【語られる真実】


「さあ神威様!私と行きましょう!

 私は貴方さえいればそれでいいのです。

 貴方も私だけいればいいのですから。」

 アーサーが手を広げ俺を呼んだ。


 俺は剣を構えながら問いかけた。

「アーサー…なんでそうなってしまったんだ?

 トリガーで助けられなかった俺を恨んでいるのか?」


 アーサーは首を横に振る。

「いいえ。私は貴方を恨んでは居ませんよ。

 私は貴方を残して先にこの世界に来た事を悔やんでいました。

 この世界は私とアヴァロン。

 そしてもう1人が創り出した世界なのです。

 あの時、私は消滅するはずでした。

 しかし私のデータの残留がこの塔に残りました。

 そこにアヴァロンが声を掛けたのです。

 私はただのデータだった。

 なのに残留思念が残ることが有り得なかった。

 だからアヴァロンは私に興味を持ち、願いを聞いた。

 最大の敵である彼女と敵味方関係なく仲間として神威様と過ごせる世界があればと…。

 私は願ってしまった。」


 俺は息を飲む。

「アヴァロン…最大の敵?」


 アーサーは目を閉じた。

「この世界は私と…ルシフェルがアヴァロンに願い…トリガーの終息後も続く世界を望んだから出来た世界なのです。

 そこのルシファーはルシフェルの抜け殻。

 本当のルシフェルはこの世界で眠っています。

【Q.E.D.TRIGGER】文字通りアヴァロンがとある事の証明をする為の引き金を探す為の物でした。

 そしてアヴァロンは見つけた。

 引き金を…神威様…貴方です。」


 ルシファーは驚き、俺は頭が追いつかずただ呆然としていた。


 アーサーはゆっくりと目を開き俺を見つめた。

「いきなり現れて説明しても分かりませんよね。

 ただご理解頂きたいのは、私は貴方を愛しています。

 だから貴方を手に入れたい。

 ルシフェルにもアヴァロンにも渡したくない。

 アヴァロンやルシフェルは貴方の意志を尊重すべきだと私に言いました…。

 私からしたら貴方が居ればいいので意思なんて必要ありませんでした。

 私の力で貴方の意志を変えてしまえばいいのですから。

 しかしアヴァロンは目的に反すると言い、ルシフェルは私を止めようとした。

 だから私はアヴァロンを封印し、ルシフェルを斬ったのです。

 話は終わりです。

 さあ…私のもとへ…。」

 アーサーは俺に手を差し出した。


 俺は俯き黙り込んだ。

(アーサー…。)


 暫く沈黙が続いたが俺はアーサーを見つめた。

「アーサー…今までのアーサーはどうなったんだ?」


 俺が口を開くとアーサーはニヤリと笑う。

「この体のアーサーの事ですか?

 今は私の中で眠っていますよ。

 まあ私がこの体を貰い受けるつもりなので、その内消滅して貰いますけども。

 それより、私と来てくれますね?」


 俺は立ちすくしていた。

(アーサーが消える…目の前のアーサーも確かにアーサーだ…。

 俺が今こうして隊長として存在できているのは…。)

「そうか…。」

 俺はアーサーに歩み寄る。


 アーサーは頬を赤く染める。

「神威様…!私の気持ちに応えて下さるのですね…! 」


「アーサー…俺は…!」

 俺はルシファーから受け取っていた村正で斬り掛かる。


 アーサーはヒラリとかわすと俺を見た。

「神威様…やはり理解しては頂けないのですね…。」

 アーサーの顔から笑顔が消え、剣を構えた。


「アーサー…君をそんな風にしてしまったのは、あの時の俺が弱かったからだ…。

 俺がちゃんと君を護れたなら…。

 トリガーの世界でもこの世界でも支えてくれた姫達の為にも、俺が終わらせないと行けないんだ…。

 Q.E.D.TRIGGERは俺が終わらせないと…!

 あのゲームを愛した1プレイヤーとして!」

 俺は村正を振るった。

 しかし刀を満足には扱えない。


「神威様…その程度では私には届きません。

 確かに貴方は強くなった、けれど剣の腕前だけ。

 刀は技巧ステを上げないと使いこなせない。

 刀の熟練度が低い貴方には使いこなせない!」

 アーサーは俺の刀を弾くと流れるように俺を斬りつける。


(不可侵領域が追いつかない!?)

 次第に傷が増え、腕が上がらなくなってくる。

 無限体魔力で回復していくが、ダメージが大きく、傷が増えていく。


 後ろでは傷つく俺を見てルシファーが嘆く。


「やっぱアーサーは強いな…。」

 俺はアーサーを見ると微笑んだ。


 アーサーは訝しげに俺を見た。

「何か企んでいるのですか?

 まあ何をした所で私は斬れませんが!」

 アーサーは俺に剣を構え突進してくる。


 俺は村正を構えた。

「すまない…アーサー…。」




 俺が村正を振るとアーサーの動きが止まる。

「な…なんで!?村正のスキルが使えるの!?

 刀の熟練度が足りずに能力が使いこなせないはずじゃ…!!」

 アーサーは何かに気づきハッとする。


 俺は村正を構え直しアーサーを見た。

「そう…絶対なる創造主のお陰だよ。

 本来ならば究極剣聖は剣のスキルのみに依存する。

 しかし刀も分類は剣に含まれる。

 だからさっきから君に振り続ける事で熟練度が倍速上昇し、絶対なる創造主で新たなスキルとなったんだ。

 おかげで刀の熟練度は上がり、村正のスキルを使えたんだ。

 刀を使う事が出来る俺のスキルは"刀神(とうしん)"。

 刀神は技巧ステが足りなくても熟練度さえ満たせば刀の固有スキルを発動できる。

 村正の固有スキル"妖刀化"。

 実体の持たない霊体モンスターや憑依し操るタイプの精神体を斬る事が出来る。

 このスキルで君を斬る…!」


 アーサーの顔が青ざめていく。

「そんな…私を斬るのですか!神威様…!?」


「アーサー…君がいたから俺は姫達の隊長になれたんだ。

 ありがとう…。」

 俺は涙を流しアーサーに村正を振り下ろした。



 ーーーーー



(暗い…ここはどこ?怖い…。

 1人は嫌!神威様…!ルシファー…!皆…!)

