第18話俺は翠を選びます

「俺は、翠を選びます」


 その中だったら翠かな。


 真白と魅墨は生徒会メンバーだ。ある程度服装指導についても慣れてるだろう。


 春野は支援部の古参メンバーだから、ある程度やる事はわかるだろうし、指示も特にいらないだろう。


 だったら、この中で唯一生徒会でも、支援部に慣れてる訳でもない翠を見てあげないといけないなという消去法で決定した。


「そうか。まあ、皆野が選んだのならそれで構わない。今日、生徒会の打ち合わせが終わったら土方にも支援部に来るよう伝えておいたし、今の話をみんなにもしようと思う」


「わかりました。ちなみに、生徒会組はいつ頃合流ですかね?」


「もうそろそろだったかな? 今から行けばちょうど合流のタイミングだと思う。行こうか」


 黄島先生は壁掛け時計の時間を見て立ち上がる。どうやら、生徒会はそんなに時間のかかる打ち合わせではなかったようだ。


 俺は支援部室へと歩き出した黄島先生の背中について行き、職員室を後にした。





「おいーす。揃ってるかー」


 支援部室の扉を開けて先生が声をかけ、俺はその後に続く。


 春野、真白、魅墨、翠の順番でパイプ椅子に腰掛けてみんな待っていた。


 各々紙カップとお菓子を机に並べており、まったりしていたのだろう。


 しかし、気になるのは俺のお菓子が机に並んでいるという点だ。


 春野に目をやると、春野はいたずらっ子のような笑みを浮かべて俺を見つめ返した。やはり犯人は貴様か。覚えとけ。


「あー、みんなくつろいでるところ悪いが大事な話がある。よく聞いてくれ」


 ここで、黄島先生は手をパンパンと鳴らして全員の視線を集めた。


 空気がピリッと引き締まり、あの翠ですら姿勢を正している。先程のまったりムードとは大違い。流石は黄島先生。腐っても教員だな。


「まずは、君達の服装指導を褒められました。君達の頑張りによるものです。ありがとう」


 最初に、黄島先生は褒められた事を全員に伝えていく。皆少し誇らしげな顔をしており、翠に至っては当たり前だと言わんばかりにドヤ顔だ。


 翠、服装指導で褒められてるけど元を正せばお前が真白と喧嘩してなきゃ良かった事だからな。と、ツッコミたい。


「で、君達の頑張りが評価され、もう少しだけ服装指導を協力してやって欲しいと打診が来ました。私としては上司の命令には逆らえないので協力して欲しいです」


 黄島先生はまったくもって包み隠さず、あけっぴろげに服装指導の再要請を説明した。もう少し包み隠した説明をすればいいのに。


 当然のように嫌そうな表情を浮かべる春野と翠。反対に、真白と魅墨は特に表情は変わらない。強いて言えば、上司の命令に逆らえないのくだりでほんの少しだけ眉根を寄せてたくらいか。


「まあ、協力してくれとは言ったけど、半ば強制だ。断れそうにない。だから、皆野と相談して、とりあえず最初のペアだけ決定した。皆野と皆野妹だ。頼んだぞ」


「……し、しょうがない。本当はすっごく嫌だけど、相談して決めたみたいだし、断れないなら無理でしょ。だったらやる」


 翠は、黄島先生がお願いした次の一言目には腕を組んでそっぽを向きながら了承した。


 ……翠のやつ、拍子抜けするくらいあっさり了承したな。もっとごねるかと思ってたんだけど。


「はい。黄島先生。翠はすごく嫌と言っています。であれば、ここは生徒会長である私が受けても問題ありません。私は嫌ではありません」


 ここで、真白が手を挙げて、翠の代わりを志願し始めた。


 まあ、嫌なら変わってあげるというのは理由としては納得出来る。生徒会長だからという理由を聞けば頷けるし。


「いや、生徒会長には悪いっす。ここは自分がやるっす。皆野さんとはずっと一緒に仕事してたっすから、一緒に作業するのに慣れてる自分がするっす」


 真白にまったをかけるように、今度は春野が手を挙げて我こそはと口を挟む。


 まあ、春野が言う事もわからんでもない。


 一緒に仕事をしてきたし、意思疎通という点では春野が一番向いているだろう。


「待て待て。ここは親友であるこの私が一緒にやるべきだ。な、蒼司」


 なーにが、な、蒼司だ。


 どうせ出てくると思ったが、やっぱり割り込んで来た魅墨にだけは心の中でツッコミをいれる。


 真白、春野ともっともな理由を挙げてるのになんで魅墨だけはよくわからない理由なんだ。そして、なんでそんな誇らしげな顔を出来るんだ。


 翠がごねる事は想定していたが、外野がごねる事は想定しておらず俺は頭を抱える。


 どうやって収集をつけたらいいんだ。と思ったその時、翠が机をバンと叩いて立ち上がった。


「誰がなんと言おうと、決定している以上私がお兄と一緒に作業だから。異論は許さない」


 支援部室内が一気に静まり、全員の視線が翠に注がれる。


 異論は認めないどころか許してもらえないとか、パワーワードすぎるぞ。


「もういいか? 皆野妹でいいなら、私は皆野妹で報告だけしてくるから。それと、服装指導はローテーションするから、また追って説明する」


 黄島先生は、女性陣のやり取りが一通り落ち着いたのを見て、再度反対意見がないか確認する。


 まあ、異論は許さないと翠が言ったんだ。今の空気も相まって、異論が出てくる事はないだろう。


「よし、じゃあ皆野と皆野妹で報告してくるからな。みんなありがとう。本日は終わりで」


 黄島先生は俺と翠で確定した事を告げると、支援部室から出て行った。


 残ったのはしんとした雰囲気で、どうしたら良いものかと頭をかく。


「お兄!」


「は、はい?」


 静まりかえった部屋の空気を裂くように翠が俺を呼び、俺は妹相手に緊張しながら気をつけをして聞き返す。


 ちょっとダサい。


「明日遅刻しないでよね」


 そう言い残し、翠は鞄を持って支援部室から出て行った。……まだ、部活終了を告げてはいないんだけど。


「これは、解散っすかね?」


 出て行った翠の背中を見つめながら、春野がボソリと呟いた。


「……だな」


 俺はそれに同意して、本日の支援部終了を宣言した。

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