第4話 ソース焼きそば

 

「先輩〜!遅いッスよ」


 いつものように屋上のドアを開くと、後輩が手を振っていた。


「悪いな。次の授業が体育だから先に着替えて来たんだ」


 午後の一発目はサッカーだそうだ。


「お腹を空かした後輩を待たせるとは何事ッスか」

「先に食べてても良かったんだぞ?」


 俺は後輩に食べさせる分も多めに作っているが、コイツは元からカロリー棒やゼリーを持参しているはずだ。


「嫌ッス嫌ッス!先輩の手料理が食べたい食べたい!!」


 ゴロゴロと転げ回って駄々を捏ねる。

 ちょ、スカートでそんなに暴れたら危ないからな!


「あ、今スカートの中に反応したッスね」

「してねーよ!」

「ご心配無くッス。スカートの下はスパッツなんで」


 そう言ってペロンと捲し上げる後輩。確かに黒のスパッツだったが、だからといって見せつけるのは良くない。


「そんな無防備な姿見せてたら他の男子から何言われるか知らねーぞ?」

「……こんな事するの先輩だけッスから…」


 ん?何か言ったか?


「それで今日は何スか?」

「焼きそば」


 弁当箱を開くと美味しそうなソースの匂いがする。

 焼きそばは作るのが超簡単。野菜炒めに麺をぶち込んでソースで味付けするだけ。

 普通の家庭と違うのは、ウチはとんかつソースとウスターソースを混ぜ合わせて味付けするんだ。


「屋台とかのも好きだけど、自作したのも中々だぞ。お前はどっち派だ?」

「屋台……行った事無いッスね。ゲームの中で夏祭りとか出てきますけど、アレって花火見て好感度上げるだけッスよね?」


 何言ってるのこの子。


「屋台と言えば食べ歩きだろ。あのぼったくり価格の焼き鳥とかチョコバナナを買ってラムネで流し込む食の祭典だぞ!?わたあめ食べて口周りがべとべとになったりカキ氷で舌が赤くなったり」

「へー、そうなんスか」


 割り箸を渡すと遠慮なく焼きそばを食べ始めた後輩。

 俺はそれを奇妙な生き物を見るような目で見ていた。


「あのさ、お前さえ良ければ夏になったら祭りに行かないか?」

「あらら?デートのお誘いッスか?」

「そんなんじゃねぇよ。ただ……ただ、こっちの祭りとか地理とかよく知らないから連れがいた方が助かるなぁ〜ってだけ」

「それなら別に良いッスけど」


 誤魔化した。

 俺が考えたのはただ一つ。


 こんなに美味そうに飯を食べる奴が、初めて縁日の屋台を食べたらどういう反応をするんだろう?


 なんとなくそれが見たいと思った。


「焼きそばって玉子が上に乗って無かったですっけ?」

「広島風お好み焼きだなそれは。確か、本当の広島人に言ったら怒られるらしいぞ?広島こそが元祖だって」


 何かのバラエティ番組で言っていたな。そこまで怒ることじゃないだろうに。

 地元愛に溢れているのは良いけど、怒鳴るのはやり過ぎだよ。


「へー、ひよ子みたいなもんッスね」

「あー、あれな。困ったもんだよな」


 有名なお土産用のお菓子ひよ子。可愛い見た目で喜ばれるんだよ。


「東京土産ッスから」

「福岡土産だからな」


 ……………。


「「冗談だろ?」」


 顔を見合わせる俺達。


「「戦争だ!!」」




 この後、滅茶苦茶スマホゲームで対戦した。






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