第32話:売却

 冒険者ギルドを後にした俺たちは、リリアーナの提案でアースレイロッグを売るために馴染みのお店へ向かうことになった。

 道中では多くの人からリリアーナは声を掛けられていたので、実力だけではなく知名度も相当高いのだと分かる。

 それに、信頼されているということも。


「リリアーナって人気者だな」

「どうかしら。普通に話して、普通に買い物してるだけなんだけどね」

「それが身近に感じられるポイントなのかもな」


 そんな話をしながらだったからか、目的地にはすぐに到着した。

 しかし、さすがは上級冒険者馴染みのお店というべきか……めっちゃでかいお店なんだけど。


「ここは、私の親戚が営んでいるお店なのよ」

「そ、そうなんだ。リリアーナは上級冒険者で、親戚はこんな立派なお店を営んでいるって、すごい家系なんだな」

「そうかしら? 周りはこんな人ばかりだから分からないわ」


 ……あぁ、そうですか。

 もしかして、俺はものすごい人とパーティを組んでしまったのかもしれない。


「とりあえず、外にいても始まらないしさっさと入りましょう」

「あ、あぁ、そうだな」


 リリアーナに促される形でお店の扉を開けた。


 ──カランコロンカラン。


「はーい! って、リリアーナじゃないの!」

「お久しぶりです、アレッサ」

「本当に久しぶりね、元気にしてた?」

「うん。顔を出せなくてごめんね、なかなかお店で売れそうな素材が手に入らなくてさ」

「リリアーナからならなんでも買い取るって言ってるんだから、顔を出してよね」


 この綺麗な女性がリリアーナの親戚の方だろうか。

 敬語を使っているということは年上ということかな。ということは……うん、やっぱり年齢のことは忘れよう。


「それでー? さっきから気になってるんだけど、そっちのかわいい子は誰なの? リリアーナの彼氏?」

「かれ!? ま、まだ違うわよ!」

「まだ? それって──」

「あー! ああー! 違うから! アマカワは私とパーティを組んだ新人冒険者よ!」

「えっと、天川賢斗、です」

「アマカワ君ね。私はアレッサ、このお店のオーナーよ、よろしくね」


 手を差し出されたので握り返したのだが……ものすごく見られているんだけど。それに、手も離してくれないし。


「ねえねえ、あなたから見てリリアーナはどうなの? 彼女候補になれるかな?」

「えっと、なんの話でしょうか?」

「もしなれないなら、私で手を打たない? こんなかわいい男の子なんて、なかなかお目に掛かれな──」

「アレッサアアアアァァ? 何を言っているんですかああああぁぁ?」


 俺とアレッサさんの間に体を入れてきたリリアーナがものすごい形相で睨んでいる。


「あはは! 冗談よ、冗談! もう、リリアーナもかわいいんだからー!」

「じょ、冗談に聞こえないのよ!」

「まあ、半分冗談だからかしら?」

「ちょっと!」

「だーかーらー! 冗談なんだって! それで、素材っていうのはなんなのかしら? さっきの発言からだと、私のお店で取り扱える素材が手に入ったってことよね?」


 アレッサさんの言葉にリリアーナがこちらを振り返り頷いたので、俺は鞄から出すフリをして空間収納からアースレイロッグを取り出した。


「おぉーっ! これって、アースレイロッグじゃないのよ! アマカワ君が見つけたの?」

「えっと、そうですね」

「どこでどこで? もし採掘場が見つかったなら、高値で情報を買い取るわよ?」

「そこは言わせませーん!」

「えぇーっ! ……ということは、リリアーナも知っているのね?」


 ターゲットが俺からリリアーナに変わったのか、肩に手を回して壁際まで移動しようとする。

 しかし、リリアーナはその腕をどかしてアースレイロッグの値段を聞いていた。


「まずは、これの値段から聞いてもいいかな?」

「値段かぁ……そうねえ、このサイズなら10リラで買い取るわよ」

「じゅ、10リラ!?」


 それって、円で言うと10万円ってことですけど!?


「その言葉に偽りはないわよね?」

「私がリリアーナに嘘を言ったことなんてある?」

「……ある。ついさっき」

「あれは冗談であって、嘘ではないわよー。って、いったいなんなのよ、他にも何か素材があるの?」

「……アマカワ、全部出していいわよ?」

「い、いいのか? 結構な量になるけど」

「大丈夫。だって、アレッサだもの」

「ん? 全部って……ま、まさか!」


 どうなっても知らんからな。

 俺はリリアーナに言われた通りアースレイロッグを全て取り出した。

 明らかに鞄には入らない量なのだが、空間魔法持ちということで誤魔化しは効くはずだ。

 そして、取り出したその量は最初に見せた物の10倍はある。単純計算で……100万円相当になってしまうんだが、大丈夫なのだろうか。


「……あは、あはは……マ、マジ?」

「マジマジ。それで、これってまとめて買い取れたりする? まとめての売却ってことで、少し色を付けてもらえると嬉しいんだけど」


 さ、さらにたかるつもりですか、リリアーナは!


「もちろんよ! これなら、120リラで買い取ってあげるわ!」


 そして即決ですか!

 えっと、120リラ……120万円……無一文から、一気にお金持ちになってしまった。

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