ファンタジーに癒やされたい!聖域33カ所を巡る異世界一泊二日の弾丸トラベル!~異世界女子旅、行って来ます!~

北乃ゆうひ

連休は異世界へ旅行に行きたい!


 今、日本では異世界旅行がブームだ。


 かつては、死んだり事故だったり強制召喚だったりの片道切符的な転移・転生でしか旅立てなかった異世界へ、海外旅行と同じ感覚で行き来できるようになったのはとても大きい。


 もっとも、文明があまりにも異なりすぎるので、今のところは双方の観光客の交流程度に留まっているわけなのだが――



 それはさておき。

 とあるファミレスにて……


「今度の大型連休、途中の二日しか休み取れなかったよ……」


 よよよよよ~と、倉田くらた藤花とうかはわざとらしく机につっぷす。

 藤花の長くて綺麗な焦げ茶色の髪が机に広がるのを、邪険にするように見ているのは、彼女の友人の玖樽くたるリステルだ。


 リステルのショートカットにした髪は限りなく銀に近いプラチナブロンドで、その肌はとても白い。そんな日本人離れの容姿をしている彼女は、ドイツと日本の混血ダブルだ。もっとも生まれも育ちも日本であり、好きな食べ物は栗羊羹と緑茶というバリバリの日本人である。


 二人とも別に芸能人やモデルではないのだが、モデルと言われても不思議ではないような容姿をしている為、周囲のお客さんたちからやや注目されている。

 もっとも、本人たちにしてみるといつものことなので、気にしていないのだろうが。


「二連休じゃ、異世界旅行の予定はナシだね。残念だけど」


 異世界旅行は、ツアーであってもだいたい六泊七日のものが多い。

 移動の大半が馬車なのもあって、そのスケジュールであっても転送ゲートステーション周辺のみの観光になってしまうくらいだ。

 その為、本格的な予定を組む場合は一ヶ月以上の滞在を考慮に入れるものなのである。なので二日しか休みを取れないとなると諦めざるをえないのだ。


「お、注文来たよ。藤花、邪魔だからとっとと起きて」


 藤花の後頭部を指先でつんつんと叩いて起こす。

 ところが、起きあがった藤花の顔は、膨れっ面ではなく、何故か信用おけないほどに嬉しそうに輝いていた。


「なにさ、その笑顔」

「ふっふっふ――とまぁかつてのわたしだったら泣いてましたとも! だけどねリステルッ、聞いて欲しいのッ!」

「うあー、いやだ。なんか聞きたくない」

「ありがとう! 聞かせてあげるね!」

「いやこっちの話を聞け」

「異世界旅行には行くよ!」

「行くの? 二日で?」

「ふっふっふ……ド~ン!」


 そうして藤花が取り出したのは、どこかの旅行会社のツアーパンフレットだ。


「これにリステルの分を含めて申し込んできたから、一緒に行こうね!」

「え? ボクに拒否権なし? 決定事項ッ!?」

「っていうか一泊二日で行く紋章神の聖地33カ所巡り……って正気かこれッ!? ふつうは二ヶ月計画でいくやつじゃないかッ!」

「どう? これなら問題ないでしょ?」

「問題しかないだろッ!? ルートにしろ移動距離にしろ一泊二日とか無理がありすぎるッ!? できるのかそれッ!?」

「ツアーになってるからできるんだと思うよ。弾丸だろうけど」

「これが弾丸以外だったらむしろ驚くってッ!!」

「平気だって。現地の優秀なガイドさんも付くって話だし。楽しそうじゃない?」


 完全に行く気満々の藤花。

 これを説得するのは無理だろう。

 リステルは諦めの境地にたどり着くと、片言のような言葉遣いでうなずいた。


「ソウダネ。ジャア、ソノツアーヲ楽シモウカ」






 そして当日――


「やっぱトンデモツアーだったじゃないかぁぁぁっぁぁぁぁぁ――……ッ!!」

「あははははははははは」


 異世界の空に、リステルの絶叫と、藤花の楽しそうな笑い声が響きわたる。







 異世界の転送ゲートステーションを出てすぐにガイドさんと合流。


 ガイドさんは長身のイケメンで細マッチョな感じの男性だった。腰元にいた剣や、金属製の胸当てや肘当て、膝当てなどを身につけているのが、何とも異世界だと実感させてくれる。


