「春」「橋の下」「おかしな山田くん」

 考古学教室で同じゼミの山田くんは、弘法大師こうぼうだいしにとりつかれています。


「弘法大師は橋の下で夜露をしのいでいたと民間伝承にもある。お遍路ルートの過去の橋の痕跡を探せば、そこに弘法大師の何らかの痕跡もあるはずだ」

 突っ込みどころ満載の発言のどこから突っ込もうかと考えてると、私の返答を待たずに山田くんは単身、四国へ赴きました。こういうところは無意味にアグレッシブです。


 半年が経ちました。

 時々私のLINEに、おかしな山田くんからの活動報告が届きます。


「真冬のフィールドワークはこたえたけど、ようやく春が来た。僕の活動も佳境に入りつつある。お遍路ではいろんな人に親切にしてもらってるから心配はいらない。ゆうべも橋の下で寝泊まりしていると、となりに古風な風体ふうていのお坊さんがいた。握り飯をご馳走してもらったりしたけど、朝になったらいなくなってた。旅をしてると不思議な人に会うものだ。ではこの辺で。夏が来る前には戻れると思う」


 ん?

 ・・・まさか、ね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る