4年に1度だけ現れて願いを聞いてくれる神様

せかけ

第1話 願いを聞いてくれる神様

 ──頬杖をつき、黄昏ている私、

 16歳の高校一年生長沢美雨ながさわみうの頬を窓際の太陽が真っ赤に染める。

 いや、きっと真っ赤になっているのは

 正確には太陽だけではない。

 だって今、私は……。


 恋をしているから!!


 恋をしている乙女は、頬が染まるのよ!

 きっとそう!!

 証拠はないわ!!

 え、証拠を出せって……?

 じゃあ、証拠に私を連れて行きなさい!!

 って私は、気軽に持っていける

 エコバックかーい。


「……はぁ。我ながらクソつまんないギャグをかましてしまったわ。でも、そんなことどうでもいいの。本当に美しい……。それでいてカッコいい!なんて素晴らしいのかしら小早川君は……!!」


 小早川颯こばやかわはやて

 クラスでは、最も人気がある男の子。

 顔立ちは、まるで彫刻で作られたのかと思うほどの綺麗な顔。そして、持ち前の明るさが武器である。それを見た女の子たちはキャーキャーいっている。


「はぁ……私ももっと積極的な性格になれればね……」


「美雨?どうしたの?また小早川君みてるの?」


「うん……ってさき!?驚いたじゃない!」


「ごめんごめん!」


 咲は、私の1番の親友だ。

 私のことを親身になって考えてくれていて、

 小学校の時からずっと同じクラスだ。

 私よりも私の事を知っているのかも知れない。それくらいに仲が良かった。


「……美雨。美雨のこと考えているから言うけど、小早川君は……」


「うん……わかってる」


 実は、小早川君は、あちこちに遊んでいるとか、悪い噂が回っていた。

 私は今までに小早川君と一度も話したことがない。あの風貌。視界に入るだけで、緊張してしまう。それに、なによりも真実を知りたくないから話したくないと言う気持ちもあった。それよりも、理想の小早川君を崩したくない。その想いが強かった。


「じゃあ、私は行くね?また明日」


「うんバイバイ。はぁ……全てが尊い……

 あぁ、誰か私の願いを叶えてくれないかしら……まぁ、そんなこと起きないんでしょうけど……」


 キーンコーンカーンコーン。


 放課後を告げるチャイムが鳴り、私は、

 今日も、いつもように、小早川君のことを思いながら帰宅する。


 ガチャ。


「ただいま……って、え?」


 ドサッッッ。

 私の肩から荷物がスルッと落ちる。


 なぜなら、目の前に知らないお爺さんが立っていたからだ。だが、普通の知らないお爺さんが家にいたから驚いたわけではない。

 まぁそれもそれで怖いけど。

 ただそれは、ふつうのお爺さんではなかった。


 だって……。


「なんか浮いてるんですけど!?」


 ふわふわと真っ白な雲に乗り、雲と同じ真っ白な髭をフサフサに生やしたお爺さんが

 こちらを見つめていた。

 異様な光景に圧倒されながら

 私は、後退り、

 立ち去ろうとする。


「フォッフォッフォッ。待つのじゃ、小娘よ」


 は、話しかけてきた。

 ど、ど、ど、どうしよう!

 てか本当に誰よ!


「わしは4年に1度だけ現れる神じゃ。お主は、今、クラスメイトの小早川君に恋をしているじゃろう?」


 え……。さ、咲にしか話したことないのに。

 それに4年に1度って……。なにそれ、

 オリンピック式の神様?

 本当に、なんなのよ謎のこのお爺さんは!


「な、なんで知ってるのよ!」


 相手に負けまいと、いつもよりも大きな声で応戦する。


「まぁ、驚くのも無理はない。じゃが、わしは紛れもなく神じゃ。今乗っている雲。

 そしてお主のことも知っているのが何よりの証拠じゃ」


 頬っぺたをつねる。痛い。

 夢ではない。

 もうここまできたら、

 非現実すぎて、信じるしかない。

 人間、追い込まれるとこんな感覚になるのね……。


「ふむ。信用できないのなら、このワシが最近通販で買った雲ちゃん4号に乗ってみるか?」


「それ通販で買えるのね……。いやなんかキモいから辞めておくわ」


「キモて……。わし一応神なんじゃが……」


 何故か、染み染みと傷つきました。

 みたいな顔を私に、白白しく見せながら

 その神であろうお爺さんが言う。


「まぁ、そんな事はどうでも良い。

 ワシは、小娘の願いを聞きにきたのじゃ。

 もし、小早川君と小娘が付き合えたらどうじゃ?」


 え……!そんなことできるの?


「そりゃ、嬉しいわよ……。理想のまま付き合えることができるなんて……」


「では、その願いをワシが聞いてやろう。言ってみるが良い」


「そ、そんなことができるの?」


「うむ」


「じゃ、じゃあ!小早川君と付き合いたいです!!」


 半信半疑だった。だが、それよりも理想の小早川君と付き合えるのであれば、どんなやり方でも良かった。それぐらいに好きだったからだ。


「うむ。しっかりと聞いたぞ。ではさらばじゃ」


 シュンッ。

 と言う音とともに、お爺さんは消えていった。


「あら、美雨帰ってたの?」


「お母さん!今目の前に変なお爺さんがいなかった?」


「何を言ってるの?私は、ずっと玄関の掃除をしてたわよ?」


「玄関の?」


 おかしい。私は、玄関先から一歩も動いていない。あのお爺さんと話していたのは

 玄関先だ。お母さんの姿は、

 全く見えなかった。


「やっぱり、夢でも見てたのかな……。

 もういいや。寝よ……」


 ♢♢♢


 ──そして、次の日。


「美雨さん。僕と付き合ってください」


「え……」


 嘘……。嘘……!嘘……!!