 そのガイドさんに連れられて来たのは、二足歩行するトカゲのようなモンスターが二匹繋がれた馬車だ。


「まずは、春日かすがの聖地へと向かう。乗ってくれ」


 そう言われて二人は、よろしくお願いしますと馬車に乗る。

 そして――


「ではいくぞ」


 御者席に座ったガイドが手綱を動かすと、トカゲたちは猛スピードで走り始めた。


 サスペンションなんて言葉の存在しない馬車。

 ヘタな車よりも高速で走るトカゲたち。

 そんなトカゲを操って、最短ルートをドリフトしつつも進んでいくガイド。


 峠なんかも果敢にせめて、ある程度進んだところで、崩れた神殿跡地のような場所が見えてくる。


「あれが、春日の聖域だ」

「へー……」


 それでも、見えてきた異世界らしさ全開の遺跡に、リステルは興味を持ってそれを見ようとすると――


 ノンブレーキで通り過ぎた。


「まともに見れなかったッ!」

「33カ所巡るからな。休憩以外で立ち止まったら時間のロスになる」

「ちょっと待てぇぇぇぇッ!」

「あははははははッ!!」


 横ですげー楽しそうに笑っている幼なじみに殺意を覚えていると、ガイドの淡々とした声が響く。


「あそこの川の対岸に見えるのが、夢殿ゆめどのの祭壇跡地だ」

「なんかチラっとだけ建物見えたけど……」

「うむ、見えて良かった。見えない時もあるからな」


 そうして、僅かな減速のあと、そこも通り過ぎていく。

 数秒後にはまた加速した。


「無茶苦茶すぎるだろッ!!」


 滞在時間僅か数秒。

 SNS映えとか気にしたり、記念撮影したりする暇もない。


「うん。よしよし。撮れてる撮れてる」

「なにが?」


 何やら満足そうな顔をしている友人に胡乱な眼差しを向けると、彼女は自分のスマホの画面を見せてきた。


「ほら」


 そこには、春日の聖域や夢殿の祭壇跡地などが綺麗に撮影されていた。

 あの短時間でズーム等の設定まで完璧にやって撮影したのかと思うと、もはや人間業とは思えない。


「藤花との長いつきあいの仲で、今まさに初めてアンタのコトを恐ろしいと思い始めたよ」

「え? なんで?」


 ともあれ、ツアーはどんどん続く。


 基本的には似たような感じで通り過ぎるだけだ。

 もはやリステルには付いていけない。


 一応ガイドも通り過ぎる際に、申し訳程度には説明してくれるのだが――


「食神の祠だ。満腹になれるダンジョンだ」


 だいたいそんな感じである。



 ――


 後日、リステルがガイドブックを見ると、食の紋章神が奉られていた祠で、何度かこの場所に光臨されたこともあると書いてあった。

 この世界に飢餓が広がったおり、食の紋章神はこの祠を入り口にダンジョンを作った。そのダンジョンこそが、食神の祠であり、中では様々な食材を入手できるという。

 攻略難易度は低いながら、野菜や果物など採取でき、しかもその場で口にすることもできる為、飢えをしのぐのに探索し、満腹になって外へ出てくる者も少なくないそうである。


「端折りすぎだしッ、もっと説明のしようがあっただろッ!!」


 ――



