第25話 拠点に帰還
どれだけ待っただろうか。出発時には真上にあった太陽も今では沈んできている。タクちゃんが中でとんでもない目に遭っているのではないか。そう思っていた矢先、飛行機内から足音が聞こえてきた。飛行機の出入り口からタクちゃんが顔を覗かせた。
「タクちゃん!」
「中にターゲットは……生きている人間はいなかった。だが、機内の中に使えそうなものはいくつかあった。収穫がなかったわけではない」
生きている人間はいなかった。その言葉の含みは頭の悪い私にも察しがつく。死んでいる人間は多くいたんだ。
「そろそろ日が暮れてきたな。一度拠点に戻って待機組と合流しよう」
飛行機の中で手に入れた大きなバッグを担いでいるタクちゃん。あのバッグにはなにが入っているんだろう。気になる。タクちゃん曰く使えそうなものって言っていたけど……
「タクちゃん。飛行機の中はどうだったの?」
私は恐る恐る訊いてみた。墜落した飛行機。中が惨状になっていることはわかりきっているはずなのに。
「ユリは機内に入らなくて良かった……とだけ言っておく。ユリみたいな普通の子が立ち入っていい領域じゃなかった」
「そ、そんなにひどいの!?」
「ああ。自身の視覚、嗅覚、触覚が精神を削ってくる空間だ。人の死に慣れている俺でも長居はしたくない」
タクちゃんですら嫌がるところなんて……私が行かなくて本当に良かった。
◇
タクちゃんが道に迷わず真っすぐ進んでくれたお陰で私たちは拠点に戻ることができた。私一人だったら絶対に迷子になっていたと思う。タクちゃんがいてくれて本当に良かった。
「やっほー。ユリリン。おかえり。なにか見つけてきた?」
拠点に待機していた夢子ちゃんが私の姿を発見するや否や近づいてきた。
「予言が使えるなら、わかるんじゃないのか?」
タクちゃんが横から棘がある言い方をしてきた。夢子ちゃんはその発言に、眉をしかめてムッとした顔をする。
「私の予言だって完璧じゃないんだよー。受信できるかどうかは運とタイミング次第だからねー」
「あんた。その大きなバッグはなに? こんな森のどこでそんなもの見つけてきたの?」
名取さんが腕組みをしながら、タクちゃんが持っているバッグに目をやる。この人キャバ嬢っぽい風貌で、チョロそうな和泉さんには媚びている態度だったのにタクちゃんにはズケズケと物言うんだなー。
「ああ。この森に飛行機が墜落していた。その中を探索していた時にちょいと拝借した。中身に使えそうなものを色々と詰め込んでな」
「拝借した……? ってか墜落ってことは中に乗っていた人は当然死んでるんでしょ? そんな人から盗ったとかバチ当たりにも程があるわよ!」
名取さんはタクちゃんの大胆な行動に青ざめている。
「なんだ。お前、呪いとか祟りとかそういうの信じているのか? バカバカしい。そんなものがあったら、デスゲーム常連の俺らには背後霊の大名行列ができてるだろ」
「ちょっと。人のことをお前呼ばわりしないでくれる? アンタいくつよ。どうせ学生なんでしょ? 学生風情が社会人の私を見下さないでくれるかな!」
「悪いな。俺はお前みたいな貞操観念の低そうな女は嫌いなんだ」
「ひ、人を見かけで判断しないでよ! 私はこう見えてもガードが固くて、一途で尽くすタイプなの! ちょっと、顔が良いからって調子に乗るんじゃないよ!」
わわ、どうしよう。タクちゃんと名取さんがバチバチにやりあってるよ。
「はいはーい。二人共喧嘩しないの。
一触即発の空気を夢子ちゃんが変えてくれた。いいなー。こういう時に夢子ちゃんの物怖じしない性格って便利だなと思う。
「ああ。そうだな。まずは、乗客の持ち物からライターを見つけた。これで火を手軽に起こせる」
「わわ。やるじゃん。アサミン。御岳おじさんが必死に火起こししようとしたけれど、時間がかかってたんだよね。ライターあると助かるー」
夢子ちゃんが手を叩いて喜んでいる。火はサバイバルにおいて生命線となるものの筆頭だ。
「でも、よくライターなんて見つけたね。飛行機内にライターって持ち込めるの?」
火が出るものは危険物ってイメージがあるけど、旅客機に持ち込めるのはなんか意外。