 嘘でしょ!?

 私の目の前には、あの、あの、あの小早川が立っていて、それで私に告白をしている!?

 な、なにこれ!

 じゃあ昨日のお爺さんは、本当に……?


「やっぱり、ダメですか?」


「ダ、ダ、ダメじゃないです!!

 私で良ければ、喜んで!」


 そう言うと、ニコッと笑みを浮かべた

 小早川君は、ありがとうと私の手を握り、

 私たちは付き合うことになった。


 それからは、とても充実した日々を過ごしていた。本当に心から楽しかった。

 私が、行きたいところを聞いてくれ、

 付き添ってくれる小早川君。

 本当に夢のようだった。


 ♢♢♢


 それから4年後、私が20歳の時。

 また、現れた。


「フォッフォッフォッ。どうじゃな?

 小早川君との生活は」


「か、か、神様!!あの時は変なキモいお爺さんだと思ってごめんなさい!まさか本当だったなんて……!小早川君は、相変わらず優しくて、何処にでも連れていってくれるわ」


「そうか、そうか、楽しそうで良かったわい、じゃあまた4年後に会おう」


 ♢♢♢


 ──また、それから時は経ち、私と小早川君は同棲を始めた。

 そして、お爺さんと会って、

 2年の時が経った時のことだった。


「はぁ……今日は、早く仕事が終わったから

 急いで帰ってびっくりさせちゃおっと!!」


 今日は、小早川君の誕生日だ。

 小早川君は、用事で今日は遅くまで、

 出かけると言っていた。

 なので、こっそりケーキを買って、

 家で準備をし、

 サプライズしようと思っていたのだ。


 ガチャ。


「あれ?鍵が空いてる?」


 小早川君、今日遅くなるって言ってたはずじゃなかったっけ?


「ん……?」


 ──見知らぬ女の子物の靴。

 こんな靴は知らない。

 そして、何故か、部屋の明かりがついている。

 嫌な予感がした。


「……」


 グッと、溢れそうになる気持ちを抑え、

 扉を開く。


 ♢♢♢


 ──悪い予感は……。的中した。

 それからのことは、思い出したくもない。

 後から聞いた情報によると、

 私と付き合った頃から、

 別にも彼女がいて、

 取っ替え引っ替えして、

 遊んでいたらしい。

 ──全部私のせいだ。

 知ろうとしなかった私のせいだ。

 自業自得だ。

 あの時、咲の話を聞いていれば。

 少し調べれば、すぐにわかったはずだ。

 あの時、私自身が小早川くんと

 向き合っていれば。

 気づけたかも知れないのに。

 自分自身で選択していれば、こんな運命も受け入れられたのかも知れない。


「私のせいだ……」


 ♢♢♢


 2年後。


「フォッフォッフォッ。小娘よ。

 随分とやつれたのぉ」


「そういえば、4年後だったわね……。

 えぇ……」


「そうじゃ。小娘は、ワシを恨んではおらんのか?」


「……願ったのは、私。私は、真実を知りなくなくて現実から逃げていた。

 私は、間違っていたわ。目先のことしか、見てなかった。理想を見ていただけ。そしてお爺さんを利用した」


「ふむ……。変わったのぅ小娘よ。小娘、

 ワシが8年前に言った事を覚えているか?」


「お爺さんの言った事?8年前……。

 願いを叶えてもらったことしか覚えてないけど……」


「そこじゃ」


「え?」


「ワシは願いをとは言っておらん。願いをと言っただけじゃ」


「え……?」


 意味がわからない。


「つまり、ワシはお主の願いを聞いただけであって、叶えたわけではない」


「はい?でも、私は小早川君と付き合って……」


「お主が体験したのは、全てシュミレーションゲームのようなものじゃ」


「え……?は!?でもちゃんとあれから8年経ってるし!」


「お前が体験したのは幻想じゃ。真実ではない。実際に小早川がどうだったのかすらわからぬ。これはワシのお遊びみたいなもの。つまり、ゲームじゃ。じゃから今から8年前に戻す」


「ほ、本当にいってるの?」


「あぁ」


「これで、お主と会うことはもうないじゃろう。楽しかったぞ小娘よ。フォッフォッフォッ」



 ♢♢♢


 ──気づくと私は玄関先にいた。

 16歳のあの頃のまま。


 記憶は、所々曖昧だ。

 だけど、自分自身で選択すること。

 この言葉だけはしっかりと覚えていた。


 これから先、なにがあるかはわからない。

 でも、何があっても自分で決断していこうと私は心に誓った。


「神様、ありがとう」


 元気よく、外に出た私は、

 そう呟いた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

4年に1度だけ現れて願いを聞いてくれる神様 せかけ @sekake

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