【異世界転移浪漫譚】

 俺がこちらの世界に来て数日過ぎた。

 どうやらマジで転移したらしい。

 今までゲームの中には存在しなかった五感がある。

 この世界が新しいトリガーなのか、別のゲームなのか、別の世界なのかまだ足りない情報も多い。

 それに、転移したのは自軍のエリアだけ。

 外は見知らぬ土地。


 自軍の中には今まで育てた姫達も居た。

 しかも、皆自我を持って動いている。

 確認したら脈もある。

 どうやら、生きている?らしい。

 召喚書の能力も健在だ。

 召喚書を開き呼び出したい姫の名を呼べば目の前に現れる。

 幸いにも、ゲームの中と同様に俺を召喚者、隊長として慕ってくれている。



 なんて最高な世界だ!


 俺にとって、姫達と過ごせる日常世界なんて最高でしかない。

 今までの現実なんてクソ喰らえだった。

 これからはこの世界で生きていく。

 頼むから、夢ならば覚めないでくれ!!

 何日も寝る前は夢ならば覚めないでくれ!!と願い目を閉じた。

 目覚めてもこの世界。

 しかも姫達が起こしに来てくれる。


 異世界転移万歳!!



 そんな事を考えていると部屋のドアをノックする音が聞こえた。

 俺は冷静を装う。

「入れ。」

 俺が声をかけるとドアが開いた。


「失礼致します。

 本日の御予定を伺いに参りました。」

 ルシファーが深々と頭を下げ部屋に入ってきた。


 俺は地図を広げると記入されていない空白の場所を指さした。

「そうだな…今日はこのエリアの探索に行こうと思う。」

 自軍のエリアや1度訪れたエリア、周辺地図の入手で自動で記入されていく。

 その辺りはゲームと変わらないらしい。

「かしこまりました。

 部隊の編成はいかが致しますか?」

 ルシファーは手持ちのバインダーに書き込んでいく。


「編成は任せる。

 だが今回は少人数で動こうと思うから、前衛、感知、後衛をそれぞれ集めてくれ。」

 俺は顎に手を当てながら考え、ルシファーに他の指示も色々出した。


「かしこまりました。では失礼致します。」

 ルシファーは再び頭を下げると部屋から出ていった。


 ふぅと溜息をつくと背もたれにもたれかかった。

「ルシファーだけはまだ素っ気ない態度だよな。

 まぁ最後の最後で仲間になったばかりだから好感度も上がってないからな…。

 でも強い。もの凄く強い。

 今まで俺の隊で最強だったアーサーでも歯が立たない位。

 まぁ俺は、勝てたけど…ほぼチートだよな。俺の能力は…。」

 数日間の間に自分の能力も確認してみた。

 究極剣聖や究極魔導士、不可侵領域や無限体魔力も健在。

 それ以外にも今まで所持していた支援スキルも残っている。

 ただ、スキルアイコンや魔法アイコンが表示されない。

 でも、これでも俺はトリガーの事は大体分かっているつもりだ。

 意識すれば、自分のHP量やMP量、魔法やスキルの発動の仕方も身体が覚えている。

 Exスキル 解放への階段は消えていたけれど、絶対なる創造主は健在だ。

 このスキルはヤバい。

 クエストの専用スキルではなかった。

 このスキルだけでもほぼ無敵。

 スキルを組み合わせたりして新しいスキルを創り出す事ができる。

 一度受けた属性攻撃に対する耐性や、相手の自動スキルの一時的な停止。

 言い換えれば、自分の思い付いた事がそのままスキルになる。

 ただし、何かしらの条件が揃わないと発動しない制約付きだが。


 おかげでルシファーを訓練では倒せた。

 絶対なる創造主様々だな。

「おっと、もうこんな時間か。

 さて行くかな!」

 俺は部屋をでて自軍入口に向かった。




 待機部屋に着くとアーサーが此方を見つけ、手を振っていた。

「隊長!おはようございますっ!」

 アーサーの隣りには偵察や感知能力を持っている忍者の姫"半蔵"が居た。

「隊長殿。本日は拙者もお供致します。」

 俺はアーサーと半蔵に挨拶すると辺りを見渡した。

「後衛は?」


 すると奥から駆け寄ってくる姫の姿が見えた。

「ごめんなさーい!遅れましたぁ!」

 息を切らしながら姫が合流した。

「メフィストフェレス参上でーす♪︎」

 メフィストフェレスは俺の前に到着すると敬礼した。


「今日はアーサー、半蔵、メフィストのメンバーか。宜しく頼むぞ。」

 3人を従え未開のエリアに向かった。




「まだ今まで探索したエリアではこの世界の住人との接触はないが、もし見かけても下手に刺激しないように注意して行くぞ。」

