第16話魅墨は親友です、魅墨は親友です、魅墨は親友です

 翌朝。四季高校の正門にて服装指導する予定の俺は、ふと空を見上げた。晴れ渡る空。雲一つない澄み切った空気素晴らしい。なんともまあ、淀みのないことだろう。


「なあ、蒼司。私達親友だろ? だったら一緒に服装指導をしようじゃないか。あと、昨日なんで返信しなかった? 心配でいつもより眠れなかったんだぞ」


「蒼司さん、どういう事ですか? いつの間に魅墨と名前で呼び合う関係に?」


「皆野さん、ひどいっす! こうなって来たら私だけ他人行儀じゃないっすか! ずっと支援部二人で頑張って来たのに!」


「お兄? また、たぶらかしたの? 引くわー」


 こいつらさえいなければグッドモーニングなんだけどなあ。現実逃避に見上げた雲一つない空がなぜか恨めしい。


 というわけで、朝から支援部と生徒会合同の服装指導を始める訳なのだが、魅墨が俺を名前で呼んでから雲行きが怪しくなり始める。


 真白が、なぜ名前呼びしてるの? と反応し、春野が怒り出し、翠が俺を軽蔑するように白い目で見るというカオス空間になってしまった。


「名前呼びくらいするだろう、なにせ魅墨と俺は親友だからな」


 俺は開き直って、魅墨を名前で呼びながら親友を強調する。すると、魅墨は照れ臭そうににやりと笑い、他三人はジト目で俺を見つめていた。


「一日で親友になるんですか?」


「固く握手をすればそれは親友だぞ」


 まずは、真白が先陣を切って質問をしてきたので昨日の魅墨の言葉をそのまま伝える。


 真白は納得してない様子だが、魅墨は腕を組みながら頷いていた。


「名前呼びは距離感近すぎじゃないっすか?」


「親友は遠慮いらないらしいぞ」


 今度は春野の質問に、これまた昨日の魅墨の言葉をそのまま伝える。自分で答えておきながらなんだけど、違和感しかない。


 同様の感情を抱いてるのか、春野は複雑な表情をしているが、これまた魅墨は満足そうに頷いていた。


「……とりあえず、信じるけど。本当に親友なだけだよね?」


「ああ。親友だ。俺と魅墨の仲は不滅らしい」


 最後は翠の質問に、これまた昨日の魅墨の言葉を引用する。言えば言う程、魅墨だけが満足そうで他三人は微妙な表情をしていく。


 言っておくけど、俺もどっちかと言えば魅墨サイドの考えじゃないからな。翠達と同じ感情を抱いてるからな。と、言いたいが言えば魅墨がややこしくなりそうな気がする。


 昨日のラインを思い返せばうっかりいう事も憚られる。俺は言葉をグッと飲み込んで、なんとか三人が納得してくれる事を祈った。


「とりあえず、信じるかな。お兄と魅墨さんは、親友ってことで」


 なんとか飲み込んでくれたようで、かなり複雑な表情ではあるが、翠は納得してくれた。


 他二人の顔色を伺い視線を合わせるが、どうやら複雑ながらも翠に同調したように頷いてくれた。


「流石は翠、俺の妹。素敵、最高!」


「もう、お兄言い過ぎ。シスコン過ぎ。とりあえず一つ目は納得したとして、なんで今日も真白とお兄がコンビなの?」


「あ、私も気になったっす」


 翠を褒めると、顔を赤くして罵倒されてしまう。そして、続け様に答えにくい質問が飛び出した。その答えにくい質問に春野も同調して、圧力をかけてくるようにジロリと俺の目を見つめてきた。


 一難去ってまた一難。答えは簡単、魅墨とだと疲れそうだからに他ならない。


 だがしかし、魅墨がいる今、正直に答えられない。


 でも、答えを期待するように、春野と翠がずずずいと顔を近付けてきてたじろいでしまう。


 クソッ、どう答えるべきか。


「支援部の長である蒼司さんと、生徒会の長である私がコンビを組む事で、別視点ならではのやり取りをスムーズに行えるよう打ち合わせしてたのですよ。ね、蒼司さん」


 悩む俺に、真白からのアシストが入った。


 真白とは打ち合わせも何もしていないが、真白はそれっぽい理由を並び立て、そっと俺に目配せをした。


「そ、そうなんだよ。俺は支援部の意見を。真白は生徒会の意見を集めて、そのやり取りをする為にはそれが一番いいと思ってな」


 真白のパスをしっかりと受け止めて、自分なりに一番良い形に昇華する。


 先程の魅墨の事で誤魔化すよりも全然それっぽい理由だったので、春野も翠も納得したように頷いていた。


「そうだったのか。であれば蒼司、親友として離れ離れで作業をするのは心苦しいが仕方ない。私と離れても寂しがるんじゃないぞ」


 問題児である魅墨も、今の説明で斜め上の方向に納得してくれたようだ。もう、その解釈でいいよ。


「じゃあ、魅墨、春野、翠は裏門をお願いします。私と蒼司さんは正門で。では本日もよろしくお願いします」


 真白が最終的にまとめて解散を促すと、みんなそれにならって一礼し、それぞれのポジションへと向かった。


 とは言っても正門組の俺と真白は移動する事なく、生徒来襲第一陣をその場で待った。


「真白、さっきはありがとう。助かった」


「いえ。蒼兄も何か理由があったのでしょう。詳しくは詮索はしませんけどね」


「そう言ってくれると助かる」


 真白が詮索するとなると、君のとこの副生徒会長が重いですとしか言いようがない。


 真白が俺のラインアイディを教えたのだ、責任を感じてしまうだろう。


「ちなみに、魅墨と本当に何もないんですよね? 友人の一人なんですよね?」


「……なんでみんなそれを気にしてるのかはわからないけど、本当にただの親友だぞ」


「親友になるスピードが早すぎると思うのですがね。まあ、わかりました。何度も聞いてすみません。私達にとっては重要な事なので」


「……ん? 達?」


「あ、蒼兄来ましたよ」


「り、了解」


 なにやら真白が気になる事を言った気がするが、どうやら生徒達の第一陣がたどり着いたご様子。


 真白の指差した先にはちらほらと生徒達の姿が見えた。


 さてと、服装指導二日目だ。今日は何事もなく終わっていくといいけど。


 気合いを入れ直して、生徒達の服装に目を光らせる。


 少しはボタンを開けていたり、ネクタイやリボンを緩めている生徒がちらほらといたが、特に翠のように突っかかってくる生徒もいなく、スムーズに終わっていく。


 気がつけばショートホームルーム前。本当に何もないまますんなりと終わっていった。


「んー。久しぶりに歩いて教室に戻れそうですね。終わりましょうか」


 真白は思い切り背伸びをして、嬉しそうに俺に微笑みかけた。


 俺もつられて笑う。一昨日と昨日が嘘のようだ。……翠が遅れの原因だったんだな。


 俺は心の中で真白に謝罪をしながら、教室へと戻っていった。

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