サナトリウムの少女

もののふ(RiOS)

#00 「故郷、珠音島」


「当機は、まもなく珠音島ことねじま空港に着陸致します。本日の珠音島の天候は晴れ、気温は22度となっております」

「着陸に際しまして、安全のためシートベルトの着用ランプが点灯致します。お客様におかれましては……」

――珠音島。

 俺が、小学生の時分までを過ごした、故郷ふるさと

 10年ぶりに、俺はこの地に帰ってきた。

 飛行機のタラップを降りる。この寂れた島には、たいそうなターミナルなんてものは存在しない。

 屋外を徒歩で、空港の建屋まで歩かされる。

「晴れていてよかった……」

 ふと10年前、島を離れるときに、風雨の中を飛行機まで歩いたことを思い出した。

 預け荷物を受け取り、空港を後にする。

 島と本土の往復便は、週に一度しかない。

 塗りの剥げた建屋の外壁も、台風にやられたのか『珠』の字が欠落した空港の看板も、10年前と変わっていないように見えた。

 まるでそれが当たり前とでもいうように変わっていく本土と、時代の中に取り残されたかのような島。

 懐かしさと、何処かもの悲しい雰囲気にあてられて、少しセンチメンタルな気持ちが掻き立てられる。

「ガラじゃないんだけどな」

 就活に失敗し今後を憂いていた時に、偶然島にいる親戚から農作業の手伝いを頼まれた。

 この島での生活は、本土での生活に息苦しさを覚えていた俺にとって、ある種のリハビリのようなものだ。

 立ち止まっていたら即座に塵に巻かれるこの世の中にあって、ここは俺にとって最後の砦なのかもしれなかった――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

サナトリウムの少女 もののふ(RiOS) @rios_paradox

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