KAC20205 どんでん返し

魔法少年アサヒ 第5話 魔女時代の終焉

 アサヒとヤミが独り立ちして3年が経った。魔法少女と魔女の戦いは苛烈を極めながらも徐々に魔女側の劣勢となっていく。自分達が不利になった事を自覚した魔女達は力を結集し、連合軍として戦う選択を取った。

 対する魔法少女達もその軍勢を倒そうと集結し、ついに生き残った魔女達が集う魔女要塞にて、お互いの残存勢力がぶつか入り合う最終決戦が始まったのだった。


「ヤミ、ちゃんと付いてきてる?」

「はい、おねーさま、ここに!」

「この戦いで最後にしましょう! 行くよ!」

「どこまでも付いていきます!」


 魔女の軍勢は彼女達が作り出した魔獣に闇の魔法少女、それと当然魔女自身の魔法攻撃。対する魔法少女はそれぞれが鍛えた技術と魔法のみ。普通に考えたら魔法少女のほうが不利に思えるけれど、一人ひとりの基礎能力では魔法少女の方が上回っており、この最終局面においても魔女の軍勢は少しずつ力の均衡を崩していった。


「ソーラーパワーレボリューション!」

「キャアア!」

「秘伝! 冷凍華!」

「グボオオ!」


 それぞれの必殺技が取り乱れ、両陣営はお互いに激しい戦闘を繰り広げていく。個々では魔法少女の方が強いとは言え、魔女側も必死で敵を増産しているため、その物量にかなり手を焼いていた。

 戦いながら戦局を冷静に分析していたシエラは、この戦いの行く末に対して不安を覚える。


「ヤバい。このままじゃ魔女を倒す前に戦える魔法少女が足りなくなりそう……」

「そんな……。おねーさま1人でも魔女は倒せるじゃないですか」

「今まで魔女ならね。要塞に残る最初の6人は桁が違う。1人じゃ到底……」

「おねーさまには私がいます!」


 強がるヤミの顔を見たシエラはニッコリ笑い、サムズアップをした。


「だね。この作戦で決着をつける。頼りにしてるよ!」

「私達で終わりにしましょう!」

「なーに2人で盛り上がっちゃってんのかしらぁ?」

「フェル?!」

「終わるのはあなた達の方ですからね!」


 2人の前の現れたのは、最初の闇の魔法少女フェル。彼女はこの決戦のために魔女から力を与えられており、チート級の能力で既に何人もの魔法少女達を血祭りにあげていた。

 シエラもヤミも奮闘するものの、強敵のフェルを前に魔女にまで手が出せない。


「ほーっほっほ。私がこの戦いを終わらせてあげますわ!」

「フェル! あんたもここで終わるのよ!」

「口だけは威勢がいいのねぇ!」

「ヤミ、シンクロで行くよ!」


 シエラとヤミはフェルを倒すためにお互いに力を共鳴させて合体魔法を発動。何倍にも増幅されたその魔法攻撃を、フェルは鏡魔法で完璧に反射する。

 そっくり反転した合体魔法は発動した2人に直撃、かなりのダメージを受けてしまった。


「「キャアアア!」」

「その程度の力……私には効きませんでしてよ」


 フェルの力は別格なものの、全体の戦況ではお互いの戦力はまだ拮抗している。そんな中、魔女側に新たな動きが現れる。混戦のさなか、要塞にこもっていた6人の魔女の1人、アビルが姿を表したのだ。


「私達が集まったのは魔法少女共を一掃するためじゃ。小うるさいハエ共よ、恐怖に震えるがいい! これが我らの切り札、最終兵器ガランじゃ」


 その言葉と供に登場したのは、魔女の最終兵器。見た目には可動式の大きなパラボラアンテナのようなもの。あまり強そうに見えなかったため、魔法少女は誰もそれを気にはしていなかった。

 しかし、アビルが兵器を稼働させた途端、戦況は一変する。


「あれ? 魔法が出ない?!」

「ヒャッヒャッヒャ。魔法少女はこれで終わりじゃあ!」


 ガランによって魔法少女の魔力はどんどん吸い取られていく。力を失った魔法少女達は苦戦し、戦況は魔女側の有利に傾いていった。



 その頃、魔法少年のアサヒは魔法生物12体の集まる神殿にいた。最終決戦が始まる前に別行動を取っていたのだ。

 全ての魔法生物が一堂に会する中、師匠のトリが代表で話を進める。


「今からアサヒに我らの力の全てを預けるホ」

「お、お願いします」


 神殿の中央に立ったアサヒを取り囲むように並ぶ12体の魔法生物は、それぞれの力を彼に分け与える。膨大なエネルギーをその身に受けて、アサヒは恍惚の表情を浮かべていた。


「すごい……まるで自分が自分じゃないみたいだ。力が溢れてくる……」

「ボクらはアサヒにすべてを託したホ。思う存分暴れてくるホ!」

「任せてください!」


 こうしてアサヒは最強の力を身に付け、すぐに魔女要塞に転移する。後に残った魔法生物達は、遠隔映像魔法で魔法少女達の戦いを静かに見守るのだった。


「ここからが最後の戦いホ……。アサヒ、その真価を見せるんだホ!」


 アサヒは一瞬で最終決戦の場に転移したものの、既にガランによって多くの魔法少女達が倒された後。その中にはシエラとヤミもいた。

 ただし、一方的に負けているのではなく、魔女側も魔女以外そのほとんどの勢力を失い、まともに動けるのはフェルただ1人。唯一残った闇の魔法少女は、いきなり現れた魔法少年に近付くと胸を張って牽制する。


