第5話 好き勝手ご飯

 

 昼休みを知らせるチャイムが鳴った。

 前の時間が移動教室で、昼休みを削られたくないだろ?と先生が気を利かせてくれたおかげで、いつもより早く屋上に到着した。


 これでいつもドヤ顔で待ち構えている後輩に仕返しができるってもんだ。


「先輩。今日は早いッスね」

「なんでさ……」


 いつもの場所に後輩は座っていた。

 俺は人をおちょくるように笑っている後輩の横に腰を下ろす。


「今日こそは先回り出来たと思ったのに」

「甘いッスね。後輩たるもの、先輩を待たせるなんて真似をしないんすよ」

「直前の授業、サボってないだろうな?」

「サボってないッスよ!自由参加ッスから」


 自由参加?


「なんだそれ?」

「言って無かったッスか?特別クラスってスケジュールがバラバラだから来れる時にだけで良いんスよ。課題の提出やテストは受けなきゃですけど」

「そういうクラスがあるのは知っていたけど、お前アソコの生徒なのが!?」


 特別クラス。通称、芸能クラスだ。

 私立だから自由度が高く、事務所に所属しているアイドルや俳優、カリスマモデルなんかがいる。一般の生徒の中には彼らと一緒に学園生活をしたいと入学する猛者がいるくらいだ。

 最も、さっき後輩が言ったように特別クラスの連中は不定期でしか来ない。会える確率なんて低い。


「今は活動休止中ッスよ。何をしてるかまではまだ教えてあげないッスけどね〜」


 俺が知らないだけで、とんでもない有名人だったりするのだろうかコイツ。

 スキャンダルとか言われて週刊誌に載らないよな俺!?


「それで、本日のメニューは?」

「お、おう。今日は好き勝手ご飯だ」

「何スかそれ?」


 ネーミングは俺が付けたが、料理とも呼べない代物だ。

 弁当箱にはいつもより量が多い白ご飯。毎回きちんと水につけて炊いている。保温性が高い弁当箱なのでほんのり温かいのだ。


「普通のごはんッスね」

「本名はこちらだ」


 いつもおかずを入れている弁当箱を開く。

 その中にはキムチ、明太子、ちりめんじゃこにシャケフレーク。温泉卵だってあるし、牛肉のしぐれ煮やツナマヨも。


「色んな種類のがひとつまみずつあるッスね」

「そうさ。好き勝手ご飯とはこれらのご飯のお供を好きな組み合わせで乗せて食べるのさ!」


 別名、余り物の墓場という。

 食材によっては中途半端に余るからな。その有効活用だ。


「ふりかけも数種類あるから好きな奴を食え」

「テンション上がってキター!」


 我慢できないとばかりに俺から箸を受け取ってご飯の上に盛り付けていく。

 俺が好きなのは温泉卵とキムチ。牛肉のしぐれ煮を追加するとキムチ牛丼だよな。


「先輩先輩!見てください。全部乗せッス!」

「味の交通事故だぞそれは」


 誰しもが一度はやってみたい欲望を解放していらっしゃった。

 美味いものと美味いものを組み合わせたら更に美味しくなるが、絵具の黒色と同じように混ぜ過ぎ注意な。


「………ちょっと分解するッス」

「ほら言わんこっちゃない」


 キラキラした目で頬張った後輩の箸が止まる。

 いそいそとおかずを再配置する姿はまさしく過去の俺そっくりだった。


「残り少なくなったら言えよ。今日は魔法瓶持って来たから」

「いつもの冷たいのじゃ無くて熱いのッスか?」

「中には玄米茶が入ってる。梅干しを乗せてお茶を注ぐと……」


 シメのお茶漬けの完成だ。

 身も心も温まる。


「ご飯とちょっとのお供だけでこんなに満足できるとは……恐るべし好き勝手ご飯!」

「余り物を詰め込んだだけさ。海苔と酢飯があれば手巻き寿司風にも出来る」


 何気ない普段の昼食がちょっとしたパーティーみたいになるのが嬉しかったりするのだ。

 後輩も満足してくれたようで、弁当箱の中には米粒一つ残っていなかった。


「ごちそうさまでしたッス!」

「お粗末様でした」


 空になった弁当箱を見て、洗い物が増えたのに笑っていた実家のお袋を思い出した。

 今の俺みたいな感覚だったのかな?綺麗に食べてくれてありがとう的な。


「先輩、口にご飯粒ついてるッスよ」

「お、どこだ?」


 後輩に指摘されて顔に手を伸ばそうとすると、先に後輩の手が伸びて、俺の顔を触った。


「いただきッス」


 そしてそのまま米粒を食べた。


「……恥ずかしいから止めろよな…」

「ならお口周りには気をつける事ッスね」


 にひひひ、と笑う後輩は今日も元気だった。























「な、なんなのアレ!?これじゃ屋上に入れないじゃないのよ!」



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