短編39話  数ある『4』好き幼なじみ

帝王Tsuyamasama

短編39話  数ある『4』好き幼なじみ

「そんなさぁ、いくら四年に一度っつっても今年もクラス別なんじゃね?」

「そんなことないもん! 今年は四年に一度の年なんだから、絶対同じクラスだもん!」

 中学二年生になって初めての登校となる始業式の今日、青空全開なすんげーいいお空に見守られながら、紺のセーラーに青いリボン装備、右肩に灰色のひもで紺色の学校指定学生カバンを掛けつつ俺の横をぷんぷん顔しながら歩いているこの女子は四見よつみ 詩依しいだ。

 身長が女子の平均より低めだからなのかみんなからかわいがられている印象だ。

 髪は肩の辺りで軽くくるんとなっている。本人によると毛先のくせっ毛を隠す処置らしい? 一般的な男子中学生であるこの俺荒間あらま 雪四郎ゆきしろうにはよくわからんけど、そんなことを言っていた。学校に行くときはほとんどこの髪型だ。

 結構明るい性格で、友達は男女問わず多い方なんじゃないかな。登校してるときも途中で他の友達が歩いていたら合流することが多く、家を出るときは二人なのに校門くぐるころには五人も六人もなっていることがそこそこある。

 ……そう。俺は毎日、まいっ……にち詩依と一緒に登校、いや登下校しているのだった。

 嫌ってわけじゃないし、幼稚園の送迎バスや小学生の通学団も一緒だったから慣れてるっちゃ慣れてるが……幼なじみとはいえ毎日女子と二人で登下校しているわけで。

 しかし詩依の明るく友達が多いキャラのせいか、男子である俺が毎日詩依と一緒に歩いていてもそこへツッコミを入れてくるやつがいないという。平和というかなんというか。

(まぁ、幼稚園の年長のときに、小学生になっても毎朝一緒に行こうぜ的なセリフを放ったのは俺の方なんだが……)

 でもあれは幼稚園児のセリフだぜ!? しかも小学校は通学団で有無を言わさず一緒に登下校するってオチだったんだぜ!? で、なぜか中学生になっても一緒に登下校しているという……。

(家隣だし)

 ということで詩依の性格やぷんぷんほっぺたふくらみ具合などはよーくよーくわかっているのだが……

「じゃあもし今年同じクラスだったら、俺となんかしたいことでもあんのか?」

「遠足で同じ班になる!」

「一体何%の確率なんだよ……」

 めちゃくちゃ気合入ってる詩依。

 この詩依って名前だとか四見って名字だとかのせいなのか、詩依は結構『4』という数字を意識しているようだ。

 普段から4にまつわる報告とかはしてくるものの、それらはそこまでこだわりまくってるわけでもないようなんだ。例えるなら、テレビで漢字違うけど自分と同じ名前の人が出たーみたいなあんな雰囲気。

 偶然にも俺の名前も四の漢字が入っているが、俺は別に普段から四を意識してるわけじゃない。詩依的にはそこは運命扱いしてきているわけだが。

 ……とにかく詩依は『四年に一度』っていうところは、やたら気合入れてこだわってるようだ。

「なぁ詩依」

「なにゆきくん!」

 両手握りこぶしで気合入れたままこっち向いた詩依。本日も元気。

「四年前って~……小四小学四年生か。なんかあったっけ?」

「あったよいっぱい!!」

「うおわっ」

 いきなりずいって寄ってきた! ちけぇ。

「一年から三年まで雪くんと同じクラスになれなくて、やーっと一緒のクラスになれたんだよ!? 理科の実験も給食もお掃除も遠足も社会見学も運動会も学童展もあれもこれも雪くんと一緒だったんだよ! 最高の一年だったんだよ!?」

「お、おぅ、そぅか」

 すんげーおめめきらきらしてやがる。近ぇ。

「そ、そんなに俺と一緒のクラスはよかったのか?」

「うんっ!! だから絶対今年一緒のクラスになりたいの! なれるなら四年に一度の今年なの! 今年は四年に一度だからなれるの! 一緒のクラスになっても毎日一緒に登下校してくれるよね!?」

 まったくもって謎理論すぎる詩依方程式。

「あー、うんまぁ、てかそれは別に違うクラスでも続けてたろうがっ」

「……うへへ~」

 ちょこっとためてからでれっでれの顔をして、手を後ろで組んで前を向いた詩依。

(……コホン。気を取り直してっと)

「さらに四年前は~……幼稚園の年長か。その時も同じ組だったな」

「ひばり組だったよね! お遊戯も劇も音楽フェスタも楽しかったね!」

 やっぱりこっち向いた詩依。首のストレッチトレーナーになってみたら結構いい線いくかも。

「そのころの記憶まだ残ってんのか?」

「もちろん! 雪くんとの大切な思い出だもん!」

 やっぱり握りこぶし作って気合入れた詩依。

(俺はもううっすらとしか覚えてないし、詩依との思い出って………………ぁ、結構あったわ)

 幼稚園でのことっていうよりかは一緒に隣の家族同士で出かけた思い出とかが多いけどな。今でもたまにお互いの家族巻き込んで一緒に出かけることはある。

(そういや詩依と休みの日に二人で出かけたことって、ありそうでないな。夏祭りがそこに当てはまりそうだが、結局会場で別の友達も合流するから二人だけって感じじゃないし)