「今頃来たって事は何か企んでいるんだろうけど、お生憎様。私がそんな事させないから」

「今日の俺は一味違うぜ?」

「あら? 一味違うのがあなただけと思って?」

「試してやるさ!」


 こうしてフェルとアサヒの一騎打ちが始まった。お互いにパワーアップした2人の戦いは、並の魔法少女には見えないほどの速さで展開していく。

 要塞で倒れていたシエラとヤミは、何とか顔を上げてその究極の戦いを目に焼き付けていた。


「はは、アサヒも強くなったもんだ……」

「おねーさま、アレはインチキな強さです。そのままだったら……」

「分かってるよ。でも、インチキを味方に出来るのがアイツのすごいところなんだ」


 魔女の力を得たフェルと魔法生物の力を得たアサヒ。最初こそ互角に見えたものの、パワー満タンで臨むアサヒに対して、ある程度疲労していたフェルでは戦闘開始時点でハンデ戦をしているようなもの。

 時間が経つにつれ遅れを取り始めたフェルは隙を突かれ、アサヒの放った拘束魔法をまともに受けてしまう。


「取った!」

「そ、そんなバカな!」

「その拘束は抵抗の度に力を奪うから、無駄な事はしない方がいいよ」

「ぐぬぬ……」


 得意げに魔法の説明をしていたところ、その隙を突かれてアビルの操作するガランが稼働。この最終兵器によって力を吸い取られたアサヒもまた、成す術もなくその場に倒れたのだった。


「イーヒッヒッヒ。これで魔法生物共の企みもおしまいじゃ! 見ておれ、今度はこっちからお前らをみんな灰にしてやるわあ!」


 勝利を確信した魔女アビルは高笑い。これで危険が去ったと安心したのか、他の5人も魔女もアビルのもとに集まってきた。


「アビル、お手柄じゃ!」

「おお、何と言う良い光景じゃろうか」

「早速倒れた魔法少女達を集めんとのう……」

「今宵は勝利の宴じゃ」


 魔女達が好き勝手に勝利の余韻を味わっているところで、次の瞬間、自慢の最終兵器が大爆発を起こす。ガランのエネルギー吸収機構がその力を抑えきれなかったのだ。


「ヒイイ! 一体何が起こったのじゃ」

「これもアヤツらの仕業なのかえ?」

「こんなの計画になかったぞ」

「ガ、ガランが壊れるなどと……有り得ぬ……」


 魔女達はこの状況に混乱し始める。爆発によって、辺りには煙幕のような濃い煙が立ち込めていた。この視界不良の中で謎の人影が動き始める。その人影は次々に魔女を倒していった。


「ぐあああ!」

「な、何だ、何が起こっておる?」

「ま、まさかお主……」


 ゆっくりと煙は薄くなり、魔女を倒していた影の正体が判明する。何と、それは闇の魔法少女のフェルだったのだ。この衝撃の事実に、流石の魔女達も動揺して本来の力を発揮出来ないでいた。

 そんな中、一番彼女を信頼していたアビルが叫ぶ。


「フェル、お前裏切ったのかぁ!」

「そうよお、あんたで最後!」

「うっ!」


 目に見えな程の早い手刀を首元に打ち込まれ、ついにアビルもその場に倒れた。そうして、彼女にも拘束魔法がかけられる。その魔法の流派はアサヒと同じトリの得意とするもの。そこでアビルは真実に気付く。


「お前、フェルじゃないね……変身魔法か」

「そ、私はヤミだよ」

「い、いつの間に……。大体、動ける訳が……」

「さっきの爆発のどさくさでね。アレって闇の魔法少女には効かない仕組みじゃん。私、元闇の魔法少女だし。後は魔女が油断する隙を狙ってって訳」


 ヤミは自慢げにスラスラと説明する。完全に煙が晴れると、そこにはアサヒに拘束されて力を失った本物のフェルの姿も見えてきた。

 アビルは魔女仲間が全員拘束されている姿を目にして悔しがる。


「何てこった、気配が闇のものだったから完全に騙されたよ」

「ほらアサヒ、後はあんたが決めな!」

「分かってるよ……」


 ヤミに急かされたアサヒは起き上がると、魔女達を魔法で1か所に集める。全員ダメージを受けて動けなかったものの、その中で1人動けるアビルが気勢を上げた。


「一体何をするつもりじゃ」

「教えない」


 アサヒは意地悪っぽく笑うと、ステッキを指揮棒のように動かしながら呪文を唱える。


「ルーン・ルーン・ルーン。次元の扉よ、いざ開かん!」

「こ、この魔法は……待て、止めろ!」

「もう遅いから。さよなら」


 彼の魔法によって、魔女達は異界の穴に吸い込まれていく。彼女達はもう二度とこの世界に戻ってくる事はないだろう。


「あ、あんたも中々やるじゃないの」

「ま、さっきの異界追放魔法も合わせて、魔法生物の力のおかげだけどね」

「そ、そんなの当然よっ! あんたの本当の実力なんて私の足元にも……」

「みんな無事ホ~?」


 ヤミがデレている途中で魔法生物達が救済にやってきた。彼らのおかげで倒れた魔法少女達も回復していく。闇の魔法少女も浄化魔法をかけられ、次々にその呪縛から開放されていった。

 こうして戦いは魔法少女側の勝利に終わり、世界に平和が戻ったのだった。

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