第2話 退屈

あの戦いから数千年。


私、「ネクロ・ヴァルハラ」は変わらぬ自宅で、自分の趣味に没頭していた。

外部からの接触を断ち、日々納得がいく人形作りを邪魔者がいない状況で行えるからだ。


可愛らしい「蝋人形」、鉄の鎧を着こんだ「銅人形ブロンズ・ドール」、様々な素材で出来た人形たちが次々と出来上がっていき、魑魅魍魎の混沌を極めていた。














「……暇だ」





それから7日後、私はすっかり時間を見てなかった。

そう言えば、あの戦いから数千年も経ってるんだ。世界は完全に変わってるはず。



魔族と人間は和解してるかもしれない。一つの国が解体され、帝国から共和国になってるかもしれない。様々な可能性が頭に浮かび、私に興味を引き立たせる。


長年外に出てないんだ。どんな風に変わったか、余興潰し代わりに行ってみようじゃないか。


「久しぶりの外だ。長い旅になるだろう」


私は旅支度をする。恐らく今の時代では絶対着ないだろうというデザインの服は燃やし、人形たちに流行の服を準備、街の偵察をさせる。


僅か数分で人形たちが帰還し、服を作り出す。

そして3時間もしないうちに服装が完成する。


黒装束のような服装、肩には赤い竜のような紋章が付いたちょっと目立つ服。

まぁそうなるだろうさ。


「さて、周辺の村とかではだめだ。多くの情報を得るためには街に行く必要がある」


後は数千年立ってる今、私が所持している通貨が今でも通じてるかだ。

何かあったら売るのも手かもしれない。


袋に金貨を60枚くらい入れて、後はカバンに縮小させた戦闘用の人形を忍ばせて正当防衛の準備は完了。


「後は……っと」


家の壁に立てかけてある一本の剣に目をやる。

この剣は勇者と魔王を屠った時に使った伝説の魔剣〈トリスケリオン〉だ。


あれから趣味の方へ回ったから、こいつの出番はほとんどなかった。けどまた。

君を使わせてもらうよ。


「問題は刃の具合と力が残っているかだね」


立てかけた魔剣を手に取り、一振りする。


「……」


普通に素振りしても何も起こらないか、まぁ……もう魔王とかいないからね。

でもよくよく考えてみれば、魔族側の方では魔王の座を巡る覇権争いが今でも勃発してるんじゃないだろうか?


「……くわばらくわばら。あれは魔剣の頼みだったから殺っただけで、私の意志じゃないからねぇ」


少し苦笑した後、魔剣を鞘に納め、腰にぶら下げる。見た目はちょっと不気味なデザインだが、人形作りには欠かさない切れ味だったからね。それに力がなくても普通の護身用の剣にしては豪華すぎると思うけど……。


「……考えても始まらないか。行こう」


留守番をタナトスに任せ、私は家を出る。

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