第2話 転移と顔合わせ

「――ん…まぶし…あと5ふ…ん?」


そこまで二度寝宣言したところで、私は違和感に気付く。

普段寝ているベッドではありえない草と土の香りに。


「え?」


不審に思って目を開けると、さらなる困惑に襲われる。

その原因は、視界を覆うの髪。

誰かに悪戯でカツラでも被せられたか―――そう思って髪を引っ張ると、しっかりと自分の頭から生えていることが確認できた。

更に困惑する。

誰かに染められたか?


「ん…んん…」

「!!」


すぐ近くで誰かの声がする。得体の知れない髪の毛を慣れない動作で掻き分け、声がした方を見る―――――


「え?シノン…?」


そう。目を向けた先にいたのは特徴的な緑っぽい髪色をし、背にゴツいSRを装備した少女。誰がどう見ても一般人じゃない。っていうか誰がどう見てもシノン。


「――まさか」


改めて辺りを見渡してみる。するとそこにいたのは、先程のシノンにしか見えない少女の他に、どこかで見たことがあるようなスライム、でっかい剣と盾を持っているこれまたどこかで見たことあるようなおっさん、ダボダボの黒い服を着て顔に髑髏の面を付けた人、黒いローブを着た深緑色のおかっぱのような髪型の人。


「ってことは――」


全員が知ってるキャラだった故の反応ではない。


「みんなでオバロ展開―――ってことかな、これは」


そう、全員「Laughing Coffin」のメンバーだった。





「ん…ん――」

「あ!」


どうやらシノンがそろそろ目覚めるようだ。

私は彼女の身体を揺すって声をかける。


「シノン様!シノン様!すっごいことになってますよ!」

「…ん…誰…ってユエ!?」


跳ねるように飛び起きたシノン様。当然そこには起こそうとした私の頭があるわけで。


ゴツッ!


「「いったあー!」」


互いに尻もちをついた状態で頭を抱えて悶絶する。


「いたた…。え…えーっと、ここは…?」


額をおさえながら辺りを見渡すシノン様。そして、私の顔を見てピタ――と止まった。


「…なるほど。ってことはあなたはユエじゃなくてユエさんってこと?」

「ふふっ、言い方は変ですがその通りです」

「で、私は―――」


そう言いつつシノン様は自分が背負っているものに手を伸ばす。


「触っただけでわかる…これへカートⅡよね?ってことは…」

「見た目シノンになってます」

「…どの?」

「GGOの」

「ほんと?やった!!」


シノン様が小躍りしてる。GGOのシノンの姿で。良い。


「ちょっと訊きたいんですけど、私って普通のユエの姿ですよね?エヒトに大人にされたときのじゃなくて」

「ええ、もちろんよ」


よし!


「じゃあ、みんなを起こしましょう!」

「そうですね!皆さんきっと喜びますよ!」


それから、シノン様と手分けしてみんなを起こした。


「ヒースクリフ様!」

「ん…んん…」

「うおお!マジか!!神聖剣キターー!!」

(いい年したオッサンがはしゃいでる…)


「ぺ…ペテルギウス様…?」

「う…」

「ここに導いてくれた魔女の寵愛に勤勉に報いるのデス!」

(ノリいい…っていうか順応はやいなあ…)


「ザザさん!」

「…え…?」

「え!?僕が赤眼のザザ!?Foooo!!」

(子供かな?)


「問題は…」


そう呟いた私の前にいるのは水色のスライム。「Laughing Coffin」のサブリーダーのリムル様だ。


「えーっと、リムル様…?」


ちょっと突いてみる。ぷるんっ。


「…」


もうちょっと強めに突いてみる。ぶるるんっ。


「「…」」


シノン様と両サイドから強めに挟んでみる。バインバインっ!


「ああっ、良い!」


シノン様が唐突に両手でリムル様をバインバインし始める。


『ちょちょちょちょちょ!!痛い痛い痛いって!』


「え?」


唐突に声が聞こえたので辺りを見渡すが誰も声を出した様子はない。となるとやっぱり…


『痛いって!シノン…様かな?やめて!痛いから!』


リムル様がするっとシノン様の手を抜け出して距離を取る。

私は咄嗟に追いかけて捕まえようとするシノン様の肩を押さえる。


「ちょちょちょ!何考えてるんですか!リムル様、大丈夫ですか!?」

「ユエさん離して!あんなにぷるんぷるんのモノ、触りたいに決まってるじゃない!」

「気持ちは分かりますが抑えて!」


といったやり取りをしていると唐突にリムル様の身体が大きくうねって変形しだした。


「え?何が…」


「はあ…はあ…ウプッ。吐きそう…」


リムル様が変身した。人間の姿に!!

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