第4話 新たなる命題『大魔王との再会』


 少年は名を元地・加羅我(もとち・からが)というらしい。


 彼が大魔王ラスマーキンを発見したのは、やはりシブヤという街のセンター街だという。


 何やら、空腹だったのか、倒れていたらしい。


 ふむ、吾輩とまったく一緒ではないか・・・大魔王よ・・・。魔族の偉大なる王の名がすたるわ。




 まわりを歩いていた大人たちのほとんどが、ラスマーキンを無視し、また、その緑の肌を見て、気持ち悪がったりしていた。


 そこを通りかかった、カラガ少年は唯一、ラスマーキンを差別せず、近づき、その少年の持っていたなけなしの『鬼斬り』を半分分け与えたという。


 このカラガという少年は、人間の中でも善なる存在のようだな。




 だが、まだ大魔王ラスマーキンは魔力がほとんど回復しておらず、ほとんどチカラを失っている様子だった。


 そして、吾輩の存在にようやく気がついたようだ。


 「ま、まさか・・・破壊神、シヴァルツ・シヴァイス様ではないですか?」


 「うむ、そういう貴様は大魔王ラスマーキンであるか?」


 


 「これは、まさに奇跡か・・・。ああ、神様・・・いや、我が破壊神様以外の神に祈るのは、ダメですな。」


 「ラスマーキン、貴様もこの世界に転生してきたのか・・・。魔力はやはり枯渇しているようだな。」


 「はい。我の魔力はあの忌々しい勇者との戦いで全て使い果たした次第・・・。あ、申し訳ございません。

その偉大なるお力をお借りさせていただいたのに、最強破壊神様、我は勇者に負けてしまいました。」


 「ふむ、やはり負けたのか・・・。まあ、その後、吾輩もその勇者一行に滅ぼされたのだ。致し方あるまいて。」


 「なんと・・・シヴァルツ様まで倒されるとは・・・あぁ、我がその御力を一部お借りし消耗しておられたからですね。」


 「うむ。全力を出せれば、互角・・・いや、勝てたやもしれぬ。が、忌々しい龍神と妖精女王のやつらめも勇者に協力しておったからのぉ。」


 「あぁ、そうでしたね・・・ヤツラ・・・ずるいですな。」


 


 とかなんとか言ってる間に、矢佐柴院長が、カラガに詳しい話を聞いていた。そして、ラスマーキンに話しかけてきた。


 「私の名は矢佐柴・アーサ。この孤児院の院長ですわ。おやおや、異国の方ですか? でもお名前が、烏丸・欽(からすまる・きん)さん?ミックスの方かしら?

何やらお困りのご様子、どうですか?一緒にお食事をいただきませんか?」


 「な・・・なんだと!?この大魔王に・・・そんな情けをかけてくるとは・・・。」

おまえに世界の半分をやろう? どうだ?」


 「え? そんなのいらないですわ。世界が平和であればよいのです。」


 ええ・・・真顔です。矢佐柴院長は真顔です。人の言葉を、いや、魔王の言葉を疑う素振りを微塵も見せない。


 


 「カラガよ。我はさきほど、そなたに我の半身を捧げた。我はそなたの一族を我が魔族とみなそうではないか。」


 「ああ、なんだかそんなこと言ってたね。まぞく?あ、家族のことか?ここの孤児院のみんなは僕の家族だよ。よろしくね。」


 ん?大魔王ラスマーキン、さすがは大魔王よ。

吾輩と同じくもうすでにこの世界の言葉を習得しておる。魔族の頂点に君臨し続けたのはその賢さもあっての話というわけか。


 矢佐柴院長が食事の準備をしている間、カラガとナノカもその手伝いをしておる。


 カラガとナノカはこの孤児院では年長のようだな・・・。





 


 その間、吾輩と大魔王は現在の状況について、話し合った。


 「シヴァルツ様、我は魔族のために人類と戦い、その存在を滅ぼさんとしておりました。しかしながら・・・、

この世界にはどうやら我の他に魔族はおりませぬ。もはや人類と争う意味が存在しないようです。」


 「ふむ。そのようだな。吾輩もすべてを破壊することこそ使命としている・・・が、この世界で新たなる命題に直面している。」


 「なんと!破壊神様が新たなる挑戦をされるとおっしゃるのか・・・。ふむぅ、我もまさに、今、あの少年と新たなる魔族の繁栄を築いていくことを誓ったところでございます。」


