第7話 2034年2月某日 その2 (至 竜神池3)

「ARKにアポなんて、よく取れましたね相良さん」

「ん? 顔なじみがね…いたんだよ」

「爆破事故以来、気になっててね…まぁ…何やってんだか解らんトコだからね」

「ネッシーの研究をしていても?ってことですね」

「まぁ…広い意味で…ね」


 高い塀で山ひとつを覆い隠す様な無機質な建物の前で相良は上目使いで壁を見上げる。

「ホントに龍神様でも飼ってるんじゃねぇだろうな~」

 ボソッと呟く相良を他所に、警備員室に向かう花田。

「すいません…こういう者なんですが…」

「警察? 何も聞いてませんけど」

「何も聞いてないのは、当然だ…鼻から人なんか入れる気無いんだから…朝倉さんに面会だと伝えてもらえませんか、あっ…私、相良といいます」

 警備員が電話して10分…

「お待たせしました、相良警部補…でしたよね、ご無沙汰してます」

(でしたよね…って…事前に調べていただろ…)

「あっ」

 花田が何か思い出す。

「あのときの…子供…」

「立派になって…今やARKの研究員だそうだ」

「はぁ…凄いですね~ネッシーっているんですか?」

「ははは…いたらいいですね、まぁどうぞ」

(これだけの敷地で出入口は一か所…相変わらず排他的な…)

 壁の中には庭…というか、そのまま池と神社が残されている。

 そちらコチラに簡素的なプレハブが何棟か建てらている。

「空?」

 花田が天井を眺めて首を傾げる。

「外から中は視えません、まぁマジックミラーみたいなものです」

(マジックミラー…そんなレベルじゃねぇだろ…)

「へぇ~外にいるみたい、外から見えないなんて信じられない」

「あぁ…絶対に…視えないんでしょうね」

 相良がニヤッと笑う。

「えぇ…もちろんです」

 朝倉もニコリと笑う。

「研究内容はお答えできませんけど…昔の事件の検証でしたね?」

「えぇ…1984年のね」

「そうですか、昔の事件も調べるんですね」

「えぇ…ヒマなもんでね」

「どんな事件なんですか?」

「いや…あぁ…そうだな、参考までに意見を聞かせてもらえませんか?」

「私にですか?」

「専門家に意見を伺うのは定石ですから」

 相良がニヤッと笑う。

「アメリカで消息を絶った女性が20年後、この池で見つかったんです…どう思います?」

「誰かが…運んで捨てたってことですか?」

「20年掛けて…ですか?」

「そうですね、腐ってしまいますね」

「腐ってなかったんですよ…」

「まさか…」

「まさか? いや…アナタは、そんな驚かないと思ったんですけどね」

「驚きますよ…そんな話を刑事さんがするとはね」

「アナタでなければ、しませんよ…朝倉くん」

「変わらないんですね相良さん」

 しばしの無言の後、

「いや…ありがとうございました、現場を見たかっただけなんです、これで失礼しますよ」

 出入口まで見送った朝倉が口を開いた。

「相良さん…鏡にはね種類があるんですよ…」

「はい?」

「時を超える…身体と心を切り離す…距離を無視する…そんなこともあるってことです…では」

「朝倉さん…ミラーワールドって…」

「全てを繋げる…そんな場所かもしれません」


 警備員が扉を閉めた。

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