよかった。


 あっという間に最後の曲だ。それが終わってメンバーが舞台袖に消えても、拍手は収まらない。やがてそれがぴったりと揃っていく。アンコールだ。ぼくも力の限り手を叩き続ける。


 やがて、メンバーたちが再びステージに登場する。ものすごい拍手! メンバーたちの演奏準備が整うと、拍手はピタリと止む。


 アンコール曲はファーストアルバムのタイトル曲だった。マイナーだけど、メンバーたちの思い入れがこもった曲だという。それが終わると、また万雷のような拍手。二度目のアンコール。そして、メンバーたちが三度ステージに現れた! そして始まったのは……聞き覚えのあるドラムソロ。こ、これは……


 ベニー・グッドマンの「シング・シング・シング」! ヴォーカル入りだが、彼らなりのアレンジが加えられていて、めちゃかっこいい。いやしかし、ここでいきなりジャズのスタンダードをぶっこんでくるとは……


 観客はもう総立ちだ。ぼくも思わず立ち上がって、全力で手拍子を打っていた。もちろん高科さんもノリノリで体を揺らして手を叩いている。


 演奏が終わった。今までで最大級の拍手の後、メンバーが舞台袖に消える。三回目のアンコールが始まるが、会場の照明が明るくなるとそれも自然に収まり、観客は帰り支度を始めたようだった。


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