【戦闘狂、冷静?いや脳筋】

 闇憑となったランスの姿を見た住人が騒ぎ出す。

「なんで街の中にモンスターが!?」

「うわぁぁぁ!」

 騒ぎが次第に大きくなる。


「うるせぇなぁ…せっかく楽しんでんだから邪魔すんじゃねぇよ!」

 ランスは辺りを睨みつけるが住人はパニックになっていた。

「まったく…これだから人間は…。

 住人は貴重な収入源なんてボスが言わなけりゃ今すぐ皆殺しにしてやんのになぁ…。」


 ランスの魔力に俺は少し焦っていた。

(マジか…ドラゴニュートって言えば、トリガーの世界でも最強クラスのモンスターだった…それがダークサイド、闇憑になった。

 普通のドラゴニュートならアーサーとジャンヌ、玉藻前のレベルMaxのパーティーでやっと一体って所だったぞ!)

 俺は村正を仕舞い、レーヴァテインに持ち替え、腰にもう一本剣を差した。


「おっ!それが炎の魔剣レーヴァテインか!

 やっと炎帝の本領発揮って訳だな?

 そうなると街中じゃ狭いか…場所を変えないか?アンタも住人に被害がでるのは望んでないだろ?」

 ランスが街の外を指差す。

「向こうに岩場の荒野があるんだけど、そこで殺り合わねぇか?」


(確かに…街中だと被害がでるな…。

 戦闘狂かと思ったが…意外に冷静なのか…。)

「いいだろう。」


「よし!決まりだな!じゃぁアンタも運んでやるよ!」

 そう言うとランスは風を巻き起こし俺の体を持ち上げる。



 俺はランスの風に岩場の荒野に運ばれた。

(索敵や、偵察に便利な能力だな…。)


 荒野に到着すると俺は地形の確認の為に辺りを見渡した。

(上空から見たのと地上ではだいぶ違うな…。

 だがあの岩の裏に…。)


 ランスは岩の上に立ち俺を見下ろした。

「さぁて!ここなら存分に殺り合えるな!」

 ローブを翻し一対の双剣を構えた。


「その前に一つ聞きたい。」

 俺の言葉に少し苛立ちを見せたが、ランスはぶっきらぼうに話を聞いてくれた。


(戦いが好きなだけで悪い奴では無さそうだな…まぁアノニマスに所属している時点で悪は悪だが…。)

「お前達のボスは何故俺を連れてこいと言ったんだ?」


「んなこたぁ知らねぇよ。

 ただ、アンタの事は知っていたみたいだぜ?

 引き金がどうとか言ってたからな。

 もういいかぁ?」

 ランスは首を鳴らしながら俺を見据えた。


「あぁ…。」

(引き金…トリガーの事か…って事はアノニマスのボスはトリガーのプレイヤーもしくはNPCだった可能性が高いな…。)

 俺はレーヴァテインを引き抜くと剣身から火花が散る。


「そんじゃ最初から本気で行くぜ…!」

 刹那、ランスの姿が視界から消えた。


(目では追えないか…。)

 俺はレーヴァテインを構え目を閉じた。

(足音は聞こえない…。)


 俺は目を開け剣を右に振り抜いた。


「おっと!危ねぇ危ねぇ!」

 ランスは剣をかわすと、また姿を消した。


(だめか…。)

 再び目を閉じて集中する。


 チッチッと微かに音が聞こえた。


 俺が剣を振り抜くとランスは片方の剣で受け止め、反対の剣で突きを放つ。


 ランスの放った突きは俺の肩口へ刺さるが鎧に当たり火花が散る。

「チィっ!!」

 剣を返しの太刀で振り下ろすが空を切った。


「肩の鎧が邪魔かぁ…なら薄い所を狙うか!」

 ランスは剣をクルクルと回しながらまた姿を消した。


(なんとか今はレーヴァテインの"火花感知"能力で凌げてはいるが、ジリ貧だな…だけどそろそろ…。)

 周りを舞う火花がチッチッと音を立てて光る。


「そこだ!」

 俺が突きを放つとランスの頬を掠める。

(だいぶ慣れてきたな…。)