 まだ自軍の周辺だけを探索しただけだけど、周辺には集落や街と言った物は見当たらなかった。

 モンスターは低レベルの姫達でも余裕な程度のモンスターしか遭遇していない。

 トリガーの低レベルモンスター程度だな。

 ゲームで見たようなモンスターも居れば、見た事のないようなモンスターもいた。

 一応、成長しきっていない姫にも戦闘をさせてみた。

 ゲームの世界のように、経験値表示がされる訳ではないが、一応経験値の蓄積はあるようだ。

 なので留守番の低レベルの姫達にはルシファーを付けて、自軍周辺の警備という名目でレベル上げさせている。



 このエリアは森が広がっているようだ。

 隊列を組み、周りを警戒しながら進んだ。


 半蔵が何かの音を感知した。

「何か大型のモンスターの様な足音と、小型の足音が近ずいてきます。」

 半蔵が指差す方向に注意しながら身を隠した。

(この世界にまだ見ぬ強敵が居る可能性がある以上、いきなりかます訳にはいかないしな…それに、俺以外のプレイヤーも来ているかもしれないからな…最大で俺を入れて当選者は10人か…それ以外にも居るかもしれないな。)

 色々考えていると俺にも聞こえるくらい足音が近ずいてきた。

(声も聞こえる…日本語では無いが不思議と理解出来る…。

 これも絶対なる創造主の力か?ホント万能だな…。)


「誰か!助けて!誰かぁ!!」

 子供の通る声が響く。

 どうやら大型のモンスターに人間の子供が追われているようだ。

「隊長さん。どうしますぅ?」

 メフィストが木の影からひょっこりと顔を出し話しかけてきた。


「下手に行動はしたくないんだが…アーサーがあの調子だからな…助けるしかないだろう。」

 俺はメフィストを促してアーサーに視線を送る。

 アーサーは剣の柄に手をかけ今にも飛び出して行きそうな勢いだ。

 そして、力強い瞳で俺を見つめた。


「分かっているよアーサー。

 子供を助けるぞ!メフィストは魔法で敵の注意を引き付けろ。

 半蔵は敵の注意がそれたら子供を救出。

 アーサーは子供の救出が完了次第、俺と一緒に敵を挟撃だ!敵の強さが分からない以上、隙を見せるのは危険だ。

 一気に全力で叩く!行くぞ!」

 合図と共に一斉に動き出した。


 メフィストはモンスターの側面に飛び出すと魔法を唱えた。

「ぶちまけちゃえ!"血の饗宴(ブラッディ フィースト)"」

 メフィストの前に魔法陣が現れる。

 魔法陣から無数の蝙蝠が飛び出し、モンスターに向かっていく。


 無数の蝙蝠達は一斉にモンスターに噛み付いた。

 モンスターは振り払うように頭を振り回し足を止めた。


 子供からモンスターの注意が逸れたのを確認し子供の影から半蔵が現れた。

「もう大丈夫。」

 半蔵は子供を抱えると少し離れた木の裏に隠れた。



 モンスターは蝙蝠に血を抜かれ少しふらついている。

 噛まれた傷口からは血が吹き出している。


「今だ!」

 俺の合図と共にアーサーが反対からモンスターを挟むように飛び出し剣を振りかぶった。

「聖剣エクスカリバァァァァ!!」

 アーサーの剣が光を放つ。


「究極剣聖"無影斬"!」

 俺も剣を振りかぶりモンスターに振り下ろす。


 二人の剣がクロスしながらモンスターの首に振り下ろされた。


 モンスターの頭がずり落ちる。

 頭が地面に落ちると、体に蝙蝠が群がり血を抜き取っていく。

 モンスターの体はミイラの様になりその場に倒れた。


 俺は木の影に身を隠す半蔵に目を向けた。

「子供は無事か?」


 半蔵が木の影から姿を表すと、傷だらけの少年が半蔵の服の裾を掴み姿を見せた。


 その姿を見てアーサーは胸を撫で下ろす。



 俺は少年を回復させ、話を聞くことにした。

 今は少しでも、この世界の情報が欲しい。


 少年の名前はカイル。

 この森を抜けた先にある村の村長の息子らしい。

 最近村長が病気になり治す為にこの森へ薬草を取りに来たのだけれど、迷ってしまい足を踏み外し落ちた先に、さっきのモンスターの巣があり食べられそうになったから逃げていた、と。


(取り敢えず、森を抜けた先に村がある事は分かったな。

 村長の息子と言う事は、助けておけば少なくともその村では悪い様にはならないだろう。

 村長の病気も魔法で治せる物ならば治しておけばなお良しか…。

 それに村の場所が分かれば何かあっても対策が立てやすいな。)


