第15話 2050年7月某日 その3

 呆気ない結末だった。

 現場で直接、餓鬼に振れたことが無い人から見れば、それまで大げさに立ち回っていた『SHIRLD`s』『BLADE`s』を不甲斐ないと思うだろう。

 それだけ『VAMP』の少女は餓鬼に止めを刺した。

 この餓鬼は、少し特殊だったかもしれない。

 喰いかけの子供の死体を離そうとしなかった…そのため片手で、動きにも俊敏さを欠いていた。

 固着剤で固められた餓鬼の頭部に左手で短刀を突き立てて、右手の短刀で餓鬼の喉笛を裂いた。

 ゴプッ…と血が溢れ、後ろ向きに反り返るように折れた頭部を一蹴、頭部を蹴り千切った。

 俺の盾に餓鬼の頭部がぶつかり地面に転がり、VAMPの少女が頭部を足で踏みつけ短刀を引き抜いた。

 仮面の奥、漆黒の瞳と目が合った…。

 それだけで身が竦んだ、生唾を飲み込みながらも、俺は目を逸らすことすらできなかった。

 VAMPは餓鬼の頭部をサッカーボールのように足で弄ぶように転がし、突然踏みつぶした。

 表情は仮面で見えないが、笑っているように感じた。


 ………

「終わっちまったか…」

 横関が現場へ着いた頃、VAMPが装甲車に乗りこむ直前だった。

 手を付いた軍用トラック、『統合幕僚監部特別防衛班』の文字

「特防…SHIRLD`s…国民の盾…」

 凝固剤が半分固着したままの首の無い餓鬼がトラックの荷台へ運び込まれる。

「子供? 食ってる途中で狩られたのか?」

「俺には…守っているように見えたんだがな…」

「えっ?」

 呟いた横関の言葉に返答した『SHIRLD`s』の隊員がトラックに乗り込んでいった。

「おい‼ 守ったってなんだよ」

 横関は振り向きざまに聞き返した。

 荷台に整列するように腰を下ろす10人程の隊員。

 誰が言ったかもわからないまま、トラックは走り去った。


「守った? 餓鬼が子供を?」

 そんなバカな…

 道路に残る生々しい血痕と血だまり、被害者のものか、餓鬼のものかは解らないが、この惨状を生み出した餓鬼が何かを守るとは思えないのだ。


「プレスか?」

 制服の男が横関に声を掛けた。

「……クリーナー…」

 環境省SMP処理班、通称『S処理』もしくは『クリーナー』駆除が終了した現場を処理する云わば清掃員だ。

「何も持ち出してないだろうな? プレスに許されているのは…」

「解っていますよ…もう帰るよ」

 両手を挙げて現場を後にする横関


「あっ…しまった…」

 頭をガリガリと掻き

「写真…1枚も撮ってねぇ…」


 横関の脳裏には『42フォウツー』と呼ばれていた小柄なVAMP、そして子供を守っていたように見えたという『SHIRLD`s』の言葉…。

「なわけねぇだろ…」

 餓鬼が何からエサを守るんだ?


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