第10話 皇帝陛下は元烈火の魔女様

 何で王室にいるんだろう……。

 私は貴族や王族のいる部屋は割に合わない。


 何でかって?昔から貧乏だったからね。盗みに働きはしないけど、抵抗があるんだ。

 ハッキリ言うと大金持ちは大嫌いだ。金と権力でものを言わせて人を見下してるんだ。とてもじゃないけど好めない。


 私の人形劇は貴族には見せられない。面白くないからね。


「それで?私らを呼んだ理由をご説明よろしいですか?」


 高貴な女性は私に少し砕けたような言葉を投げた。


「相変わらず、貴族嫌いは治らんのか?ネクロ」


 この口調、思い出した。思い出したくはないけど……。


「はぁ……君も相変わらずだねぇ。ネウロちゃん」


「ファ!?皇帝陛下にちゃん付け!?」


 先ほど私にボコボコにされた仮面の男が剣を抜こうとする。

 だがそれをネウロが止めた。


「良い。彼は余の古くからの友人だ。私語は構わぬ」

「……承知いたしました」


 ちゃんと首輪を付けなきゃだめだよネウロ。こういう時に限って狗は吠えるようなもんなんだから。


「数千年振りだな、ネクロ。亡くなったかと思ったぞ」


「そうかい?君も随分と長生きしてるもんだ。烈火の魔女様」


 その言葉に仮面の男とフレインは驚く。


「「れ……烈火の魔女!?」」


「確か数千年前に魔王率いる天魔将軍の一人を倒したとされている?あの」


「ああ、あの頃か。懐かしいな。あの時はネクロや勇者にちょっかいを出したものだ」

「私の人形を捨てたり、作りかけの人形を燃やしたり。勇者を誘惑したりと至り尽くせり。ホント嫌な奴だったよ」


師匠せんせいの知り合い?」


 知り合いというより腐れ縁だよ。


「まぁ、強さは折り紙付きだけどね」


 軽く苦笑いをする。私にとってタチの悪い相手だ。

 こいつの悪ふざけにどんだけ悩まされた事か……。


「しかし、陛下。この者がネクロ・ヴァルハラなのですか?」


「有無、余の判断に間違いはない。ロウデルよ、少しは信じぬか。見たのだろう?彼の人形劇を」


「……」


ふぅん……あの仮面の男の名はロウデルというのか。なかなか良い名をしてるじゃん。


「それにしても懐かしい顔だ。昔に戻った気分だぞ」


「そりゃどうも。で?本題は?」


ネウロは「そうだったな」と言って、私を見る。


「久しぶりに体を動かしたい。外で余と手合わせしてもらえぬか?」


「「!?」」


「何故だい?皇帝陛下として地位を上り詰めてるのなら私など屁でもないだろ?」


第一、私の剣技はそこらの騎士のより弱いのだが……。

手合わせする必要ある?


「……ネクロよ。いい加減に自分の技力に対して過小評価するのはやめておけい。弟子の目の前だぞ?」


もう悟られてる……相変わらずこいつの情報網は怖すぎる。

来たと思えば情報は筒抜け、隠し事が通じないみたいなものだよ。


「はぁ……わかったよ」


私は渋々、練習場に行くべく、回れ右をして足を進ませるのだった。


「勝てる見込みがないんだけど…」


若干弱気になりながら……。

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