8:「受付嬢のすすめ」

 ギルドハウスの中には、まだ日が出ているのにドンチャン騒ぎをして酒をあおる冒険者がたくさんいた。

 しかしその中に、俺の探している人物は見当たらない。



「えっと、父さんは……?」



 独り言に近い声の大きさで呟く。

 仮に普段の声で話したとしても、聞こえることはないだろうけど。


 一応、ひとしきりテーブルを見て回る。



「やっぱいないか」



 少し前に、朝にぽろっと父さんの秘密を俺にばらしたお兄さんが、「大丈夫かい?」と声をかけてくれたけど、大丈夫ですと言っておいた。



「エレンノーラさんに聞いてみよう」



 こっちの方が早い。

 楽しんでいる人を邪魔するのは、何か悪いしね。


 俺はカウンターに向かう。



「すみません、エレンノーラさん。父さんのアルフレッドって、ここにいますかね?」



「ううん、レイ君が出発したぐらいにいなくなったきり。まだ戻ってないわ」



「そうですか……。ありがとうございます」



 一足先にここに来ててもおかしくないと思ったんだけどな。

 じゃあ、家に帰ったのかな。



「でも、これ持って帰るわけにはいかなくないか?」



 モンスターを倒した証ではあるものの、大きすぎて邪魔だ。

 それに匂いも気になる。


 悩んでいると、エレンノーラがカウンターに身を乗り出してくる。

 そして、なにやら察したように微笑んだ。



「ははーん。もしかして、それをあの人に見せたいのかな?」



 受付をすることで、たくさんの人と会う機会がある。

 それによって、多少の考えごとは筒抜けらしい。


 だけど、別に隠す必要もないだろう。

 めっちゃにやにやしていてなんか怖いけど、俺は正直に答える。



「そうなんです。でも、持って帰るには問題があって……」



「それなら、ここで売っちゃいなよ」



「売る?ってどういうことですか?」



「あー、君にはまだ説明してなかったね。冒険者ギルドの役割は、おもに三つあるの」



 一つは、依頼の仲介。

 依頼主の要望を聞き、それに見合った実力をもつ冒険者に依頼をこなしてもらう。

 実力が見合わないと依頼は受けられず、めったに事故が起きることはないのだ。

 中には、実力の目安として『ランク』というものをつけるギルドもあるとか。


 二つ目は、所属している冒険者の身分を証明すること。

 冒険者は身分が非常に証明しずらいとされている。

 というのは、無職でも冒険者と名乗ればそうなれるからだ。

 色々な厄介事に巻き込まれることも防げる。

 なので、ギルドに所属する事は推奨されているらしい。


 三つ目は、モンスターの素材などの買い取り、そのほかサービスの提供。

 専用の宿が付いていたり、工房が隣接していることもあるらしい。

 今回は、この三つ目に当たるわけだ。



「わかったかな?」



「はいっ!でも、父さんに見せれなくなるので、悩みどころですね」



「それなら、ここに素材を預けておいたらどう?買い取りはあとからでもできるし、こっちで価値が落ちないようにしておくからさ!」



「それなら、ぜひお願いします!」



 至れり付くせりとはまさにこのことだろう。

 俺は、取りあえずモンスターの頭部とポーチの中に入ってる素材を全部とりだし、エレンノーラに預ける。



「じゃあ、これはこっちであずかっておくとして……。また、これからお父さんを探すの?」



「そのつもりです。あんまりものを預かってもらうのも悪いですし、なにより早く報告したいので!」



「あー、いいのいいの。私たちギルドのことは心配いらないから」



 そんなことは言っても、やはり迷惑かもしれないので、なるべく早く父さんを見つけないと。


 それにしても、どこのギルドもこんな良心的なんだろうか。

 ここのギルドが特別なのかもしれないけど、すごくありがたい。

 なにか恩返しできることがあったら、そのときはがんばらなければ。



「でもそうね……一度、鍛冶ギルドにいって装備を見てみたらどう?なにか買うのもいいし、なんなら時間つぶしにもなるわよ!」



「鍛冶ギルド、ですか」



 たしかに、そこいって時間をつぶすのもいいな。

 それからなら、父さんが家に帰っている可能性も高まるし。



「ちなみに、おすすめは?」



「【暴牛の炎槌えんてい】ってギルドかなあ。あそこは、皆腕が良いから。私が保証しちゃう!」



 やけに興奮気味にエレンノーラは紹介する。

 鼻息あらいし、顔が赤い。

 なんなんだろうか、とても熱がこもっている話し方だ。



「で、では、今からそこにいってこようと思います……」



 エレンノーラさんは良い人なんだけど、俺は苦手かもしれない。

 そんなことをうっすらと思いつつ、顔を近づけてくる彼女を振り切り、俺はギルドハウスを全力で飛び出した。



「……こわいな」



 そう不意に口からこぼれたのも、仕方が無いと思うんだ。

 うん、全俺が納得してるよ多分。



「あ、だけど聞いたギルドの場所わかんないな」



 でも、今ギルドハウスの中に戻るのはちょっとね。



「まあ、いっか!」



 なので、流れに身を任せることにしました。

 聞き込みしなきゃ。



「うー、大変だなー……」



 人事のようにいってるけど、自分の事なんだよね。

 わかってます、がんばりますよ……。

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