第33話:売却②

 アレッサさんとのやり取りはリリアーナが手際良く終わらせてくれたので俺は何もすることがなかった。

 これだけのことをやってもらったのだから、やっぱり金額を山分けににしておいてよかった気がする。

 だって、これ以上のものを返せる自信がないんだもの。


「はい、アマカワ」

「……えっ? これ、全額じゃないの?」

「そうよ」

「……や、山分けって言ったよね!」


 何を当然のように全額俺に渡してきてるんだよ! それじゃあお礼にならないじゃないか!


「最初はそういうことだったけどさ。一応、私たちはパーティで、お金も共有することになるんだから、預けておいた方がいいかなってね」

「……あー、そういうことか」

「納得してくれた?」

「……うん。その、怒鳴ってごめん」

「いいのよ。それに、ちゃんと山分けだって言ってくれて、その、嬉しかったから」


 ……あー、ヤバい。これ、めっちゃかわいいじゃんよ!


「とーこーろーでー! アマカワ君って空間魔法の持ち主なのー?」

「うわあ! ち、近いですって、アレッサさん!」


 俺がリリアーナの表情に見惚れていると、目の前にぬうっとアレッサさんの顔が出てきた。


「あはは、ごめんごめん。でもさ、空間魔法持ちって少ないから気になっちゃって」

「そ、そうですよ。だからこれだけのアースレイロッグを持ってこれたんです」

「そうなんだー……へぇー……」


 ……なんだろう、ものすごく嫌な予感しかしないんだけど。アレッサさんの表情が、獲物を見つけたような鋭い視線になっているような気がする。


「……ねえ、アマカワ君」

「な、なんでしょうか?」

「アマカワ君と専属契約を結びたいんだけど、いいかしら?」

「……専属契約?」


 なんのことだかさっぱり分からないので首を傾げていると、横からリリアーナがものすごい勢いで割り込んできた。


「ダ、ダメよ! アマカワは私とパーティを組んで二人で冒険に出掛けるんだからね!」

「でも、その道中で貴重な素材が手に入ったら、こっちで売ってくれてもいいじゃないのよー!」

「そんなことしたら、別の都市に行った時にお金がなくなっちゃうじゃないのよ!」

「大丈夫よ! そこは私が援助してあげるからー!」

「……あのー、専属契約ってなんですか?」


 勝手に話を進めている二人には悪いが、俺も内容を知っておきたいのでとりあえず割って入ることにした。

 すると、アレッサさんの目がキラリと光った……ように見えたのは気のせいだろうが、説明をしてくれた。


「専属契約っていうのは、そのお店でしか貴重な素材は売らないってものよ。ちゃんと魔法契約まで行うから、約束を違えてしまうと相手に分かるようになっているのよ」

「それって、俺にはどんなメリットがあるんですか?」

「魔法契約に、適正価格よりも高値で買い取ることを約束するわ。それと、道中の資金も援助してあげる」


 グランザリウスには面白い契約もあるものだな。

 しかし、今の説明だけでは色々と問題はありそうな気がする。


「アレッサさん、いくつか質問をしても?」

「構わないわよ」

「魔法契約で行う約束事というのは、アレッサさんが言った内容以外のことも組み込めるんですか?」

「私にできる範囲のことなら組み込めるわよ」

「それじゃあ、他所のお店よりも高値で買い取るっていうのは、どうやって値段を決めるんですか? 他の都市の値段なんて、知りようがないですよね?」

「魔法契約をするには、商売の神様と契約を結ぶということなの。その場合、グランザリウスに限りだけど各商品の適正買取価格っていうのをお互いに知ることができるようになるわ。その価格よりも高値で買い取るんだけど、その値段に関しては要相談って感じかな」

「他所のお店が適正価格よりも高い値段を提示してきた場合はどうなるんですか?」

「その場合は、魔法契約の他所のお店で売却しないっていう約束事があるからそもそもがダメよ」

「そうですか。……それじゃあ最後にもう一つ──約束を違えた場合はどうなるんですか? ただ相手に違えたことがバレるってだけじゃないですよね?」


 もしバレるだけというのであれば、お店側にメリットが少なすぎる。

 アレッサさんからの提案の場合、高値で買い取ってもらえるだけではなく道中のお金まで援助してくれるのだが、他の都市で俺が何かを売った場合のデメリットがバレるだけっていうのはどうなんだろう。

 値段の折り合いが付けばさっさと売ってしまい、援助してもらったお金を持ち逃げすることもできてしまうのではないだろうか。


「仮に私が約束事を違えてしまった場合は、商売自体ができなくなるわ。これは言葉だけではなく、実際に商売と名のつくことが何一つできなくなるの」

「……でも、できますよね? 商品とお金のやり取りだけですし」

「ううん、できないわ。もしやろうとしても、神様の魔法障壁が私と商品の間に発生して手にすることができなくなるの」

「そ、そんなのありなんですか?」

「実際にそうなんだから仕方ないわ」

「……そ、それじゃあ、俺が約束を違えた場合はどうなるんですか?」


 今の話を聞くと、なんとなく予想することはできる。


「もしアマカワ君が約束を違えると、グランザリウスにおける全てのお店で商品を売ることができなくなる。これもさっきの話し同様に、神様の魔法障壁が発生するのよ」

「……そうですか」


 まあ、予想通りの答えではある。

 しかし、これは迷いどころなんだよな。

 専属契約を結ぶことでお金の心配はなくなるだろう。ある程度生活できるお金を事前に受け取ることもできるということだし。

 だけど、一攫千金を狙うなら専属契約は確実に足枷となってしまう。

 売り場所は多ければ多いほど、高値を掲示してくるお店は増えるだろうし、マニアなどがいれば絶対に欲しいと相場の何倍もの金額を出してくる個人もいるかもしれない。

 ……とはいったものの、俺の答えは決まっているんだけどな。


「分かりました。契約内容は吟味する必要がありますが、専属契約を結びたいと思います」


 今の俺には、専属契約を結ぶことが一番のメリットになるのだ。

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