敏腕刑事コンビの私とアンリちゃんが凶悪化の一途をたどる難事件に挑む話

アタシとアンリちゃんは敏腕刑事だ。数々の難事件を思いがけないひらめきや地道な捜査、時には手段を選ばない方法で解決してきた。刑事ってそういうものじゃないのかもしれないけど、 アタシとアンリちゃんはそういう刑事なのだ。そんな アタシたちは署内でも畏敬の念と共に煙たがられてる……ということもなく、普通に好かれてる。アンリちゃん可愛いもんね。

そんなある日、優秀すぎた アタシとアンリちゃんに昇進の話が来た。まぁ嬉しいは嬉しいんだけど問題は アタシとアンリちゃんがそれぞれ別の部署のトップになることだ。署長さんは

「二人で一つの事件にあたらせるより、それぞれが部下を率いて別の事件を担当した方が良いんじゃないかな?」

なんて言ってる。 アタシは概ね賛成だし、部下に仕事を投げればアンリちゃんとゆっくりする時間も増えるかなぁ……と思ってたんだけどアンリちゃんは不満げだった。

「ねぇアンリちゃん、無理してない? アタシに合わせなくても……」

「いえ、大丈夫です。心配しないでください、先輩」

アンリちゃんはニコッと笑って言う。かわいい。

……でも絶対大丈夫じゃないよねコレ


・・・・・・・・・・・


数週間後、結局アタシとアンリちゃんの部署は同じ事件を捜査することになった。アタシの部署が探っていたいくつかの事件を捜査するうちに、その背後で『繭』と呼ばれる国際的テロリストが糸を引いていたことが明らかになった。そしてアンリちゃんの部署が担当していた事件も『繭』の手引きがあったことが判明し、合同捜査がはじまったのである。しかし捜査は一進一退で『繭』の全容はつかめなかった。その間に窃盗や密輸などにはじまった事件は殺人未遂を伴うなど激化の兆候を見せていて、そろそろ不安になってきたアタシはなんだかちょっと疲れ気味っぽいけど楽しそうなアンリちゃんにそっと耳打ちする。

「アンリちゃん、そろそろこの事件アタシと二人だけじゃ手に負えなくなってきてない?」

「大丈夫ですよ先輩、先輩と私のコンビネーションは完璧ですから」

「さすがに買い被りだよ……ほどほどに頑張ろうね」

「はい!」

元気な返事によしよしと頭をなでる。クマがあってもアンリちゃんはかわいいね、全然わかってないっぽいけど。


・・・・・・・・・・・


 案の定というか嫌な予感が的中したというか、『繭』による事件は大規模な破壊行為を伴うようになり今や国外にも飛び火し始めた。国家間緊張も高まって対応に必要な人員は増加の一途を辿り、当然アタシやアンリちゃん以外も動員されるようになる。こうなるとアンリちゃんとの時間も減ってしまうわけで……そろそろアンリちゃんも気づいたみたいだけど、どうやらもう止まれないみたいだ。

「で……次の事件は国家の威信をかけて結成した捜査チームのトップが殺害される……ってあたりなのかな。しかも内部に裏切り者がいた的な?」

アンリちゃんが何か言う。「どうして避けなかったんですか……」的なことを言ってるぽい。でもよく聞こえないや。結構痛いねこれ。

「いやー無理だよ今の……ここのとこ寝不足だったし……」

そんなに縋りついたら血で汚れちゃうよアンリちゃん。慰めてあげたいけど手に力が入らない。寒気と眠気が迫ってきて、視界がどんどん暗くなる。アンリちゃんはどうにも卑屈というか自己評価が低いというか、やっぱりアタシのことを買い被りすぎなのだ。だからたまにこうしてやりすぎてしまう。アンリちゃんが『繭』を通して作り上げた破滅的な国際情勢は、きっともうアンリちゃん自身にも止められない。もっともアタシが死んだ以上、止める理由もないだろうけど。


(ごめんねアンリちゃん、期待に応えられなくて)


こうして世界は滅びた。

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マルチバース564愛カタストロフィ John・G・マッケローニ @John_G_macaroni

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