「一般的には、吸収剤が入っているライターは機内に持ち込めることになっている。このライターもそのタイプだ。問題なく着火する。いくつか持ってきたから、拠点にも1つ置いておくぞ」
「もう。アサミンったら有能すぎ。大好き」
「やめろ。気色悪い」
タクちゃんに抱き着こうとする夢子ちゃん。だけど、タクちゃんは容赦なく突っぱねた。タクちゃんって女子に興味ないのかな? 夢子ちゃんは女の私から見ても、小っちゃくて可愛らしく見えるのに。男子だったら抱き着かれたら、諸手をあげて喜ぶほどのルックスだと思うのに。でも、私には優しいんだよね。幼稚園の頃から面倒見てくれてたし。やっぱり、私が幼馴染だからかな。
「次に持ってきたのはブランケットだ。一応、人数分持ってきた。使いたいやつがいたら勝手に使ってくれ」
「アンタやるじゃない! 私、冷え性だから本当に助かる」
名取さんがタクちゃんに見せたことがない笑顔を向ける。さっきまで、いがみ合っていたのに現金な人だ。
「後は、機内食やら水なんかもあった。乗客の中にもいくつか保存食を持ち込んでいるやつがいた。それも当然拝借してある。目ぼしいものはこれくらいだったな。ナイフや工具とかがあれば良かったが、流石に旅客機に持ち込めないようなものはなかったな」
「ねえねえ。アサミン。この機内食って食べられるの?」
「さあな。腐ってなければ食えるんじゃないか? 墜落の衝撃で中身はグチャグチャになってそうだけどな」
「うへえ。そんなもの持ってこないでよ」
「こんなのでも、いざという時の食料程度にはなるだろう」
とりあえず、持ち帰ったもののお披露目会は終わった。幸い、いくつかの食料と水は確保できた。ブランケットもあるから、夜も寒さに凍える必要がないのはありがたいな。
「ふう……こっちの作業は大体終わったぞ」
額に汗を浮かべている御岳さんがこっちにやってきた。
「ん? なんじゃ。お前さんたち戻ってきたのか。わはは」
「ああ。ユリを連れて危険な夜の森を歩きたくないからな」
「そうかそうか。浅海とか言ったのう。てめえが惚れた女を大事に扱うとは感心だな。それこそ漢。漢の力は女子供を守るためにあるんじゃ」
「え? ちょ、ちょっと御岳さん! なに言っているんですか! 私とタクちゃんはそういう関係じゃありませんよ!」
私は慌てて否定した。タクちゃんが私みたいな何の取り柄もない女の子を好きになるわけがない。私はともかく、タクちゃんに嫌な気持ちをさせてしまう。
「ん? そうかい? んまあ。浅海ィ。気のない女に尽くしすぎるのも問題じゃ。女は恐ろしいからな。後ろからドスでドスっと刺されんようにな」
「笑えない極道ジョークだな」
「これは手厳しいな。オッチャンみたいな年齢になると下らないジョークの一つや二つ言いたくなるもんじゃ」
御岳さんのジョークは本当に心臓に悪い。笑っていいのか笑っちゃダメなのかの判断がつきにくい。
「それはそうとベッドができたぞ。と言っても4人分しかできてないのだがな」
「おお、やるねえ。御岳のおじさん」
夢子ちゃんが笑顔になる。
「ベッド作ってたんですか?」
「おうよ。ここは幸い材料になる樹がしこたまあるからな。昼間から、この作業をしてたんよ。このナイフを使ってな」
「ナイフ? そんなものどこにあったんですか?」
「ワシの最初からの持ち物じゃ」
なんでそんな物騒なもの持ち歩いてるんだろう。それはもう色々と訊いちゃいけない気がしてきた。現代社会の闇というよりかは闇社会の片鱗が見えたよ。
「真白と宮下はどこに行った?」
タクちゃんは御岳さんにそう問いかける。よく顔がヤクザみたいな御岳さんに気軽に話しかけられるなあ。私には無理だ。
「ああ。あの二人は、能登と名取が集めた食材を使って、料理を作っている最中じゃ」
「そうか。無事ならそれでいい」
「私とナトリンは料理できないからね」
「うるさい。そんなことバラすな」
名取さんが夢子ちゃんを小突く。夢子ちゃんは舌をぺろっと出すお茶目な仕草を見せた。
デスゲームの達人 下垣 @vasita
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