 とまぁ未来でのツッコミはさておいて、弾丸ツアーはまだまだ続く。


 六つ目の聖地を通り過ぎてから少し進んだところで、トカゲたちは足を止めた。


 巨大な大砲のようなオブジェが置いてある場所だ。

 何かの由来がある場所なのかもしれないが、ガイドさんからの説明が特にないので、ここは聖域33カ所のどれでもないのだろう。


「ここで一息付く。

 食事は、もう少し進んだところでするので、あまり食べないように」

「わかりましたー」

「ぜーはー……わかった」


 とにかく楽しんでいる藤花とは裏腹に、リステルはこの時点で相当消耗している。

 これがまだまだ続くのかと思うと、シンドい以外の言葉がない。


 近くにベンチがあるのを見つけたリステルは、ドカっと腰を下ろし体重を預ける。

 まだ初日の前半だと思うと、本気で気が滅入ってくる。


「リ~ステル♪ はい、ジュース」

「ありがと」


 そんなリステルに、藤花は近くの屋台で買ってきたらしいドリンクを渡してくれた。

 口を付けると、甘酸っぱい風味が口に広がる。

 今まで食べてきた果物とは異なる味わいは、ここが異世界なのだという実感をくれた。


 これだ。こういうのでいい。異世界旅行っていうのはこういうのを楽しむのではないだろうか。


 そんな疑問が脳裏によぎった時、ガイドさんが声をかけてきた。


「そろそろ休憩を終えるが良いか?」

「はーい!」


 元気よく返事をして、藤花はジュースを飲み干す。

 それにならってリステルもジュースを飲み干して、木製カップを屋台へと返却した。


 なお、休憩時間はおよそ10分であった。


「竜車はここに置いていく」


 そして、リステルが馬車に乗ろうとしたら、ガイドさんがそんなことを言った。


「そうなんですか? じゃあここからは――」

「アレだ」


 藤花の疑問に、ガイドさんが指し示すモノ……それは、巨大な大砲だった。

 よく見るとあの大砲――砲身の根本に扉が付いている。


「オブジェじゃなくて建物だったのか……」

「どちらでもないぞ?」


 リステルが独りごちるとガイドさんに訂正される。

 意味が分からずにいると、ガイドさんは大砲のそばにいるドワーフのような小柄でお髭豊かな男性と何か言葉を交わす。


 お髭のおじさんはそれにうなずくと、大砲の土台部分を何やら撫でる。

 すると、その砲身がゆっくりと向きを変えて、砲身の角度を変えた。


「二人とも、こっちだ。

 大砲の根本の扉から中に入ってくれ」

「おお! 何が起きるんだろうねッ!?」

「いや待て。嘘だろ。冗談だと言ってくれ……ッ!!」


 ワクワクとした様子で物怖じなく砲身の中に入ってく藤花。逆に何が起きるのか想像したリステルは完全にビビっていた。


「気持ちは分かる。だが、この世界では比較的メジャーな移動手段だ。是非体験していってくれ。では失礼」


 ガイドさんはそう告げると、ひょいっとリステルを担ぎ上げた。


「えッ、ちょッ、おま……ッ!!」


 戸惑っているうちに、砲身の中へと連れ込まれる。


「おまえたちの世界でいう、体育座りや三角座りというのか?