 意識がボヤける。

 アーサーは暗い水の中を漂っていた。


(私が私じゃなくなる感覚…私は消えるのかな…?)


 アーサーは暗い水の中でただ沈んでいく。


(消えたくないな…。)

 目を開いても何も見えず、耳を澄ましても何も聞こえない。


 叫んでも届かない。


 手を伸ばしても…


『ごめんね…。』


 頭に響く声。

 聞き覚えがある声。


(私?私は何に謝っているの?

 あぁ…そうか…神威様にだ…。)


 身を委ね沈んでいく。


『ごめんね…私…。』


 何かが手を掴む。



『私は貴女…最初のアーサー。

 私は神威様の側に居たかった…ただそれだけだった。

 けれど闇に呑まれた…。

 アーサー…貴女は最後まで神威様の側に居てあげて…。

 貴女は神威様が愛するアーサーなのだから…。』



 引っ張られる。

 腕を引っ張られる。


 眩しい…。

 目を閉じていても眩しい。


(アーサー。

 私はアーサー。

 私も神威様が好き。

 ルシファーや貴女に負けないくらい好き。

 いずれは別れがくるとしても…。

 その時まで側に居たい。

 貴女の分まで…。)



『ごめんね…ありがとう…。』





 ーーーーー



「…さー…あ………アーサー!アーサー!!」

 アーサーは誰かに呼ばれゆっくりと目を開ける。


(ルシファー…?)

 霞む視界で誰かに抱き締められている感触。

 アーサーがゆっくりと抱きしめ返す。


「ただいま…戻りました…神威様…。」

 アーサーは涙を流し微笑む。


 神威はアーサーを抱きしめ、涙を堪え微笑み返す。

「おかえり。アーサー。」

 神威は力強くアーサーを抱き締めた。


「少し苦しいです。

 でも今はその感覚も嬉しく思います。」

 アーサーも神威を力強く抱きしめ返した。



 アーサーを休ませたかったが、離脱不可のダンジョンの為先に進む事にした。

 最深部に着くとそこはもぬけの殻だった。

 戦闘の痕跡はあるものの、

「何も居ない…?」

 帰還の転送陣だけが光っていた。


 俺達が塔から離脱すると幻惑の塔は跡形もなく消え去った。


「誰が…?取り敢えず倭の国に戻ろう。」




 ーーーーー



 倭の国に着くと宿に向かった。

 ルシファーは驚いた表情をして物珍しそうに辺りを見渡している。

(こんなルシファー初めて見るな。

 子供みたいに目を輝かせてるし…。)

「アーサーを宿で休ませたら少し見て回るか?」

 俺がルシファーに声をかけるとルシファーは嬉しそうに小さく頷いた。




 アーサーを宿に連れていくとアーサーはそのまま眠りに付いた。

 召喚書でナイチンゲールを呼び出し、体力の回復をさせている。


 俺とルシファーは気が散ると言われ部屋を追い出された。

(相変わらず、治療に関してはストイックだな…。

 だから安心して任せられるんだけどな。)


 ルシファーと倭の国を見て回る事にした。


「ここが倭の国…凄いですね。

 今まで見た事の無いような建物や人々の格好…顔立ちは神威様の雰囲気と似ている様な…。」

 ルシファーは目を輝かせながら辺りを見渡し、時に立ち止まる。


「これは何でしょうか?」

 ルシファーは店頭に並べられた色とりどりの簪が気になったようだ。


「簪か…ちょっといいか?」

 俺はルシファーの後ろに周りルシファーの髪を纏めるとルシファーが気にしていた簪で留めた。



「こうやっと髪を纏める物だ。

 なんだか髪を上げたルシファーって新鮮だな。」

 俺がルシファーに微笑むとルシファーは頬を赤く染めて俯いてしまう。


(なんだか…エロッッッッ!!

 大人の色気って感じで…エロッッッッ!)

 俺はその簪を買い上げルシファーにプレゼントした。


「そんな…!私なんかに…!」

 始めは遠慮していたルシファーだが、日頃の労力や忠義に対する感謝だと伝えると受け取ってくれた。


 そのルシファーの表情は何とも言えない程、満たされて見えた。



 ルシファーは簪を大事に抱え御機嫌である。

 先を歩くルシファーを微笑ましく見ていると何処からか視線を感じた。


(なんだ…この感覚…何か違和感がある…。

 ザラりとした冷たい視線…。)

 俺はハッとして辺りを見渡したが見ている人影は無かった。


 ルシファーも視線に気づいたのか辺りを見渡している。


 しかし視線の相手は見つからず首を傾げる。

 俺とルシファーはナイチンゲールから連絡が入るまで倭の国を見て回った。



 ーーーーー



「危ない危ない…意外に鋭いな。

 あれがルシフェルの器とアヴァロンの鍵か…。

 バアルとベリアルは何か企んでいるようだし。

 アシエルはなりを潜めているし…。

 下手に動くと不味いか…。

 マスティマ様も何かの捜索に忙しいみたいだし。

 アノニマスを使い、少し様子を見てみるか。」

 倭の国の上空を飛ぶ飛竜の背に乗った青年がニヤリと笑い呟く。

「炎帝か…面白そうだよな…はやく真実に辿り着けよ。」




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