母の言葉を聞いてから、私は誰も信用することができなくなってしまったし、本当に自分の居場所がなくなったように感じたわ。


母の言葉が耳にしみついていて、もし私が優秀でなくなれば、父に自分の子どもじゃないことバレて、そしたらもう、家族じゃなくなってしまうのかもしれないと考えると、ものすごく怖かった。


だから私は寝る間も惜しんで、死に物狂いで勉強したの。

私が優秀でいれば、大丈夫だと思ったのね。


外では勉強していないみたいに振舞っていたけれど、私はもとから頭が良いタイプではなかったから、放課後に先生を捕まえて分かるまで聞いたり、できる努力はなんでもしたわ。


勉強するのは好きではなかったし、成績が落ちることに神経質になるのはストレスの溜まることだったけど、でも、私が我慢することで家族が家族のままでいられるなら、それでいいと思ってた。


だけどね、夜、みんなでご飯を食べているときとか、ずっと私だけここにいてはいけないような気がしていて、九十九とお母さんとお父さんはちゃんと家族なのに、私だけ違うんだって、目に見えない線で区切られているように感じてた。


なのに平気な顔をして、みんなで同じようにご飯を食べていることが、すごく不快で、気持ち悪くなってしまったの。落ち込みがひどいときは、食器を下げた後、一人で吐いてしまう日もあったわ。


そのうち耐えられなくなって、一度だけ、家を出ていこうとしたことがあったのよ。


私、その日のこと、今でも鮮明に覚えてる。


私はとにかく家にいることが嫌で、遠くに行ってしまいたかったの。


だから自分が持っている中で一番大きいリュックを押入れから取りだして、大してお金の入っていない財布と、携帯、お気に入りの本を一冊、上着、そして棚に入っていたクラッカーやお菓子を詰めてチャックを閉じた。


朝はいつも通りの時間に起きて、学校に行くふりをして一旦家を出てから、途中で引き返して家に戻り、学校の鞄とリュックを取り替えた。


もちろん、お父さんとお母さんが仕事に出かけたタイミングを見計らって戻ったから、家には誰もいなかった。


すべては段取り通りのはずだった。






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