❏ モゴルフス

「ウィルアムさんっ!? 大丈夫ですか!!」


 松平がウィルアム団長に近づこうとする。が、


「勇者達は早く逃げて下さいっ!! 魔術師団は全力で結界を張って勇者達の撤退を援護!! 騎士団は全員でモゴルフスを食い止めますよっ!!」


 もう一本の騎士剣を構え巨大な魔物と対峙しながら、大声を出すウィルアム団長。


「でも……」


「早く撤退して下さいっ! あれは恐らくモゴルフスという最上位の魔物で、四十五階層の魔物ですっ! 初代勇者達でも倒せなかった現在確認された魔物の中で、最強の魔物ですっ!」


 最終的にウィルアム団長の気迫に松平は負け、「急いでここから出るぞ!」と掛け声をかけ二十九階層に戻ろうと扉に近づくが、モゴルフスが暴れた時に崩れたダンジョンの瓦礫が扉を埋めていて外に出られない。


 瓦礫は撤去しようと思えば撤去できるだろうが、数が多く撤去しようにも時間がかかりそうだ。となると時間の問題だ。ウィルアム団長達がやられるか、それより早く瓦礫を撤去できるか。


 すると、松平が口を開く。


「僕はウィルアムさんを助けに行くつもりだ。ここで戦わないとここから出られないし日本へも帰れない。戦いたくないなら瓦礫を撤去していてもいい。戦うつもりの人は今からウィルアムさんを助けに行くぞっ!」


「俺も行くぜっ!」


「私も!!」


 テイク2ですか? どっかで見たことあるんですけど。


 松平の言葉で全員の士気が上がり、松平達はウィルアム団長の元へ駆けつける。俺も空気の流れで戦いに参加。死にそう。


 本音を言うと今すぐにでも逃げ出したいが、騎士団や魔術師団の人やクラスメイトが死んだら寝覚めが悪いので仕方なく。


「「敵を燃やし尽くし、炎と共に吹き飛べ、『炎爆』!!」」


「『聖漸』!!」


 クラスメイト達が一斉にモゴルフスに攻撃を浴びせているので、気休め程度にちょっと前に作った硫酸っぽい液体が入った瓶を投げておく。


 俺達が来たことにウィルアム団長は驚いて目を見開いているが、状況を理解したのか前を向いてモゴルフスに攻撃を加える。


 一斉にモゴルフスに攻撃が降り注ぎ、固い鱗に切り傷が薄っすらと見える。だが、致命傷を与えることはなく、モゴルフスにとってはかすり傷だ。


「ギャアアァァァァッ!!」


 モゴルフスは乱暴に腕を振り回し、爪の延長線上に風の魔法が次々と飛んでくる。それに対して結界師の川内がとっさに詠唱を省略した簡易結界を張る。


 だが、詠唱を省略した簡易結界のため完全に防御できず青白い結界に亀裂が入り、ガラスが割れた時の様な音を鳴らし結界が粉々に散り、風の爪が俺達を襲う。

クラスメイト達はとっさに避けるが、クラスメイトより数段劣る俺は逃げることすら出来ず直撃する。


「ぐぁっ!!」


 魔法の勢いで数十メートル吹き飛ばされる。即死にはならなかったが重傷だ。左肩、腹、両足が深く切り裂かれ唯一動く右手でアナテリアから渡された回復ポーションを喉に流し込む。傷が塞がるが完全には治らない。


 痛みが走り起き上がろうとして起き上がれない。すると、聖職者の瀬角がこっちに向かってくる。


「そこで休んでいてください!」


 ウィルアム団長が俺に注意を促す。その間を見計らってとどめと言わんばかりに松平が大技を発動する。


「これで、終わらして、やるっ!!『天剣』」


 ウィルアム団長が松平を止めようとするが松平の勢いは止まらず、聖剣が淡く光だしモゴルフスを貫き、ダンジョンの壁も貫く。


「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!?」


 光り輝く聖剣がモゴルフスの腹に突き刺さり、そこから体中にひびが入ってモゴルフスの体が崩れて塵になっていく。ダンジョンも同じようにひびが入り、崩壊していく。運よく俺達の方までダンジョンが崩壊せずに済んだが、三十階層より下にもう潜れなくなってしまった。まあ、全員無事だったので良いだろう。


 ◇


 長い戦闘の末、ようやくモゴルフスを倒した。怪我人はいるが一人も死者が出なかったのは不幸中の幸いだったと言えるだろう。


 その後、クラスメイト達は床にへたり込み、松平はウィルアム団長にお説教かと思いきや一人の男が突然現れる。


「さすが、勇者様方、モゴルフスを倒してしまうとは。本部に合わせる顔がなくなりますねぇ」


 爽やかな声の持ち主は、身長百八十センチくらいの黒服を着たイケメンの青年。そして、肩には気絶したクラスの美少女、瀬角が担がれていた。


 さっきまで、俺の治療をしていたのに。いつの間に?


「貴様っ! 瀬角さんを放せっ!」


 クラスメイトの誰かが、立ち上がり武器を構える。同じようにクラスメイトの男子達を中心に動ける奴が次々と武器を構え立ち上がる。が、


「あなた達は用済み。奈落の底で永遠にお眠り下さい」


 男が指を鳴らすと、ボス部屋の床が崩れ俺達は何もできずに奈落の底に落ちていった。


「さらばです。勇者」

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