【罠】

 俺は今、魔狼山脈の国境付近にいる。

 アーサーはまだ回復していない為、自軍で療養中。

 自軍周辺のアヴァロンの捜索はルシファー達に任せ、俺はニア達と合流してギアの動きの視察という名目の情報収集をしようとしていた。


「本当に…ギアの住人達は仮面を付けて生活をしているんだな?」

 俺はニアに渡されたペストマスクを手に持ちニアに問いかけた。


「大丈夫ですよ御主人様!ちゃんと調べましたから!」

 ニアはいつもの仮面だ。

(半蔵は…仮面なのか?それは覆面じゃないのか?)

「は…半蔵は仮面ではないのだな…。」

 俺はペストマスクを装着した。


「はい。機械国ギアの住人は何らかの方法で素顔を隠しながら生活しています。

 仮面であったり覆面であったり。

 なので私は動きやすい様に視界の確保できる覆面に致しました。」

(半蔵が覆面をすると完全に忍者だな…。)


「少し声が篭って喋り辛いけど仕方ないか…よし行くぞ!」

 俺達は機械国ギアの領土に足を踏み入れた。



 ーーーーー



「ここがギアの首都シュタインか…。

 なんだかスチームパンクの様な街並みだ。」

 全体的に剥き出しのパイプや噴き出す蒸気、屋根についている恐らく発電用だろう歯車。

(この都はヤバい!カッコイイ!!)

 俺は辺りをキョロキョロと見渡した。


 街ゆく住人も茶色や黒を基調とした皮や銅、真鍮の装飾が付いた格好をしている。

(凄いな…こんな街並みは映画やアニメでしか見たことない。

 ペストマスクも初めて付けたけど…視界悪っ!!

 目のレンズの縁が視界に入って結構気になるな…。)


 住人を見ても皆普通に歩いて普通に生活をしている。

(慣れって凄いな…。

 でも何か違和感があるな…活気はあるのだけれど…なんだろう、この感じは…。)


 俺は違和感を感じ辺りを見渡しながら歩いた。



 すると誰かがぶつかった。

「すまない、大丈夫か?」

 俺は座り込む男性に手を差し出す。


「…だ。」

 男性は何かを呟いているが聞き取れなかった。

 俺が男性を起こそうとすると急に大声をはりだした。

「金だ!金を出せよ!!必要なんだ!!」

 男性は俺に掴みかかろうとしたがニアに取り押さえられた。


「御主人様に触るなよゲスが…!」

 ニアから殺気が滲み出る。


 周りの住人は無関心なのか気にせず通り過ぎていく。

(住人の空気がおかしい…慣れ過ぎている…この男も…正気じゃない…まるで混乱の魔法にかけられたような。)


 男性はニア取り押さえられながらも叫んでいる。

「金が…!金が無いと買えないんだよ!寄越せよ!金を!!メモリーを!!」


(メモリー?確か…尋問にかけた競売の元締めの男が言っていたな。

 アノニマスの資金源である麻薬。

 メモリー…か…ギアはアノニマスの動きが活発みたいだな…。)

 俺は男性に金貨を投げた。


「それで買えばいい。

 ニア離してやってくれ。」

 ニアは驚きながらも男性を離すと男性は金貨を拾い上げ走り去った。

「半蔵、奴をつけろ。」

 半蔵は頷くと影に消えた。


 ニアは首を傾げながら話しかけてきた。

「あの男に何かあるのですか?」


 俺は男性が走り去った路地を見ていた。

「おそらく、あの男は薬物中毒だ。

 アノニマスが捌いていると言う麻薬メモリーを常用しているのだろう。

 そしてギアにはかなり流通しているようだな…。」

 俺は辺りを見渡した。


 よく見ると路地の奥には蹲る人影や、街中で急に踊りだす人もいた。

(想像以上に面倒臭い事になりそうだな…。)



 ーーーーー



 路地裏の廃屋には影が二つあった。

「金だ!金を持ってきた!早く…早くくれよ!!」

 男性はもう一人に懇願しすがる。


「うるせぇなぁ…まずは金を寄越しな!」

 もう一人は黒いローブを頭から被り顔には赤い仮面を付けていた。


 男性から金貨を受け取ると小袋をほおり投げた。

(こいつはもうダメだな…騒ぎ過ぎた…ボスに連絡して処分するか…。)


