第24節 -領土拡大戦争「レクイエム」-

 少女が姿を消した後、玲那斗は今からの行動についてすぐに思案を始めていた。これから自分はどこへ向かえば良いというのか。自分の求める答えは彼女の中にあると言ったが、この先何をどうしていいかが分からない。

 とにかく約束の場所へ行かなければならない。そこへ行き彼女の名前を呼ぶ事が出来れば、自身が置かれた現状とこの島で起きる不可解な現象を解決する手掛かりが手に入るだろう。その為にはまずは彼女の名前を知る必要がある。つまり現時点での目的は彼女の名前を知る事、そして約束の場所がどこなのかを知る事の二つだ。この城のどこかにその答えがあるに違いない。


 玲那斗は先ほど彼女がいた場所を通り抜け奥の通路へと向かった。足早に通路を通り抜け突き当りまで進むと扉がある。木製の扉で錠はついていない。その扉をゆっくり開くと城内の廊下が燭台に照らされており、さらにその先に灯りが漏れ出る扉が見える。その光へと向かって歩き始める。扉の前まで到着した玲那斗は深呼吸をし、ゆっくりと手をかけ扉を開いた。


 扉を開いた先にあったのは個室のような小さめの部屋で本棚と机と椅子があるだけのシンプルなものだった。書斎という言葉がよく当てはまる、そんな部屋だ。薄暗くはあるものの、机の上のキャンドルと壁掛けの燭台からの灯りによって部屋の中は照らされている。周囲を簡単に見まわしてみるが特に見るべきものは無さそうだ。そう思い引き返そうとした時、ふと机の上にある書きかけの手紙が目に留まった。書いてある言語は本来、玲那斗には読めないはずだが今は不思議と読むことが出来る。これが彼女の見せる夢だからだろうか。貴重な手掛かりになるかもしれないと思い全て読むことにした。


“先日、海を隔てた向こうの地の王国が戦火により陥落したとの報せが入った。リナリア公国の周辺にも確実にレクイエムの影響が迫っている。現状、我が国にはこれを退ける為の武力というものは無い。故に国力を増強する為にもこれまで以上に貴族間で足並みを揃え、共に政策を進める必要がある。古いやり方の政治や、もはや家柄など島の中の小さなプライドで争っている場合ではないのだ。迫り来るレクイエム戦争からこの国を守る為、諸侯との協力関係をより強固にする為、その礎たる二人の婚姻を急ぐ必要がある。幸いにも二人は仲が良い。特に…”



 そこで手紙は途切れていた。レクイエム戦争。ジョシュア隊長に転送してもらった資料の中に記載されていた。リナリア公国が陥落するきっかけになった戦争。領土拡大戦争「レクイエム」。

 リナリア公国は元々海に隔てられているという事と、中立の立場を維持しどの国にも干渉しない事を各国へ約束し実行することで過去の戦火からは免れていた。しかし十一世紀に入り時が過ぎると時代がそれを許さなくなった。どこにも味方をしないという態度が他国から非難され ”自分たちと協力関係を築かないのなら反抗とみなす” として侵攻の対象となり最終的に侵略戦争の犠牲になった。敵国からすれば、いつ自分たちの敵対国に寝返るか分からない国を放置するわけにはいかないという事だろう。例え当該国にその意思が全くなかったとしてもだ。

 さらに悪い事にその当時、戦争に乗じて略奪行為を繰り返していた海賊からの襲撃も受けて国は完全に壊滅したと歴史書には書かれていたはずだ。


 これが彼女の記憶の追想だとすれば、この手紙に登場する二人の内の一人は彼女で間違いない。大人たちの思惑を知る由もない一人の少女は政略結婚の為に担ぎ上げられ、そして間もなく戦争によってその生涯を閉じた。あの燃え盛る森の光景も、呻く人々の声も彼女の記憶だというのか。あまりに残酷な現実だ。

 この部屋にはこれ以上見るべきものはなさそうだ。玲那斗は複雑な気持ちを抱え部屋を後にした。

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