 部屋で二人っきりはたまにあるけど、昔に比べれば減ったもんだ。

「なぁ詩依」

「なにっ!」

 まだ気合乗りまくりらしい。

「今度の休み、どこか出かけないか?」

「どこか? どこ?」

 表情は気合が落ち着いたのに握りこぶしは維持されたまま。ボクシングでも習ってみたらいい線いきそう。

「うーん……電車乗ってどこか、とか……?」

 ついなんにも考えず勢いで誘ってしまったが。

(うわ、詩依のまゆがうにぃってなってる)

「だから、どこ行くの? 電車乗るの?」

「ああいや、バスでも自転車で行ける範囲でもいいけどさ」

 ずっとこっち見ながら歩いてるが、たまには前見なさいよ。まぁ端を歩いているのは俺なので電柱にぶつかるなら俺の方なんだが。地味に俺が電柱の横通る度にカバンを前にしてるの見てないんだろうなきっと。

「お母さん自転車に乗れるのかな? 乗ってるとこ見たことないよ?」

「どんだけサイクリングチームな家族やねんっ! 俺と詩依の二人でだよっ」

 思わず関西弁でツッコんでもうたわっ!

「えっ?」

「ん?」

 まゆうにぃは収まったが、変わりにぽかーん詩依が現れた。

「……い、いいの?」

「……いいさ?」

 なんか確認された。とりあえずOKサイン出しとこう。

 あ、気合の握りこぶしがぐーぱーぐーぱーしたと思ったら、また後ろで軽く指先同士で組まれた。

「……じゃあ、行き先、私が決めて……いいのかな……?」

 なにやら上目遣いで聞いてきた。

 身長の低い詩依は基本的に俺を見上げながらしゃべってくるが、それは見上げながらもだいたいまっすぐ俺を見ながらだ。だからこんな表情はちょっと珍しいかもしれない。

 でも表情豊かな詩依なので、やっぱりこれも詩依らしいかなとも思ったり。

「ああ。あんまり遠いとこはなしだぞ?」

「うん。えっとね、じゃあ……」

 詩依ンキングタイム。いえなんでもありません。

「…………えへ、ごめん雪くん、帰りのときまで考えていい?」

「そんなにか? まぁいいけど」

「ありがとっ。やったぁ、ほんとに雪くんと一緒にお出かけしていいんだよねっ」

 明るい詩依の笑顔。まっすぐにうれしさをぶつけてくるそれ、ほんと昔っから変わらないよな。

「ああ、もちろんだ! 一緒のクラスになれたらなっ!」

「えーーーっ!! でも大丈夫! 絶対絶対ぜぇーーーったい! 同じクラスだもーん!! にゃむにゃむにゃむにゃむ……」

 出来心で変なセリフを挟んでみたが、詩依は超驚いてからとうとう謎の呪文まで唱え始めた。


 今日は始業式ってこともあってか、登校中に友達と合流しねーなぁ。詩依はだれかと合流してもしなくても毎日るんるんしてるが。新しい感じの制服やカバンを装備してるのは一年生かな。

(ほんと、一年間ずっと一緒に登校したんだな)

「詩依さー」

「なにー?」

 んしょ、と一回カバンを掛け直す詩依。後ろのロッカーへこれからいろいろ置いていくために早速今日から辞書とか入れてそうだな。

「四年に一度を連呼する割には俺と毎日一緒に登校するよな。下校も」

「だって私の心の支えだよ!? 雪くんと一緒に登下校できなくなったら私泣いちゃう!」

 詩依の場合、冗談抜きでほんとに泣いてきそうだ。

「心の支えって、そんなにか?」

「うん!」

 相変わらずの即答っぷりである。

「それに、小学校行ってもずっと一緒に行こうって言ってくれたの雪くんからだし!」

「はいはい覚えておりますよ……」

 当然それ出してくると思ったぜ……。

「中学校に入っても一緒に登校してくれて、うれしいなっ」

「入学式からいきなり俺んの前で待機してやがったしなっ」

 しょっぱなそんなことがあり、それから今までずーっと……ほんとにずーっと朝登校するとき俺ん家の前で待ってる詩依。

 ある時、五分早めにドアを開けたらさすがにいなかったが、すぐに現れたからそれまで毎日五分くらい待っていたんだろうかと思い、その日から家を出るのを少し早めた。でもやっぱりドアを開けると家の前にいてる詩依。

 こればっかりは四年に一度ではなく毎日毎日毎度毎度である。


 結局他の友達と合流することなく二人のままで校門をくぐった。とはいえでっかい木の板に一枚一クラスずつ掲示されてる新しいクラス表の確認のために、学生たちはわんさか玄関ポーチに集まっており、最終的にはそこで友達と合流するんだが。

 普通確認は一組から~とか混んでるから反対の五組から~とか確認するイメージだが、詩依は真っ先に四組を確認しにいった。いやいやほんと4好きだなおい。

 さーて俺は何組かな~一組から~っとって思ったら右腕を思いっきしぎゅぅって抱きつかれた。おいここ学校。人込みとはいえ周り学生だらけっス。

(そもそも女子から腕抱きつかれたらドッキドキするに決まってんやろーがぁー!!)

 そんな俺の心のツッコミなんて届くわけないことぐらいわかってらい。てかその半端ない笑顔を見せつけられたらツッコミなんてどうでもよくなるさ。

(別に俺は四年に一度の奇跡なんて信じてないからな!)

 なぜなら、毎日ずっと詩依と一緒に楽しんでいけたらいいと思ってる派だからな。

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