第9話 謎の洗礼

一方、ロネス帝国の首都「サンチ」にある豪邸の応接室にて。


「家出した娘の行方は?」

「只今、報告が入りました。この首都に戻ったそうです。もう一人の人形使いを連れて」


騎士のような恰好をした男は「ご苦労」と言って、話している斥候から聴取する。


「その人形使いは?」

「自らをネクロ・ヴァルハラと名乗ってました。隣にフレイン嬢がいたとなれば、恐らく……師を見つけたのだと思われます」


「あのバカ娘が……!」と言って拳を握り、斥候を引かせる。



拮抗した空気の中、男は自分の召使いに命令する。


「娘を連れ戻してこい。後、その人形使いを殺せ」

「承知いたしました」







「さぁ、どうしましょ?魔女に追いかけられた子供達は助かるのでしょうか!」

「に…逃げろぉ!」


フレインは少し弱々しく演技をする。怖がる素振りだと思うけど、まぁ悪くない。

それから程よく劇が進み、結果は成功。フレイン初の人形劇を成功で納めたのだった。


劇を終えた後、アンコールを受け取ろうとした時だった。


「ん?」


仮面を付けた謎の男が私とフレインに近づく。


「何かね?舞台から降りてもらわないと困るんだが?」

「それは悪かったな。すぐに済むことだ」


すぐに済む?腰に剣をぶら下げてる人の言う事はどれも物騒だ。

しかし、鞘が細い。突剣レイピアかな?となると近衛兵ではなさそう。


「ネクロ・ヴァルハラと名乗る男!フレイン=ヴァロードを攫った罪としてお前を連行する。御同行願おう」

「え!?」


最初に反応したのはフレインだった。まぁ、そうだよね。これはちょっと予想外だったな。


「断る」

「即答!?」


仮面の男は「そうか、なら仕方ない」と言って鞘から剣を抜く。

レイピアにしても魔法の力を感じる。たぶん属性魔法が付与された武器だろう。


「魔法剣か……」

「ほう、知ってるのか?」


知ってるも何も、風属性の力を感じてるし、差し詰め「疾風のレイピア」みたいな感じの剣かな?


「力づくでお前を連行する!」

師匠せんせい!」

「実力行使はいけない気がするけどなぁ……」


仮面の男の刺突攻撃を躱し、武器を握った右腕を掴み、胸座を掴んで地面に叩きつける。


「ぐあっ!」


「これは【人形師の体術】という人形使いの護身術だ。覚えておきたまえ」


【人形師の体術】とは、人形師が敵に接近戦を仕掛けられた時に自動オートで発動する人形使いの能力スキルだ。相手の攻撃を一瞬で看破して攻撃を往なした直後に反撃するのが特徴だ。因みにザツマの人形「マリン」戦で攻撃を避けた理由はこれのおかげ。


「まだ続けるかね?」

「おのれ!」


仮面の男は勇猛果敢に剣を振るう。


「【人形師の体術】」


その攻撃を往なし、今度は踏み込んだ足を引っかけて転ばせる。


「なっ!?」


王手チェックだ」


そう言って背中を踏みつけた。

その一部始終を見ていたフレインは思わず拍手をする。


「すごい……!」


それに続いて民衆も拍手を送った。


「すげぇ!」

「武装した相手に素手で勝つなんて、ただの人形使いじゃねぇ!」

「カッコよかった!」


カッコいいかなぁ?覚えた能力何だけど……。


「な…なんて奴だ……手足も出ぬとは……」


「誰の差し金かな?」


私が黒幕の出所を探ろうとした時だった。


「そこまでにしておけ」


突如、目の前に高貴な女性が現れ、尋問しようとした私を止めた。

しかし、この女性。昔どこかで見たことが……ん?


「余の従者が無礼に働いた事を許してくれ」


「……」


この言い方、聞き覚えがある。

私と同じ風格をしているし、間違いない。この人は……


「ここで話すのは何だ。余の城に来るがいい。フレイン=ヴァロードもな」

「えっ!?」


ふむ、ただ事ではなさそうだねぇ。きな臭い香りがプンプンする。

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