 「であるか! 吾輩は、この世のすべての「貧困・不平等」という概念を破壊することを新たなる命題と定めた。思えば物理的な破壊など簡単なこと、最強破壊神の名がすたるわっ!」



 「さすがはシヴァルツ様! たしかに、シヴァルツ様の御力であれば、この世界のすべてを破壊し尽くすことは、些事にすぎませぬな。

崇高な命題ですな。このラスマーキン、感服いたしました!」


 「ふむ。して、大魔王よ。お前も魔族の復興と言うならば、あの少年やこのコジインなる一族を繁栄させることがまずは早急なる課題ということになるな。

このコジインという一族は他の者達と比べ、明らかに不平等な扱いを受けておる。そういった理不尽さはぶっ壊さなければなるまいて。」


 「御意。我が神の御心のままに・・・。」




 そうこう話していると、我輩たちを呼ぶ声が聞こえてきた。


 「司馬(しば)さーん、烏丸(からすまる)さーん!ご飯ができましたよー。」


 うぬ、どうやら、吾輩があの矢佐柴院長に名を名乗ったのがどうやらこの国の言葉に変換され、司馬となったようだ。


 そして、同じく、ラスマーキンも、烏間と変換されたのだな・・・。まあよい。名前など大したことではない。




 その日の食事は吾輩にとっては生涯、忘れられないものとなった。


 後に知ることとなるが、出された食事は、世間の一般平均の食事よりはとても質素なものであった。

しかしながら、矢佐柴院長の愛情がつまった『一汁三菜』の食事で、エネルギーの枯渇気味であった吾輩や大魔王にとって、まさに生命の恵みだったのだ。


 一汁三菜は、日本料理の献立およびメニューの1つ。一汁は汁物を1品、三菜は料理を3品という意味である。

もともとは本膳料理の献立の1つで、飯と漬物と汁物に加えて、膾(なます、生魚の肉を細かく切ったもの)が1品、平皿と呼ぶ煮物が1品、そして焼き魚等の焼物が1品で、一汁三菜である。(byウィキペディア)




 「う・・・美味い!!圧倒的な破壊エネルギーが湧いてくる!!まさに、舌下の破壊者!!優しいばーさんよ、貴様にこそ、その称号がふさわしい!」


 「本当に!!なんて素晴らしい料理だ!魔界のどんな殺戮者よりも、上手く料理したわ!優しいばーさん院長よ、魔界の料理王の称号を授けよう!」


 「おや、まあ、そんなにも感動してもらえるほどの料理ではありませんよ。あと私は、『ばあさん』ではないのであしからず(キリッ)! ・・・院長でよいですよ。」


 「お・・・おぅ・・・なんだか、すごい殺気を感じたのぅ・・・。院長・・・でよいか?」


 「うむむ・・・魔界屈指の悪魔どもも身震いするほどの殺気でしたね・・・。院長・・・ですね?」


 「はい。それで。」


 さっきまでの優しげな院長に戻った・・・、どうやら、『ばあさん』は禁句だったようだ。矢佐柴・アーサって名乗っておったな・・・やさしいばあさんではなかったのか。




 そして、夜は更けていった。


 吾輩と大魔王は、同じ部屋を与えられ、二人で同室の生活をすることとなった。この孤児院の手伝いをすることで、当面の生活の面倒を見てくれるということらしい。


 ラスマーキンのヤツは、何やら考え込んでおったが、吾輩に向かってこう提案してきた。


 「我の魔力が回復すれば・・・さっそく、この世界を支配してやりましょうぞ。そしてこの世界に、平等と差別のない世界を実現させてみせましょう。」


 ふむ・・・。それは、吾輩の命題の解決にもなりそうであるな・・・。平等・公平な世界になれば、貧困や理不尽な不平等などは失せてしまうであろう・・・。


 「であるな。」


 吾輩は大魔王ラスマーキンにそう答えた。



~続く~



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