エピローグ

――――オレがこう思った後、組織の部隊が突入し、綾瀬川の身柄は確保され、そして事態はいろいろと収束した。

綾瀬川はそのまま、組織内での裁判をしたらしい。

クラスのみんなには病気で休んでいるということで話は済んだ。

無事に部室での日々も戻りつつあったが綾瀬川はなかなか顔を出さない日が続いた。

それに綾瀬川とあったのも一日だけ。綾瀬川はオレと会うのが嫌なのか、話かけようとしてもすぐにどこかへと消えてしまう。

オレはどうしたものかと考えていたが当の人物がいなければ話にもならず、オレは気にしないことにした。

なぜかって?

だって綾瀬川は戻ってきたし、何事もなく普段の生活に戻れる。

それに彼女がこのまま笑って過ごせるなら、オレは関係ない。

そう思うからだな。けど―――


空を見上げてそんなこと考え、地面に寝そべり感傷に浸る。

放課後の屋上には誰もおらず、オレ一人。

ガチャリと屋上のドアが開く音が聞こえたが特に気にしない。

どうせ一年生が迷い込んだかな?

まぁ、すぐにどこか行くんじゃないかな。

そうおもっていると足音が近づいてくるのが聞こえる。

足音はオレの近くで止まり、視界に影がさす。

「末原君」

聞き覚えのある声は凛と透き通り心地いい。

「その声は……、綾瀬川か」

綾瀬川はオレを覗き込むようにしゃがみこんでいた。

「調子はどうだ?」

オレはそのまま上体を起こす。

「そうね。調子はいいみたいよ」

「良かったな。組織は何もお咎めなしで帰してくれたんだろう?」

「リーダーがいろいろと手をやいてくれて何もなく、帰ってこれたわ」

「へぇ…、持田がね…」

まぁ、持田はああ見えて面倒見がいいんだろうな。

「ただ何もなくてよかったな」

「ええ…」

綾瀬川はゆっくりと答えた。

「暑いわね」

「確かにな、もう初夏越えたしな」

今はもう七月だ。そろそろ、テストが近いことは知らないふり。

今は夕方だからいいほうだが風は熱く、汗がどんどん出てくる。

「聞きたかったことがあるんだけどいいかな?」

「なんだい?」

「何であのとき、助けにきてくれたの?」

その質問か…。

少し考えないとその質問の答えがでない。

すこし間をおきオレは口を開いた。

「助けに行ったというよりも止めにいったというほうがしっくりくるかもしれないな。それは持田や白石の願いでもあったからだしな」

「太一君はそう思ったから…」

「いや、それも理由の一部だ。ただこんなことを持ち出すのは不謹慎だし、オマエにも失礼だし重いと思うんだけど」

「……」

綾瀬川は黙ってオレを見る。

「オレが中学のとき、仲良かった友人がいてさ。そいつ中学一年のとき自殺しちゃったんだ。ビルから飛び降りてさ。馬鹿みたいだろ、そんなことするなんて。そいつさ、自殺する前いろいろと悩んでいたらしいんだ。でもオレはそれに気がついていて、気がつかないフリをしてさ、結局、見殺しにした。後悔がないのかといわれたらないとは言えない。結構、情けない話だよな。それが何で理由になるのかって言ったら綾瀬川が見せる表情とそいつが悩んでいるときに見せていた表情がダブったんだ。だから二度とあのときに犯した過ちをしたくなかった。でも……」

「でも……?」

「オレはそういうことをダシにしてでも綾瀬川を助けたいと思った。それがどうなる形でさえも。そう思った」

「そうなの」

「それがオレの理由かな」

「……」綾瀬川は立ち上がり、フェンスに近づく。

「私、末原君が来てくれて嬉しかったよ。もう二度と会えないかと思ってから。あのときなんで泣いてたか聞いたでしょ? 転校するって嘘ついたとき私、本当はキミに嘘をつきたくなかった。一緒にいたいなっておもったから。あとお礼を言っていなかったね」

綾瀬川はそういうと微笑んだ。

「ありがとう」

「……」

綾瀬川は最初に出会ったときのような剣呑な表情ではなく、優しく素直な表情をしていた。

風が吹き、彼女の髪を揺らし、夕焼けのオレンジ色の光はが透き通り、彼女を照らす。

この光景は綺麗だなと思った。写真があればとっておきたいが独り占めして記憶にとどめよう。

「綾瀬川」

「何?」

やっぱりオレはこの台詞をいいたくてしょうがない。

「やっぱり笑ったほうが可愛いぞ」

「……。バカ……」

綾瀬川は恥ずかしそうに顔を赤くし、手をもじもじさせていた。

オレはすこし口元が緩んだ。ふと関係ない質問が浮かんだ。

「そういえば何でオレのこと今まで避けてたんだ?」

「後、その…。あの時」

「……?」

「私、あの、あのとき好きって言っちゃったから。恥ずかしくて…」

そういうことだったのか。

「だからあの、あのときのことは忘れて…」

「嫌だ」

「えっ……」

多分、これからいうことはとんでもなく、オレには似合わないし、これから先何度いうかはわからない。けど今ここで言わないと後悔するんだろうな。

「オレも好きだ、綾瀬川」

「えっ……。えぇっ!」

綾瀬川は盛大に驚き、俺はそれを見て笑う。

これからもこの日々が続けばいいと思う。

まだ異世界人はこの世界にいるらしいし、持田たちとはなかなか切っても切れない縁にでもなるだろうな。

それに綾瀬川のこともある。

今度、花火大会があるがそれに誘ってみよう。

まぁ、この状況がよく転べばいいが。

もし『太一、オマエは生きていて楽しいか?』と竹中に聞かれたら今のオレはこう答えるだろう。

楽しいぞと!   

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