❏ 王道的召喚

 光の強さが落ち着き目を開くことができるようになった時、俺達は別世界の床に呆然と立っていた。


「お願いがある。魔王を倒してくれ」


 いきなり王らしき人が俺達の目の前で頭を下げてくる。夢かと思うが紛れもなく現実で、異世界系小説などが好きな俺でも混乱する。


 俺はそっと目だけを動かし辺りを見渡す。


 赤を基調とした模様入りのカーペットに、金の細工が施された白い壁と天井。だだ広いこの部屋に全てにそれらが広がっており、目の前の壇上で王らしき者が王座に座り、その横には王女と思われる俺達と同じ年ぐらいの少女と老翁が立っていた。


「ようこそ勇者様方。よくぞ召喚に応じてくれました。私はセシルス。今後、勇者様方の成長をお手伝いさせていただきます」


 セシルスと名乗った老人は、恭しく俺達に礼をする。


 質問しようと誰かが口を開こうとするが、お爺さんが銀色の杖で床を叩く。

 

 カンッと甲高い音が響き渡る。ただそれだけなのに何故か威圧感があり、口を開こうとした者は黙ってしまう。


 このお爺さん地味に危険人物の様な気がする。


 俺達が静まったのを確認するとお爺さんはこの世界について説明しだす。


 お爺さんが言うにはこの世界には現在四つの大陸があり、それぞれの大陸に人族、魔族、獣人族、エルフ族が分かれて住んでいるそうだ。そして、召喚したのは人族の大陸中で最大の軍事力を誇る大国、ゲルサミア。


 俺達を召喚した理由は王様が言ったとおり、魔王を倒してもらうためだそうだ。


 王道召喚来たぁぁぁぁぁ!! と俺は心の中で叫んでいた。もちろん歓声だ。


 この年頃なら一度は遭遇してみたいシチュエーションだろう。実際、クラスメイト達は男子を中心に喜び賑わっていた。女子の多くは不安げにして周りん見渡したりしていたが。


 すると、お爺さんがまたも杖で床を叩く。その瞬間鋭い威圧感が漂い、誰もが口を閉じる。


「それでは、次はステータスを見ます。ステータスと唱えてください」


 お爺さんに言われたなとおり、全員がステータスと唱えると歓声が上がる。


 目の前に光のボードが現れ、自分のステータスが書いてある。あたりを見てみるが、他人のステータスボードは見えない。どうやら、人のボードは見えないらしい。


――――

ヒロキ・ミシマ


 種族 人族  職業 加工師Lv.1

 生命力 250/250

 魔力 300/300

 攻撃力 120

 防御力 100

 俊敏性 180


 スキル

 創作術Lv.5 創造術Lv.3 鑑定Lv.3


 レアスキル

 イメージクラフトLv.1【+製作補助】 アイテムボックス

――――


 ちょっと待てよ! 加工師ってなんだよ。


 どう考えても戦闘系の職業じゃない。


「博樹、ステータスどうだ?」


 優正が興奮気味に話しかけてくる。まあ、現実ではあり得ないことだからな。俺も少しは興奮しているが、職業が……

  

 俺はとりあえずまあまあかなと返しておく。


「ステータスが出たと思います。こちらに表示するのが一般的なステータスです」


 お爺さんが見たことない道具を操作すると、壇上に光のボードが現れる。そこに一般的なステータスが映し出されていた。

 

――――

平均のLv.1の場合

 生命力 250

 魔力 150

 攻撃力 130

 防御力 110

 俊敏性 100

――――


「は?」


 俺は思わず、言葉を漏らす。


 召喚者だから加工師でも少しは強いかなと思ったけど全然違った。俺のステータスほぼ平均。

 

