第28話 父との再会
「あ……おかえりなさい」
「ふう~おまえが電話で急かすから大急ぎで帰ってきたよ。で、なんだ? その驚くことってのは?」
部屋に入った父さんと目が合った。やっぱり変わらないな……
ワイシャツを着て、ストライプのネクタイをして、少し白髪混じりで、いかにも優しそうなおじさんといった雰囲気の父さんだ……
「こちらの方々は?」
「父さん……うっ……」
一言呼んだその瞬間、自分でもわからないくらい色々なものが溢れてきた……
ポロポロと流れてきた涙が頬をゆっくり頬を伝う。
覚悟していたのに……嬉しくて嬉しくて、声も出ない……
「え? 父さんって……」
「セシルさん、この人に説明お願いします」
「わかりました……」
「本当に、本当に……レンなのか?」
「今話してもらった通りだって」
「そうか……」
「!?…………」
僕自信とりあえず落ち着きを取り戻し、最初は混乱していた父さんも、セシルさんの説明を聞いて僕がレンだとはっきり信じてくれたようだ。
そして、母さんと同じように僕を抱きしめてくれた。小さかった頃の記憶が蘇る……高いものを取る時とか、近くの公園で遊んだ帰り道、こんな風に抱かえられていた……
成長してからはそんな機会は無くなったが、母さんとは違った力強い腕の感触……それは今でも覚えている。
「ずっと……また、会いたかったよ……」
「父さん……」
そのまま少しの間、僕たちは言葉も発さず、互いの背中に回した手に力を込めていた。
「お父さん、今のレンは女の子なんだからそれぐらいに……」
「あ、ああ……そうだな」
しばらくして母さんが声をかけ、離れる僕と父さんの身体。
僕としてはあまりそういうの気にしないから別にいいが、父さんが申し訳なさそうにしてるから、とりあえず……そうしておこうか。
「しかし、本当にそんなことがなあ……」
「まだ信じられない?」
「いや、そういうわけではないが……わかっていても理解が追い付かないという感じで……」
「無理もないよね、ゆっくり落ち着いてよ」
「ああ……」
胸に手を当て深呼吸をして自らを落ち着けようとする父さん。僕の記憶では何があっても落ち着いて、どっしりと構えている人だったから、こういうのは初めて見る姿だ……
僕と会ったとき、どちらかというと母さんの方が冷静になっていた。これが素の父さんなのかも。
「……!」
「どう? 少しは落ち着いた?」
「これがその魔術ってやつなのか……」
「そうだよ。これでもっとはっきり信じてもらえたでしょ」
僕は道具なしでも使える簡単な精神操作の術式を発動させ、胸にあてた父さんの手に自分の右手を重ねる。元々魔術を扱う向こうの世界の人とこちらの人では耐性が違うため、本当にごくわずかの力でするよう注意する。
そのまま数秒、やがて呼吸も心拍数も戻り、落ち着きを取り戻した父さんに対して微笑みを向けた。
「よくわかったよ、それにしてもな……」
「ん~?」
「かわいいな、お前……」
「……それは自分でもわかってるよ」
こんなことが言えるならもう大丈夫だろう。僕はリビングの椅子に座り、母さん、そして一通りの説明をしてくれたセシルさんに対してアイコンタクトをした。
そして父さんは母さんと共に改めてセシルさんと向き合った。
「えっと……セシル・ラグレーンさんでしたよね」
「はい、セシルでいいですよ。私もお二人にご挨拶したかったです。そんなにかしこまらなくてもいいですから」
「……ではセシルさん。また私たちをこうしてレンと会わせてくれて、言葉で伝えきれないくらいですが、本当にありがとうございます……!」
「いえいえ、私もレンちゃんと出会えて、私の方がお礼をしたいくらいですよ。それに感謝なら身体をくれた女の子にもしてあげるべきです」
「はい……」
母さんと並び深くセシルさんに頭を下げる父さん。確かに直接僕を転生させたのはセシルさんだが、この身体の元の持ち主が僕と同じ日に死に、そしてセシルさんが見つけることがなかったらその機会すらなかった。
それに関することは僕の中ですでに決着をつけているが……改めて言われるとやっぱしんみりくるなあ。
「それで……レン、お前は向こうの世界で元気にやってるんだな」
「そうそう、楽しくて退屈しない毎日だよ」
「そうか……それならばいいんだ。お前はもう大人だし、こんな素晴らしいパートナーもいる。新しいお前の人生、俺たちに構わず好きなように生きてくれ」
「父さん……ありがとう」
僕自身、七年経って容姿が変わらないため少し自覚が薄いが、本来僕が生きていたならば、既に社会人として自立をしているであろう年齢だ。セシルさんという存在もあり、説明の中で今回こちらに来たことはあくまで一時的なものであることを伝えたが、父さんが引き留めてくるような様子はなかった。
それどころかこうして僕の後押しをしてくれた。やっぱり迷ったけど……会いに来てよかったな。
「それで今日はこのまま泊まっていくんだっけ?」
「ここまできて、そうしないわけにはいかないでしょ」
「なら……今日はたくさん話を聞かせてくれ。向こうでのことをたっぷりとな」
「もちろん、そのつもりだから」
そう答えながら、僕は再び微笑みを向けた。これまで経験したこと、学んだこと話したいことはたくさんある。
「よし、じぁあその前に残りの料理の仕上げをしましょう。レンもまた手伝ってくれる?」
「オッケー、すぐ手伝うよ」
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