第5話 新たなる命題『大魔王と少年と差別』


 大魔王ラスマーキンは勇者に追い詰められた。勇者とそのパーティーは歴代最高の強さを持っていたのだ、無理からぬ事であったろう。

その上、今まで中立だった龍神、妖精女王まで勇者に味方していたのだ・・・。


 魔族はそのほとんどが滅ぼされた。大魔王ラスマーキンは、魔族の最後の抵抗として、勇者と決戦に挑んだのだ。おそらく負けるということはわかっていた。

破壊神の力を借りてなお、あれほどのチカラの差があったとは大魔王にとって計算違いだったのだ・・・。



 そして、予想通り戦いに敗れ、その魂までも二度と復活できないように滅ぼされた・・・。


 その際、ラスマーキンは思った・・・。無念だ・・・。なぜ、ここまで人類というやつは魔族を恨むのだ。

我ら魔族は確かに好戦的な種族であったが、滅亡させられるほどの悪なのか・・・。果たして正義とはなんなのだ・・・。




 その後、ラスマーキンは気がついたら、なぜか現代の地球に転生していたのだ。そして、この世界の人類がここまで発展していることに、圧倒される大魔王。

そして、魔力を感知してみたのだが、魔族はやはり大魔王ラスマーキンの他に誰もいなかった。


 この世界の人類は魔族自体、その存在さえ知らないんだ。だが、大魔王の肌の色でなんだか奇異な目で見られてしまう・・・。

やはり、ここの世界の人類も自分たちと違うものは受け入れないのか・・・。




 そして、大魔王ラスマーキンは気がついた・・・。今の自分は魔力が枯渇している・・・魔力の回復ができない・・・。

その原因は大気に魔力の元、魔素がなく、大魔王自身の魔核の魔力が自然回復されるのを待たねばならない。


 しかもお腹が空いている。力が出ない。そして、行き倒れてしまった大魔王だった。



 そこへ、手を差し伸べてきた少年がいたのだ。みるからに貧乏そうな少年、自分自身もあまり食べていないであろうその少年が分けてくれた『オニギリ』という食べ物。

それは、コンビニのハイキ?をもらったそうだ。『ハイキ』とは『捨てられたもの』という意味らしい。


 そういう意味では大魔王ラスマーキン自身も元の世界から捨てられたもの、『ハイキ』なのかもしれない。


そして、そのもらった『鬼斬り』を食したことで、なんとか少し魔力が回復し、その魔力で言語解析魔法を発動させ、少年と会話ができるようになった大魔王だった。


 そして、少年と話をしてみて衝撃を受けた大魔王・・・。なんと! 少年が追い求める理想とは、差別のない世の中だそうだ。


 そして、それは大魔王ラスマーキン自身も密かに心の奥底で描いていた夢だった。そして、この世界では人類同志でさえ差別があるという・・・。




 無益な『差別』というものを無くしてやる! そう決意した大魔王・・・。


 「おまえに世界の半分をやろう? どうだ?」


 「え? おにぎり半分でいいの? いいよ。じゃ、はんぶんこしよう!」


 「承知した! このさき、我が得るものはすべて元地・加羅我(もとち・からが)と共に在ると約束しよう!」




 こうして、少年と半身の契約を交わした大魔王は、少年に連れられて孤児院「救世会」へやってきたのだった。


 そこで、まさかの最強破壊神の我輩となぜかこんな異世界で再会するとは思ってもいなかっただろうがな。




 ところで、この孤児院には全部で12人の子どもたちと、孤児院の院長が一人の合計13人の人間が一緒に住んでいるらしい。


 孤児院自体は決して広くはなく、狭い部屋に数名ずつ子どもたちが寝ていた。


 ナノカとカラガはともに13才、他の子供らは全部で10名、下は5才から上は10才だという。ナノカとカラガは下の弟達のことをテンリトルブラザーズと呼んでいた。


 小さな10人の弟妹達という意味だ、そのうち3名が実の3姉妹、2名が実の兄妹らしい。