 顔を砲身の外へ向ける形で、その体勢を取るんだ」

「わかりました!」

「ううー……わかった」


 中へと連れ込まれてしまった以上、グダグダ言っても仕方ない。

 文句言って、大砲屋のおじさんに迷惑をかけるわけにはいかないのだ。


 リステルが素直に体育座りをしたところで、ガイドさんが声を上げた。


「タマヤさん。頼みます」

「よっしゃー!!」


 どうやら、大砲屋のおじさんの名前はタマヤさんというらしい。

 彼は見た目通りの威勢のよい声を上げると、叫ぶ。


「タマヤー……ファイアー!!」


 瞬間、強烈な何かに背中を思い切りどつかれた――ように感じた。

 気が付くとすでに外にいる。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


 グングンと空へと近づいていく感覚。

 ものすごい風に髪も服もバタバタとはためいている。


 そこから先は、なんだかグルグルだ。

 身体がボールにでもなったかのようにグルグル回っている。


「ほう。今日はよく見えるな。

 北に見える青色ばかりの崖が水の神壁しんへき。東に見える赤い湖が、炎の神池しんち。その先に見えるエメラルドに輝く森が、樹神じゅしんの領域だ」

「見えるかぁぁぁぁぁ――……ッ!!」

「すごいすごい! 本当に崖の壁面が水みたいに真っ青だー!!」

「見えてるんかぁぁぁぁぁ――……いッ!!」


 叫びながら、リステルは気づく。

 ――あれ? もしかして、これで聖域三カ所終了扱い?


 いや、しかし――ほかも通り過ぎたし、良いか。

 ……良いのか?


 とか何とか悩んでる間に、身体にかかる空気が変わる。


「おっと落下するぞ。身体を開くんだ。

 顔を下に向けた状態で、君たちの国で言う大の字というやつになるといい」


 言われた通りにやると、下からの風をガンガン受けて顔が変形する。

 スカートがめちゃくちゃにバサバサ動く。

 気にする必要は今更ないかもしれないが、それでも気になってしまってリステルはスカートを抑えた。


「うわー! いい眺めー!」

「暢気だな藤花ッ! っていうかこれ着地どーすんのッ!?」

「安心しろ。大砲神の加護によって地面に激突してもケガなどはしない」

「ケガしなくても激突はするのかよッ!! っていうかあの大砲も聖域ッ!?」

「そうだ。あと、激突に関してだが……今回はしないぞ」

「え?」


 リステルが首を傾げると、ガイドさんは落下地点だと思わしき場所を見ながら、満足そうにうなずく。


「さすがはタマヤさんだ。数いる大砲屋さんの中でここまで完璧な砲撃輸送を出来るのは彼だけだな」


 ガイドさんが指さす先には、青と白とが渦を巻いている不思議な光景だ。


「聖域の一つ。旅立ちの祭壇だ。あの渦は旅神りょしん坩堝るつぼといって、別の場所にある旅神の坩堝と繋がっている」


 それはつまり――


「さぁ足を下に向けろ。旅神の坩堝に入ると、大砲神の加護はなくなるからな。足から入らねば、転移先でケガをするぞ」

「無茶苦茶だぁぁぁぁぁぁぁ――……ッ!!」


 全力で絶叫するリステルの傍らで、藤花はどこかへと向いて両手でピースをしている。

 えへ顔ダブルピースって感じのかわいい仕草だ。


「って、藤花は何をやってるの……ッ!?」

「え? だってパンフレットには、このあたりのタイミングで、こっちの方から記念写真のシャッターが押されるって」

「はぁぁぁぁ――……ッ!?」


 瞬間、リステルはスカートのはためきが無性に恥ずかしくなって抑える。

 この時だけはどこにカメラがあってどこでシャッター切ってるんだよという疑問は消し飛んでいる。


「大丈夫だって、リステル。そんな必死に抑えなくたって、見えたりしないって」

「藤花はなんでそんなに余裕があるんだよぉぉぉ――……ッ!!」


 とかなんとかやっているうちに、三人は旅神の坩堝の中へと落ちていった。




「うえぇぇぇ……」


 坩堝から吐き出されたリステルは思わず嘔吐えずいた。

 中身を出すことはなかったのだが、酷い乗り物酔いのような状態になってしまったのだ。


 坩堝の中に入るなり、これまでの視界とこれからの視界がぐねぐねと混ざり合ってハッキリしないのが一番の原因だが、同時に音も混ざり合ったこと、直前まで空中で自由落下してたせいで、文字通り地に足がついていなかったこと等々、様々な要因が重なって、リステルはグロッキー状態になってしまった。


