第13話

―――「なぁ、太一。オマエは生きていて楽しいか?」

竹中はそういって笑った。

夕日は彼の全身を包みこむように明るい。

今でも忘れないこの光景。

彼の声は明るくそれでいて寂しげでどこかいつもと違う気がした。

あの時、オレは彼の変化に気がついていた。けれどオレはそれを気がつかないフリをしていた。そうだ、彼女の声にもなんだかそんな感じを覚えた。

過去にとらわれすぎているのかもしれない。けれど忘れることはできない。

この思い出のように綾瀬川と一緒にいたことを思い出すのかもしれない。


綾瀬川との電話で会話をした翌日。

特に変わったこともなく、そのままの日々が始まろうとしていた。


「その品物、倉庫に積んだら上がっていいよ」

バイト先の店長の声が聞こえた。

「わかりました」

店長に返事をし、倉庫に荷物を置く。

ふと時計を見ると夜の十時を回っていた。

着替えを済ませ、店長に挨拶をし、店を後にする。

「やっと、終わった」

オレは軽い伸びをし、家路を歩き始める。

バイトが終わり軽い疲れが徐々に現れ、ため息をつく。

ポケットに手を入れ携帯を取りし、着信があるか確認する。

あまりオレの携帯に着信があるのは二日に一回くらいのペースなのだが、今日は違っていた。開くと画面には着信が二十件の表示があった。

誰がこんなに電話するんだ?

オレにこんなに電話をかけてくる人物は思いつかないぞ。

そう内心、思いながら着信の項目を開く。

全て非通知という不思議な光景だった。

何だこれ?

嫌がらせなのか?

怖いぞ、オイ! 

どうすればいいのかこれを誰かに教えて欲しいくらいだ。

すると携帯が振動し始め、着信を知らせる文字。

「うわっ!」

オレはビックリし携帯を落としそうになるが何とか手で持ち直す。

通話のボタンを押し、耳に受話口に耳を当てる。

「もしもし」

『やっとでたね。太一君』

向こうから返ってきた声は間の抜けた声だった。

「持田か」

「そうだよ。誰だと思ったんだい? もしかしてのぞみちゃんとか?」

電話の向こう側の持田はクツクツと笑っていた。

なんなんだ?みんな、オレの携帯に名前を明かさずに電話をするのがブームなのか?

いじめがしたいのか?

『本当に太一君は鈍感なんだから。僕が何回も電話をしても出ないんだからさ』

「気がつくはずがないだろ。バイトしてたんだから」

『知っているよ。まぁ、くだらない話を止めて本題に入ろうか』

いきなり持田の声の雰囲気が変わった。

そして彼が口にした言葉でオレは地面をけり思いっきり駆け出していた。

何でそんなことになる?

その疑問だけを頭に浮かべながらオレは家とは反対の方向に足を向ける。

持田が口にした言葉はオレにはよ理解できないものだった。

『のぞみちゃんが組織を裏切った』と―――

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