「へぇ…このスピードでも当ててくるのか…でも、アンタじゃボスには勝てねぇな…。

 ボスには俺がどんだけ本気になっても傷一つ付けられなかった…あの人は次元が違う。

 だから俺は…!」

 ランスの目が紅く光り姿が消えた。


「闇に堕ちたのか…。

 哀れだな…結局、お前もモルドラと同じ穴のムジナだよ。

 力を求め己を捨てた時点でそこまでなんだよ。

 自分と向き合って成長していくもんなんだ、生きるって事は…。

 己の心を捨てた時点でお前は死んだんだよ!」

 俺は腰に差したアルマスを引き抜く。


「"氷牢(ひょうろう)"!」

 アルマスから冷気が漂い辺りを氷の粒子が漂う。


「氷帝から奪った、魔剣アルマスか!?炎帝の癖に氷の魔剣なんか使うのかよ!」

 ランスの体に冷気がまとわりつき、動きが鈍くなる。


「なら炎帝って所を見せてやるよ!」

 俺は岩場を駆け上がり宙に浮いた。

「"ヴァーミリオン フレイム"!」

 レーヴァテインを振ると炎がランスに襲いかかる。


「この程度の炎で俺の防御を破れると…!」

 ランスは何かに気付き辺りを見渡した。


「周りの氷が溶け、水蒸気に変わるとどうなると思う?それに、お前が今いる場所は窪地。

 さぁ気付いたな?」

 俺はランスの周りに結界をはり、圧をかける。


「さぁ爆発だ。」


 次第にランスを包む結界が膨れ上がる。

「こんな…物ぉぉぉ!」

 ランスが結界を壊そうと暴れているが無慈悲にも結界の中で水蒸気爆発が起きる。


 爆発の衝撃に耐えきれず結界が崩壊し辺りの岩場を更地に変えた。


 俺は更地になった大地に降り辺りを見渡した。

(水蒸気爆発ってこんなに規模がでかいのか!?漫画やアニメとかのイメージで試してみたけど…怖っ!?)


 1ヶ所不自然な盛り上がりがある場所に気付いた。

(まさか…!)


 地面から腕が生える。

(えぐっ!?B級ホラーかよ!)


 次第に地面からボロボロになったランスが這い出てきた。


「まさか…こんな攻撃が…ちくしょう!奥の手まで使う羽目になるなんて…!」

 ランスの表皮が剥がれ落ちる。


 ズルリと音を立てながらランスの抜け殻が地面に落ちた。


「ふぅ…危ねぇ危ねぇ…危うく死んじまう所だったぜ!炎帝ぇ!アンタの名前を聞かせてくれよ!

 ボス以来だよ…こんな気分は!」

 ランスの瞳に光が灯る。


(まさか脱皮!?爬虫類かよ!?ドラゴニュートって脱皮できんのかよ!?)

「俺は神威。

 傭兵部隊インビジブル隊長、神威だ!」

 レーヴァテインを構えランスに斬りかかった。


「神威ぃ!!」

 ランスも双剣を構え向かってきた。



 …。

 ………。

 ……………。


 互いに足を他止めて撃ち合う。

 未だ致命傷は無いものの、次第に傷が増え互いの動きが鈍くなる。



「ははっ!楽しいなぁ!!血湧き肉躍る戦いを俺は求めてたんだ!神威、アンタ最高だよ!!」

 ランスは頬の血を拭うと剣を投げ捨てる。

「やっぱ拳で語ろうぜ!」

 剣の動きよりも速く殴りかかってくる。


「お前…本当は剣士じゃないだろ?こっちの方がしっくりくるぞ!」

 俺も剣を仕舞い殴り返す。

(なんだろう…このテンプレ展開…。)


 互いに防御を無視して殴り合う。

 肩で息をしながら動きが止まる。

「はあ…はぁ…はぁ…。」




 すると上空から声が聞こえた。

「ランス…何をしているんだ?メドラウドさんは炎帝を秘密裏に連れてこいって言ったんだぞ?

 誰が地形を変えるほど遊べと言ったんだ?」

 赤い仮面を付けた男が飛翔型ゴーレムの背中に乗り見下ろしていた。


 俺とランスは地上から見上げた。

(アノニマスのメンバーか?

 …半蔵!どういう事だ!?)

 男の隣には半蔵が立っていた。


 ランスは溜め息をついて叫んだ。

「うるせぇなぁミストナーヴ!ちゃんと連れていけば問題はねぇだろうが!」


「いや…もう必要はない。

 メドラウドさんはお前の度重なる勝手すぎる行動に御立腹だ。

 お前は六芒星から除名された。

 よって、六芒星"断罪のミストナーヴ"がお前に処分を下す。

 元六芒星、竜魔人ランス…アノニマス幹部でありながら、度重なる命令違反、ボスであるメドラウドさんに対しての挑発的な行為、万死に値する!