 他のクラスメイトが気になり辺りを見渡すが、平均超えだとか言って喜びまくっている。というか、俺以外全員平均超えっぽい。


 ざわついているところにまた、お爺さんが杖で床を叩き全員を黙らせる。


 するとメイドのような人が現れ、机の上に水晶玉を丁寧に置く。


「では勇者様方、この水晶玉に手をかざしてください。これはステータスを読み取り、表示する魔道具です。勇者様方のステータスをぜひ拝見してみたいのです」


 お爺さんはそう言って赤いクッションの上に置かれた水晶玉を指差す。


 これあれじゃん。勇者が軍事利用されるやつだ。読んだ小説でも主人公が軍事利用されかけてた。そして、さっき聞いた話だとこの国は最大の軍事国家。それが正しいとすると、戦力が欲しいはずだ。


 この人達にそんな悪意があるかはどうかは分からないが警戒しといた方がよさそうだ。


「では、一人ずつ前に出て来て水晶に触れてください」


 すると、さっそく優生が前に出て水晶に触りに行く。


――――

 ユウセイ・ナガエ


 種族 人族  職業 魔剣使いLv.1

 生命力 280/280

 魔力 170/170

 攻撃力 180

 防御力 150

 俊敏性 140


 スキル

 剣技Lv.8 体術Lv.5


 レアスキル

 魔剣術Lv.1

――――


先程より大きな光のボードが優生の頭上に現れ、ステータスが表示される。


「「「おおおっ!」」」


 クラスメイト達の歓声が上がる。流石剣道部と褒められ調子に乗る優正を無視し、俺は今どうするかを考える。


 もういいか。自分で言って悲しいが、どうせ平均ステータスだし見せたところでみんなより弱いから軍事利用されないだろう。


「「きゃあぁぁぁ!」」


 何が起こったのか、女子の歓声が上がる。俺は前を向くと勇者である松平のステータスが開示されていた。

――――

シュウヤ・マツダイラ


 種族 人族  職業 勇者Lv.1

 生命力 300/300

 魔力 180/180

 攻撃力 160

 防御力 140

 俊敏さ 150


 スキル

 魅了Lv. 6 剣技Lv.2 体術Lv.2 六属性魔法術Lv.1


 レアスキル

 聖剣覚醒Lv.1

――――


 勇者はやはり予想通りの松平だった。結局は顔で決まるのか。


「流石、勇者だ。素晴らしいステータスだ」


 王直々にお褒めの言葉をもらい、さらに女子に囲まれる松平。一見、いつも通りの顔に見えるが若干口角が上がっている。


 俺は松平を横目で見ていると、お爺さんと目があった。早く、水晶玉に触れろとお爺さんの視線の威圧感が凄い。気が付いてないと思ってたのに。


 俺は王達にもクラスメイト達にも見られたくないステータスを、渋々水晶玉に触れ開示した。


 その瞬間、さっきの賑やかさが嘘だったかのように広間が静まり返る。


「……ほぼ普通ですね。……ま、まあ成長次第ですね」


 お爺さんも一瞬言葉をなくし、戸惑いながらフォローを入れる。全然フォローになってないが。


「スキルが凄いとかないのですか?」


 勇者である松平が手を上げ、お爺さんに質問する。


「レアスキルのアイテムボックスは良い方ですが、イメージクラフトが……」


 言葉に詰まり黙りこんでしまうお爺さんに代わり、王女らしき少女が続きを説明しだす。


「イメージクラフトは想像で物を作り上げることができるスキルです。ですが、何かを作るのに材料が五倍必要だったり、思ったように仕上がらなかったりする扱いにくいスキルです。スキルレベルの上げ方も不明で、レアスキルの部類に入っていますが使えないスキルと思っておくといいですよ」


 にこやかに微笑みながら現実を突き付けてくる少女にお爺さんは、言ってしまったと言わんばかりに顔を青ざめる。


 使えないスキル=雑魚スキルっていう事ですよね。クラスメイトの誰かがクスクスと笑っている。王達に騙されても助けてやんないからな。


 すると、お爺さんが咳ばらいをし再び話し出す。


「えーっと、君たちはこれから一か月、毎日訓練を積んでもらいます。その担当が、我が国最精鋭の騎士団です――」

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