王冠花くじらの真実─後編─

姉は森の奥深くで『王冠花くじら』に出会います。

それはとても大きく、空を埋め尽くすほどでした。

透けたお腹には蒼い花が無重力のようにたくさん浮いていました。


『……やっと願いを持った者が現れたね』


声に張りがありません。


『私がかつてだれであったか、何巡したかも覚えていない。長い長い年月待ち続けた』

「『王冠花くじら』とは何なのですか? 」

『願いを叶えるまでこの場に縛られる森の神さまみたいなものだね』

「叶えた『王冠花くじら』はどうなるのですか? 」

『空に……帰ることができる。それだけは覚えているよ。空という海を永遠に自由に泳ぐことが許されるんだ。わたしはそれを見たことがある。前任の王冠花くじらが解き放たれる時、遥か空にたくさんの王冠花くじらを見た』

「わたしが願ったら、あなたも解放されますか? 」

『……いんや。わたしはもう泳ぐ力もないのさ。消えるだけさね。だが、願いを叶えられる力は使いたかった。やっと使える。それで消えてしまっても構わない。次の願いを持った者が来る保証のない、4年に1度しか人に見えない存在だ。あんたにその覚悟はあるのかい? 』


姉は王冠花くじらを見据えました。


「私が願うことであなたが解放されるなら本望です」

『……わたしもそんな目を、していた気がするよ』


姉は願いを口にしました。

私の歩むはずだった人生を妹に変え、その妹の病をなかったことに。

そして、お姫さまを妹の娘として記憶を変えることを。


───姉は願いを口にした瞬間、『王冠花くじら』へと変貌し、『王冠花くじら』は光の粒子となって消えていきました。

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