 夕べの食事の際も、わちゃわちゃと我輩とラスマーキンにまとわりついてきおったわ。


 特に、後藤・華弗努(ごとう・ふぁどるど)7才と後藤・麻里(ごとう・まり)5才の後藤兄妹。やつらは吾輩に妙になついてしまったわ。


 後藤妹・マリはどうやらこの孤児院の最年少だそうだ。兄・ファドルドはいたずら好きな少年だ。吾輩の髪や、足を触ったりして遊んでやがった。



 また、この孤児院の最年長はナノカとカラガだが、そのすぐ下の一番年上は、10才の辿土・宝夢(たどるど・ほうむ)と、丹振渡・王婦(たんぶるど・おふ)だ。


 丹振渡・王婦(たんぶるど・おふ)はタンブルド3姉妹の長女だ。


 タンブルド姉妹は他に、丹振渡・印(たんぶるど・いん)8才と丹振渡・尾羽紡(たんぶるど・おばぼう)6才の姉妹だ。




 他には、9才児が、有縁東・刷異布(うえんとう・すりいぷ)と、武老傷・音紅(ぶろうきず・ねく)の二人。


 8才児はさきほどのタンブルド・インの他に、菊座・馬潔(きくざ・ばけつ)がいる。


 6才の女の子で、塩田・字愛(しおだ・あざあ)がいる。


 13才、10才、9才、8才、6才がそれぞれ二人ずつ、7才と5才が一人ずつというわけだ。




 そして、吾輩とラスマーキンを合わせて15名となったわけだ。


 それにしても、力を加減しないと、人間の身体なぞ、もろくて壊してしまいそうであるわ。


 特に、幼い子どもはよけいに脆弱である。


 破壊エネルギーを極力抑え、魔力さえゼロにも等しく抑えなければ、

あぶなく魔族で昔、流行った『バースデーボルケイノ』(生誕祭に盛大に燃やす火山)みたいになってしまうところだった。




 ところで、夕べの食事は美味かった・・・。味というものが素晴らしかったというだけではなく、そこに込められた精神エネルギーが慈愛に満ちていたのだ。


 さらに言うならば、吾輩はずっと孤独であった。吾輩も別にそれが不満に思ったことはなかった。


 だが・・・。夕べの食事はみんなで食べる、そんなことが楽しかった・・・。吾輩の破壊本能がうずくことはあったが、それを上回るなにかに初めて満たされた気がした。


 まさか、最強破壊神の我輩に破壊以外の本能は存在しない・・・。ゆえにそれ以外の感情が湧くということは考えられぬことだったのだ。




 そういう意味で、初めて味わう『食事』の美味さだったのだ・・・。


 ナノカが吾輩に新しい命題を課した世界、それだけのことはある、新しい初体験ばかりだ。


 吾輩はこの世界に何のために転生したのか・・・それは、この新しい命題を解くために・・・そう言っても過言ではなかろうなのだ。




 吾輩は、さきほどの『美味い食事』によって、吾輩の体内の『無限回廊』が爆発的に稼働しているのを感じていた。


 無限回廊から生み出される純粋かつ莫大な破壊エネルギーによって、急速に吾輩のチカラが回復している。


 もちろんそれと魔力核が連動し魔力も回復している、破壊エネルギーは吾輩の生命力、魔力は精神力のようなものだな。




 この調子だと、あと数時間もすれば、全盛期マックスまで回復するであろう。


 いわんや、大魔王ラスマーキンも魔力核を持っておる。そこから魔力が自然回復することは確実だ。


 そう、それは氷の魔物を極大炎熱魔法で攻撃すれば倒せるというくらい確実なことだ。




 吾輩の横で、何やら「ぐーぐー」といびきをかいて、だらしなく寝ておる大魔王・・・なんたる醜態だ・・・。


 「なんとも大魔王ともあろうものが・・・。まあいい、今は回復に努めるがよかろう・・・。まあ、吾輩に睡眠は不要であるがな・・・。」


 そんなラスマーキンの姿を見ながら、朝が来たら、何から始めるか、それに頭を悩ませていた最強破壊神であった・・・。



~続く~



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