 男性は小袋を拾い上げると中から粉の包まれた紙を取り出し袋ごと水で胃に流し込んだ。

 男性は一息ついてその場に寝転がった。


 黒いローブの男は男性から離れ通信用のタリスマンを取り出した。

「メドラウドさんお忙しい所申し訳ないです。

 例の男の処分の許可を頂きたく…はい…はい…分かりました…。」

 男はヨダレを垂らしながら寝転がる男性を見た。

「さて…お仕事しますかね!」

 男は男性の影に向かってナイフを投げた。


「ぐっ…!」

 影から半蔵が飛び出してくる。

 半蔵は脇腹を止血し、刺さったナイフを引き抜いた。


「アンタが炎帝神威の部下か…メドラウドさんの言った通りだったな。」

 男はローブの下から剣を引き抜く。

「色々吐いてもらおうか。

 お前達は何をしにきた?」

 剣先を半蔵の首元に突き付け仮面の下では口元を歪ませた。



 ーーーーー



 神威はニアと街の中を歩いていた。


 ニアは何かを考え込んでいるように見えた。

(怪しまれているのか…?俺がギアの調査という名目で動いていることが…。)

 ニアを流し見て視線を逸らす。


 ニアは黙り込んでいた。

(御主人様と2人きり…これは…チャンスなのでは!?いつもはアーサーや半蔵、フォカロルが居て御主人様と2人きりになる事なんて出来ない…。

 さり気なく御主人様に…。)

 ニアが神威の腕にそーっと手を伸ばすと急に神威の足が止まる。


「ニア…。」

 神威は振り返らずニアを呼んだ。


「はい!私は何もしてませんよ!?」

 ニアは慌てて手を引っ込める。


「どうやら俺達は嵌められたらしいぞ…。」

 ニアはハッとして神威の先を見ると黒いローブを羽織った集団が二人を取り囲んでいた。


(潜入がバレていたのか…!ただの間諜だと勘違いしてくれていればいいけど…。)

 ニアが小声で話しかけてきた。

「どうしますか?突破しますか?」

 ニアは剣の柄に手をかけ集団を睨みつける。

「恐らくはアノニマスの連中だろう…知らぬ振りをして軽く暴れて、捕まった振りをし奴らのアジトを炙り出すぞ…。」

 ニアは頷くと剣を引き抜いた。

「何者だ!私達に何か用なのか?」

 ニアが剣を構え睨みつけると、気圧されローブの集団はたじろく。


(ただの雑兵の様だな…。)

 神威は集団を見渡して奥の一人に目をつけた。

「…奥のアンタがこいつらのボスだな。

 俺達に何か用なのか?」

 神威が剣を引き抜き剣先を向けた。


「ははは!流石は炎帝か…!俺はランス。

 アノニマス六芒星の一人だ。

 炎帝…お前にうちのボスが会いたがって居るんだ。

 着いてこいよ!」

 ランスは口元が空いた仮面を付けていた。

 ニヤリと笑いながら集団を掻き分けながら歩み出てきた。


「不躾だな、アノニマス六芒星って事は幹部か…裏社会の大物の登場だな。」

 神威は剣を構え睨みつける。


 ランスは口笛を吹きながらおどけてみせた。

「ひゅー…怖いねぇ!幹部って言っても俺は荒事専門だ、他のやつみたくコソコソ動くのは苦手なんだ。

 だから比較的にコイツで語り合う方が好きなんだけどなっ!」

 ローブを翻し腰に指した2本の剣を抜き放つ。


 神威は咄嗟に上体を反らし首元を交差して通る剣閃をかわした。

「殺ル気満々だな…。」


 ランスは剣をクルクルと回している。

「今のを避けるのか!やっぱ帝ってのはやるもんだねぇ!

 そういやぁモルドラのオッサンを殺ったのはアンタだろ?あのオッサン弱かっただろ?帝国騎士団からアノニマスに乗り換えて、幹部に入りたがってよ!

