起動する軌道

楠木黒猫きな粉

呼応する鼓動

息が詰まった。鼓動が止まった。春の匂いと共に桜が散った。阿呆の戯言を聞きながら私はただ泣いた。「誰がこんなモノを望んだ」泣きながら問いを投げかける。阿呆は答えもせずただ戯言を謳う。

息をする。鼓動する。それら全ては宇宙の終焉である。俺は間抜けに説いていた。間抜けは相応しい面をぶら下げながら得てもいないモノを拒んでいた。

起動しない。軌跡がない。これら全てに価値はない。私に向けて阿呆は笑う。それは微笑であり嘲笑であり肯定である。そうした阿呆は私を間抜けと言い表す。賢者と呼ばれた私はただ阿呆を嘆いた。

軌道がある。証がある。それら全ては世界の存在を肯定する。賢者を騙る間抜けはしてやったり顔で俺を見つめる。それは呆れであり絶望であり否定である。こうして間抜けはまた俺に間抜け面を晒してくるのだ。

生命がない。実感がない。自分の存在を証明できない。今を生きている阿呆が羨ましい。私はここにはいない。呆れてしまうほど遠い世界に私はいる。故に私は命を実感できないのだ。感覚の全てが遥か昔のものだ。阿呆から感じる全ても私にはない。阿呆は私をまた間抜けと笑った。

現実がある。実在を持つ。自分がこの世界だと確信を持つ。俺は遠くを生きる間抜けが面白くて堪らない。自分がここに居ないと言うくせに俺をひたすらに笑うのだ。道化を見る目で俺は笑う。自覚のない軌跡を描き、気づかず嘆いた間抜けは道化のように価値を持っている。


石穿つ大河に意味を与えた。死んでいた人間に価値を与えた。無益な戦争に理由を与えた。嘆く未来に希望を与えた。

賢い生命は軌跡を描いた。


雨空に願いを説いた。結ばれた縁を解いた。神を願う人々から理想を盗んだ。奇跡の未来を灰色に染め上げた。

究極の人間は世界を謳った。


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起動する軌道 楠木黒猫きな粉 @sepuroeleven

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