「大丈夫リステル?」

「ううっ……」


 背中をさすってくれる藤花はケロっとしている。

 こいつの三半規管はどうなっているのだろうか。


「転移酔いのところ申し訳ないが、回復する前にもう一度転移するぞ」

「……え?」

「ちなみにここは、太陽の神殿と呼ばれる祠だ。ここも聖域の一つだ。今は旅神の坩堝が三つあるだけの空き屋同然だがな。

 すぐそこの旅神の坩堝を使うための経由地でもある」


 そんな訳でグロッキーで動けないリステルをガイドさんは俵持ちで担ぎ上げる。


「ぐえ……」


 肩で腹部が圧迫されて死ぬ。

 そんな気分のリステルを余所に、藤花はとにかく楽しそうに、旅神の坩堝の中へと飛び込んでいく。


(……ああ、ボク……もう、ダメ……)


 坩堝の中で歪む視界の中、リステルは意識を手放すのだった。


 …

 ……

 …………

 ………………

 ……………………

 ………………

 …………

 ……

 …


「……あれ?」

「あ、リステル起きた?」


 目を覚ますと、横に座っていた藤花が安堵したような笑顔を浮かべる。

 簡素なベッドに寝かされているようだが――


「ここは?」

「今日の宿泊場所。リステルが寝てる間も聖域巡りして、今日だけで23も巡れたんだよ!」

「通り過ぎただけを巡ったと言えるの?」

「巡ってるのは間違いないよね?」

「う、うーん……?」


 屈託のない笑顔で言われると、そんな気にもなってくるから不思議である。

 大砲に飛ばされ空中から見た光景は、もはや通り過ぎたってレベルですら無かった気がするのだが、もう気にするだけ負けだろう。


「気分はどう? ごはん食べられそう?」

「あ、うん。食べる。おなかは空いてるし」

「そっか。ならもうちょっと待とう。

 ご飯は宿屋で出る訳じゃないから、ガイドさんが狩ってきてくれるって」

「そうなんだ。わざわざ申し訳ないね。何を買ってくるのかな?」

「大きいイノシシのモンスターだっていってたけど」

「そんな巨大なの買ってくるの?」

「リステルは寝てたから知らないだろうけど、途中でモンスターの群れを突っ切っててねぇ……ガイドさん強かったんだよ! リアル無双カッコ良かったー!」

「ああ、力持ちなんだ? なら大きいのを担いでくるのかな?」

「うん! なんか魔法で身体能力向上? とかしてるらしくて」

「そういうの聞くと異世界だなぁ……て思うよ」

「わかるぅー!」


 そんなこんなで夜が更けていく。

 ガイドさんの持ってきた巨大イノシシは、ガイドさん自身の手でフルコース料理へと変わっていき、大変美味しく、二人は堪能するのだった。


「ところでガイドさん、このイノシシいくらだったの?」

「ん? 金銭的な部分だとゼロだぞ?」

「え?」

「え?」




 ともあれ、ツアーの夜はリステルの心に大変な平穏をもたらすのでした。






「……って、思ったボクが馬鹿でしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 夜の森。

 リステルの悲鳴が響きわたる。


 サスペンションゼロの竜車再び、である。


 しかも夜。

 なんでこんな夜更けに、森の中を爆走しているのかというと――


「二つの月が重なりあう時間だけ通過できる聖域があるのだ」

「わぁ! なんだかロマンチックですね!」

「通過!? そんなレアな環境を通過するだけなの!?」

「ここに関しては本気で通過しないと危険だ。中へ入ったらまた二手に分かれるまでに外に出ないと、閉じこめられる。

 二つの月が重なるのは、四十日に一回だけだからな。脱出しそびれると四十日間、聖域でサバイバルだ」

「ロクな観光地じゃないなそれッ!」

「観光地ではないからな」

「観光地じゃないのッ!? だったらなにさッ!?」

「聖域だが?」


 そんな当たり前なことを聞くのか? という顔でガイドさんに言われ、リステルは思わず――ボク、何か間違ったコト言っただろうか……と不安になる。