 戦いが好きだからって言って俺の椅子を狙ってやがってよ!半殺しにしてやったら、人間辞めてやがんの!

 そんでも勝てないから末端の用心棒やってやがったんだぜ?ダセェよな!」

 ランスの空いた口元から笑みが零れる。


「モルドラか…興味無いな。

 ランス…おしゃべりが好きなようだな。

 だったらアノニマスについて話してもいいんだぞ?」

 神威はランスの目の前に踏み込むと剣を振り上げる。


 ランスは半身でかわし、神威の目の前に顔を突き出す。

「アンタ…おもしれぇな!

 冷静な振りして実は熱いねぇ!

 炎帝ってのは中身の話か?」

 ランスは舌を出し挑発してきた。


「そうか?まぁ確かに…短気ではあるかなっ!」

 神威は剣を逆手に持ち振り下ろすがランスは紙一重でかわす。

 しかし、ランスが斬り掛かろうと剣を構える前に神威の膝がランスの腹にめり込む。


「ぐっ…!」

 ランスは堪らず後方へ飛び距離を置いた。

「やるねぇ!やっぱりアンタはおもしれぇよ!ボス以来か…俺を本気にさせたのは…。」

 ランスの纏う空気が変わる。


「ニア…離れていろ…。」

 神威は後ろで唖然としているニアに声を掛けた。


 ニアは慌てて神威達から距離をとった。


「お前ら!その女を逃がすんじゃねぇぞ!!」

 ランスが周りの兵に叫ぶと兵達はニアを追いかけ取り囲んだ。


「ちっ…!」

(モルドラが弱い?私なんか殺されかけたのに…!アノニマスってそんなにヤバい奴らの集まりなのか!?)

 ニアは取り囲む兵達を威嚇しながら後退した。



「とは言っても多分逃げられちゃうだろうけどな。

 本命はアンタだから別にいいさ!

 アンタも一緒に来る気は無さそうだから、痛めつけて無理矢理にでも連れてくぜ!!」

 ランスが一対の剣を構え低く身をかがめる。

「行くぜ!」

 ランスが神威の視界から消えた。


 しかし神威は剣を後方へ振り抜く。


 金属のぶつかる音が響き渡る。

「勘かよ!ホント怖いなぁ!」


 姿なき斬撃が神威を襲うが神威は全てを打ち払った。


「炎帝ぇ…!アンタ最高だよ!もっと早くなるぞっ!」

 無数の斬撃が四方八方から神威を襲う。


 神威も何とか打ち払ってはいるが次第に押され始める。

「速いな…それなら…!」

 神威はレーヴァテインを鞘に収め、瞬間的にゲートから村正を取り出し構えた。


 神威は目を閉じ深く息をした。

「領域"感知"」

 神威の周りの空間が歪む。


「何だか知らねぇけど、俺は斬れねぇぜ!」

 ランスが神威に向かって斬り掛かる。



 神威は村正を引き抜き振り抜いた。


 するとランスの姿が現れ血を吐いた。

「ゴフッ…!」

 首筋に刃が刺さり切れた傷口から息が漏れる。



 ランスは武器を落とし、よろめいた。


 神威は村正を鞘に収めながらゆっくりと目を開けた。

「こんなもんか?」

(刀熟練度上がってて助かったぁぁぁぁ!!)



 ランスは傷口を手で押えながらよろめいているが口元は笑っていた。



 ランスが傷口から手を離すと、傷口は塞がり血は止まっていた。

「危ねぇ危ねぇ…俺がボスに気に入られているのはこの再生能力なんだよ…!」

 ランスの目が紅く光り、体に黒い魔力が纏わりつく。


「ダークサイド!?ランス…お前は…?」

 神威は村正を構え直す。


「ダークサイド?闇憑だろ?…そうか…炎帝ぇ…アンタはボスと同じ…。」

 ランスが纏う魔力が跳ね上がる。

「ははは!俺はドラゴニュートなんだよ!

 ただ、闇憑のな!

 アノニマス六芒星が一人、"竜魔人ランス"!

 さぁ…続きだ!!」

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