第53話:動物に好かれない

 話を聞くと、ドラゴンという個体は種族にかかわらず自然と威圧を放っているのだとか。

 五感に鋭い動物などはその威圧を感じとり逃げてしまうことが多く、馴れていない動物などは興奮して乗れたものではないらしい。


「森の動物たちはレイチェルに馴れているってことなのか」

「……う、うん」

「そうなると、しばらくは徒歩になりそうだな」

「私は構わないけど」

「……二人とも、本当に大丈夫なの?」

「「全然大丈夫」」


 レイチェルの問い掛けに全く同じタイミングで答えた俺とリリアーナ。

 その様子を見たギルマスが声を押し殺して笑っている。


「安心しろ、レイチェルちゃん。これでも二人は凄腕の冒険者だからな」

「リリアーナはともかく、俺は昨日冒険者になったばかりの新人なんですが?」

「等級と実力が伴わない者も稀にいるからな! なんなら、ここで上の等級に上げてもいいんだぞ?」

「……遠慮しておきます」


 ここで変に目立つのは、後々のことを考えるとやめた方がいい気がする。


「アマカワって、新人冒険者なの?」

「あぁ。転生者ってやつだ」

「転生者……初めて見たわ」


 レイチェルもそうなのか。

 転生者って、話には聞くけどそこまで数は多くないのかもしれないな。


「ギルマスは転生者に会ったことはあるんですか?」

「過去に一度だけな。アマカワのように強力なスキルを複数所持していたが、そいつは自由気ままな性格だったのか冒険者になったらさっさと出て行ってしまったよ」


 俺もそういう自由な生活がしたかったかも。

 しかし、俺以外にも身近に転生者がいるかもしれないと分かったのは嬉しいかも。

 もし出会うことがあれば話くらいはしてみたいものだな。


「すぐに出発するの?」

「そのつもりだったんだが、馬の調達が難しいなら一日休んでもいいかと思っている」

「少しでも近くに行くなら歩いていくのもありじゃないの?」


 俺もそれは考えたのだが、そう口にしたリリアーナのことが心配なんだよな。


「お前、魔力を大量に消費してしばらく倒れていたじゃないか」


 俺は魔力を使わずにスキルだけで乗り切ることができたけどリリアーナは違う。

 魔力を大量に消費して疲弊しているので、ここは一日休んでから向かう方がいいと判断した。


「これでも体力や魔力の回復は早い方なのよ? それに、私よりも森の動物たちの方が心配だもの」

「……ううん、ダメ。出発は明日にしましょう」


 首を横に振ってそう答えたのはレイチェルだった。

 一番森の動物のことが気になるだろうレイチェルからそう言われてしまい、リリアーナは何も言えなくなっているようだ。


「レイチェルはそれでいいのか?」

「うん。無理をさせて、二人に何かあったらそっちの方が嫌だもの」

「レイチェル……」


 うん、この子は良い子決定だ。

 そしてギルマスよ、あなたのレイチェルを見る目がなんだか怖いんだが。


「と、とりあえず、解毒剤は空間収納に入れておくから、他にも必要なものがあれば調達しておこう」


 俺がそう言うと、ギルマスは分かりやすく嫌な顔をした。

 ……いや、あんたから早く離れたいんだよ! このままここにいたら、あんたがレイチェルを害しそうな気がしてならん!


「夜にはギャレミナさんのお店にも行かないといけないしな!」

「ギャレミナ~? 何よアマカワ、あんたアンナ奴の世話になってるの?」

「知り合いなんですか?」

「まあ、昔ちょっとね。偏屈で、自分の興味のあること以外には無頓着で、付き合えるのは私くらいしかいないと思ってたくらいに面倒な奴だよ」

「……まあ、分かる気がします」


 まず一元さんお断りの時点でそうだとは思っていたよ、うん。


「……ん? ということは、アマカワはギャレミナを満足させる素材を持ち込めたと言うことか?」

「あっ! わ、私たち、そろそろ行かないといけないんだ!」


 ギルマスがそう口にした途端、リリアーナが慌てた様子で冒険者ギルドを出ていこうとする。


「おい、リリアーナ。何か知っているな?」

「さあ、早く行きましょう! ……知られると、師匠も結構面倒なんですよ!」


 ギルマスといい、ギャレミナさんといい、この都市にはそんな人しかいないのかよ!


「聞こえているぞ、リリアーナ!」

「ひやあっ! い、行くわよ、アマカワ! レイチェル!」

「お、お邪魔しました!」

「レイチェルちゃんまで!」

「……まあ、ここにいても始まらないしな」

「アマカワまで! もう、帰ってきたら覚えてらっしゃい!」


 ギルマスのそんな言葉が頭に残ってしまったが、俺たちは挨拶もそこそこに冒険者ギルドを後にした。

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