私は父と母の子供ではありません。

中学生のとき、母が祖母と電話で話しているのを偶然聞いてしまったのです。


確かその日はお父さんが出張で家を空けていて、夜も遅い時間だったのだけれど、私は目が冴えて眠ることができなくて、キッチンに水を飲みに行きました。


私がキッチンで水を飲んでいると、お母さんの寝室から話し声がしました。なんだろう、と思って、私は扉に近づきました。


「大丈夫よ。ちゃんと上手くやってるわ。」

母の声は疲れていて、少し苛立っているようでした。


「吉雄さんにもバレていないわ。あの人、百が自分のこどもじゃないかもしれないなんて、夢にも思ってないみたい。


それもそうよね、あの子、すごく出来がいいもの。


多少顔が自分に似てない、と思うことはあるみたいだけれど、頭がいいのは自分の遺伝子を継いだからだって、いつも周りに自慢しているのよ。


よかった、あの子が優秀で。もし百があの男に似て要領の悪い子供だったら、私疑われていたかもしれない。」


息ができませんでした。


私は金槌で頭を殴られたみたいな衝撃を感じていましたが、咄嗟に手に持っているコップを落とさないように、ぎゅっと力を込めて握りなおしました。


そしてそのまま音を立てないように、自分の部屋に戻ったのです。


そこまで一気に目を通すと、私は一度視線を上げた。


もう一度手紙に視線を落とすと、ただの文字のはずなのに、頭の中で、姉が私に話しかける声がした。


姉は敬語なんて使わずに、それから起こったことを話し始めた。




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