 俺はカイルの話を聞いた後、姫達に話しかけた。

「皆、カイル君を村まで送り届けようと思うがいいか?」


「私は賛成です!森に放置したらまた危険な目に合うかもしれませんから!」

 アーサーは大きく頷き瞳を輝かせた。


「隊長殿がお決めになった事なら。異論は有りませぬ。」

 半蔵も頷いた。


 メフィストは

「えへ…えへへ♪︎血がいっぱい♪︎帰ったらいっぱい実験できるぅ♪︎」

 蝙蝠達が持ち帰ったモンスターの血液に興奮しているみたいだ。


 俺はカイルの目線まで腰を落とし、肩に手を置く。

「…メフィストはほおって置いて、カイル君。俺達が君を村まで送るよ。

 またモンスターに襲われても俺達が守ると約束しよう。」


 肩を震わせていたカイルは震えが止まり小さく頷いた。

「あ…ありがとうございます。

 お兄さん達は何者なの?あんなデッカなモンスターを簡単に倒しちゃうなんて…。」

 カイルは尊敬の眼差しで俺達を見た。


「お兄さんやお姉さんは旅の傭兵隊だよ。

 まだこの土地に来たばかりでこの辺りの事が分からないんだ。村に戻る間、色々教えてくれないか?」

 俺はカイルに優しく微笑みかけた。


「うんっ!傭兵さん?だから強いんだね!村はあっちだよ!」

 カイルは傭兵の意味が分かって居ないようだが、微笑みかけている俺やアーサーを見て安心したようだ。

(今度、笑顔の練習をしておくか。)



 カイルに案内をされながら、森の中を進んでいた。

 村の名前はアローニャ村。

 "ラクシス帝国"の領地だが外れにある為、物資の流通はほとんど無く、村人達が自給自足の生活をしているらしい。

 この森もラクシス帝国の領地で村とは反対の森を抜けた先に"魔法国家レイブン"との国境となる谷があるようだ。

 俺達の自軍はレイブンとラクシス帝国のギリギリにあるみたいだ。

 どうやら、カイルは俺達を帝国の兵士と勘違いしているらしい。


 俺達は帝国の兵士じゃないと説明してレイブンの兵士でもない、どちらの国でもない別の所から仕事を探しに来た旅の傭兵だと説明した。

 もしかしたらお父さんの病気も治せるかもしれないとも。



 日が暮れかけた頃、森を抜けた先に小さな村が見えた。

「あそこが僕の村だよ!早く行こう!」

 カイルは村を指さし俺の手をとり走り出した。


 村の入口には数人の村人が集まっていた。

「カイルっ!無事だったのか!後ろの方々は?」

 村人の1人がカイルを抱きしめ、俺達を見た。


 アーサーは俺に目配せをし俺が頷くと1歩前に出た。

「我々は旅の傭兵隊です。

 森の中を散策して居た所でカイル君がモンスターに襲われていたので村までお連れしました。」

 アーサーは柔らかい物腰で村人に話しかけた。

 俺は頭を軽く下げる。


「そうでしたか!カイルが薬草を取りに行くと言って村を飛び出して行ったのですが、帰りが遅いので森に捜索に行こうと話し合っていた所なのです。

 さあさ!立ち話もなんですからこちらへどうぞ。」

 村人に案内され村長の家へ通された。

「村長。

 この方々がカイルを森で助けて村まで送って下さったんだ。」

 村人が村長に話しかける。


 村長はベットの上で上半身を起こし、頭を下げる。

「カイルを助けて頂きありがとうございます。

 こんな姿で申し訳ありません。

 大した御礼も出来ませんが…。」

 俺は村長が話しているのを制止する。

「いえいえ。お礼など結構ですよ。

 お元気に成られたら、お話をさせて頂ければ。

 それと、出来れば村長さんのお体を見せて頂いても?このメフィストは医学にも精通した魔法使いなので御病気に対して何か出来るかもしれません。」

 俺はメフィストを村長に紹介する。


 メフィストはニコニコと笑いながら頭を下げる。




 村長はベットに横たわる。

 メフィストは両手を村長にかざして集中する。


 すると村長の体の胸部が光出した。

 光は玉になり宙に浮かび上がる。

 光の玉の中には2センチ位の肉の塊が入っていた。


 メフィストが光の玉を手で包むと光の玉は消滅していった。

 メフィストは額の汗を拭うと微笑んだ。

「はい♪︎終わりです!これで暫く安静にしていれば大丈夫ですよぉ♪︎」


 見守る村人達から歓声があがる。

「メフィストお姉さん!お父さんを助けてくれてありがとう!」

 カイルはメフィストに駆け寄り抱きついた。

 メフィストは微笑みかけ、カイルの頭を撫でているが目は笑っていなかった。



 その日、俺達は村の空き家を貸してもらい夜を明かす事となった。

「自軍に連絡入れておくか…。"直通(ダイレクト)"」



『はい。』

 頭の中にルシファーの声が響く。

 俺は事情を説明して、今日は帰らない事を伝え、帰るまでの指示をだした。


『かしこまりました。

 お帰りになるまで、この地は私共がお守り致します。』

「宜しく頼む。」

 直通が切れ俺は簡素な作りの木のベットに横たわった。

(村での仕込みは上々かな?後は村長が回復したら、情報を聞き出さないとな…。)

 俺は目を閉じた。


(隣の部屋にはアーサー達が寝てるのか…。)

 俺はニヤける顔を枕に埋めて眠りについた。




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