 お前はこの場で死ね!」

 ミストナーヴがローブを広げると同時に無数のナイフがランスに向かって投げられていた。


「はっ!そんなもんが俺に効くかよ!」

 ランスは鼻で笑いながら飛んでくるナイフを打ち払う。

「神威!アンタとの決着は後回しだ。

 先にアイツを殺す!」

 ランスが大地を蹴りゴーレムに向かって飛び掛ると見えない何かに弾かれた。

「なんだ!?」



(あれは…半蔵の"風遁壁"。

 何故、半蔵がアノニマスに手を貸して居るんだ?)

「半蔵!何しているんだ!」

 俺の呼び掛けに半蔵がピクリと反応する。


「隊長殿?拙者はミストナーヴを守っただけですよ。

 あれ…拙者は?…拙者は何故ミストナーヴを守った?

 彼が攻撃されそうになったから…。

 でも彼はアノニマス…隊長殿の敵足り得る存在なのに…?」

 半蔵は困惑しながらもその場を動こうとしない。


 するとミストナーヴは高笑いをしながら俺を見た。

「半蔵は、もう俺の部下だ。

 意思が強くて情報の引き出しや完全な書き換えは出来なかったけどな…!」


(書き換え…精神支配か!俺のマインド マリオネットの様なスキルを使ったのか!)

 俺はミストナーヴを睨みつけた。


「おい。神威!

 あのバリアはあの女のスキルなのか?」

 ランスは武器を拾いながら話しかけてきた。


「ああ…彼女は半蔵。俺の隊の姫…部下だ。」

 俺も剣を引き抜いた。


「アンタ、あの半蔵って女を正気に戻す方法を考えろ。

 そうすればミストナーヴは俺が殺す!」

 ランスは双剣を構え風遁壁に斬り掛かる。


 斬撃は弾かれるが、何度も何度も斬りつける内に風遁壁は音を立てて崩れ落ちた。

「ミストナーヴ!!」

 ランスがミストナーヴに斬り掛かると半蔵がランスの攻撃を受け止める。


「ははは!ランス…お前は確かに強いよ。

 だけどこの半蔵とは相性が悪いんだ。

 お前は半蔵には勝てないぞ?」


「邪魔くせぇ!」

 ランスは速度を上げて姿を消した。

 ランスがミストナーヴの背後に現れ剣を振るがランスの真横に半蔵が現れてランスを蹴り飛ばす。

「この女…俺よりはえぇ!」

 ランスは地面に叩きつけられながら受身を取り立ち上がる。

「攻撃は大した事ねぇけど速さが厄介だな…神威!アンタの部下ってみんなそうなのか?」


「半蔵は偵察、感知の特化だ。

 気配感知のスキルや身を隠すスキルが多いな…。

 防御スキルも逃走の為に持たしてある。」


「めんどくせぇ…1番苦手なタイプだな…ちまちまやるのは嫌いなんだよ!

 しかも俺より速いとか余計にやりづれぇ!」

 ランスは剣をクルクル回しながら半蔵を睨んだ。


「ははは!流石のドラゴニュートのランスでも自分より速いやつ相手では自慢の攻撃力も意味をなさないな!

 半蔵!炎帝は殺すなよ…ランスは動けななくなる程度に痛めつけてやれ!」

 ミストナーヴはゴーレムの上で笑っていた。


「隊長殿を攻撃?なんで…?

 敵だから?隊長殿が?

 分からない…でも、戦わないと…!」

 半蔵はゴーレムから飛び降り地面に着地した。


「半蔵…ランス!半蔵は殺すなよ!洗脳は俺が解く!お前はミストナーヴに専念しろ!」


「あ"ぁ"?俺に指図すんじゃねぇよ神威!言われなくてもミストナーヴの野郎は俺が殺す!

 ただ、この女が邪魔をするなら容赦しねぇ!」

 ランスは半蔵に向かって駆け出した。


「チッ!脳筋かよ!もう少し冷静な奴かと思ったのに!」

 俺も半蔵に向かって駆け出した。


 半蔵はこちらを見据えクナイを構えた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る