「まぁまぁリステル。そんな素敵な場所が通過できるなんて素敵じゃない?」

「素敵じゃない!」

「だよね!」

「今のは肯定じゃないよ!!」


 とかなんとかやってるうちに、オーロラみたいな壁を越える。

 すると、突如としてめっちゃキラキラ光る水晶だらけの高原にでた。

 空中には虹色に光る巨大なシャボン玉のようなものがゆったりと飛び交い、ガラスの羽根のチョウチョが、水晶の薔薇に止まっている。


 幻想的すぎるほどに幻想的な光景だ。

 筆舌に尽くしがたいほどの美しく、ファンタジーな光景は、こちらを圧倒しながらもささくれだった心を癒やし尽くすほどに美しい。



 そんな高原を何をする訳もなく反対側のオーロラまでを一気に駆け抜けました。



「ところで、入り口が開いてから、閉じるまでの時間ってどれくらい?」

「地球の感覚で一時間くらいだが?」


 観光する余裕結構あるじゃねーか……と、リステルは叫びたくなる衝動をグッと堪えるのであった。

 あんなやりとりした後じゃ叫びづらいというやつである。まぁ癒やされたのでよしとすることにした。



 ちなみに――以後も終止こんな感じであり、二日目の夕方頃……転移ゲートステーションに戻ってくる頃には、リステルはすっかりやつれていた。


「…………」

「楽しかったねー、リステル」

「ウン、ソーダネー……」


 完全に燃え尽きている。

 延々とツッコミを続けたせいで、喉も涸れている。


「あ、そうだ。

 ツアー中の各所で撮ってた記念撮影。写真、届いたよ」

「ヘー」


 そうして見せられた写真に、リステルの顔が盛大にひきつった。


「あははははははは」


 同じ写真を見て、藤花は爆笑している。


 それは大砲移動の落下中のモノだ。

 カメラ目線のかわいい顔でダブルピースしている藤花。


 そして、リステルはというと――


「何だよこれぇぇぇぇ……ッ!!」」


 必死にスカートを抑えている姿で映っている。

 しかも、落下中だからか顔も髪の毛も酷い有様だ。

 どうして、藤花が普段通りの姿なのかがわからない。


 問題は――そう、問題は、だ……。

 問題ばかりの写真なのだが、一番の問題ってやつがあるのだ。


「リステル、抑えてるのにスカートの中が丸見えだー!」


 ネット上なら、「ww」と草を生え散らかすかのような口調で、藤花が笑っている。

 そんな藤花は、何故かスカートはめくられることなく、いわゆるアニメの鉄壁のスカートのようになっているのだ。


「納得いかねぇぇぇぇぇ――……ッ!!」


 リステルは思わず叫ぶ。


 他にも、グロッキー状態で目を回しているものや、顔面を痙攣させているもの。白目をむいているものなどなど、リステルに関するマシな絵がロクにない。


 そのクセ、藤花はどれもこれも完全なカメラ目線のアイドルポーズだ。

 それらの全てが可愛らしいのが逆に憎らしい。しかもスカートは鉄壁である。

 リステルのスカートは全てでなくとも、めくれたりしてる。めくれてない写真はだいたい乙女として終わってるような絵面だ。

 ここまでくると、藤花の愛らしさに免じても許せる気がしなくなってくるのが問題だ。


「いやー……異世界弾丸ツアー楽しかったねー!

 また参加しようね、リステル!」


 満ち足りた笑顔の藤花に、リステルはこの旅における最後の全力を振り絞って、最後の言葉を口にする。



「絶ッ対ッにッヤダァァァーーーーーッ!!」







 ちなみにお値段は、普通の異世界旅行の十分の一で済みました。

 





   ○ ○ ○ ○ ○



 倉田藤花様、玖樽リステル様


 この度は、当社の弾丸トラベルをご利用頂きありがとうございました。

 またのご利用をお待ちしております。


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