第35話 恵&母(おまけ)

~新田恵~

千秋のクリスマスライブがついに行われる。

千尋ちゃんと一緒に会場に向かった。ライブ会場は1000人規模の施設だった。

「すごい、千秋の歌を聞きに人が集まってる」

みんなお金を払ってでも千秋の歌を聞きたいと集まるのだ。半年前までは普通の高校生だったのに。私の幼馴染で大好きな人。その人が歌手としてファンを魅了させてる。

とても嬉しく思うし、怖くもある。だって有名になればなるほど、私の手の届かないところにいっちゃいそうで。

「恵ちゃん、ほんとにあのお兄ちゃんがここで歌うんだよね。今いる人たちはお兄ちゃんのファンなんだよね」

千尋ちゃんの声に我に返る。

「そうだよ。千秋にはこんなにファンがいるんだね。千秋は昔からすごかったもん。自慢のお兄ちゃんだね」

私の自慢の彼氏だ。

公演が始まると観客の声に驚く。1000人の叫びはお腹の底から響いてくるのだ。

千秋は楽しそうに歌を歌う。すごくキラキラして楽しそう。ステージを縦横無尽走り回り、ファンに自分をアピールしてる。

途中、私たちの座ってる席が分かったのか、視線を向けてくれた。曲のサビでは「愛しい人、あなたに届けたいこの恋心」と私を指さし言ってくれた。

涙がポロポロと溢れ出てくる。嬉しくて胸が苦しくなってしまった。

ライブ後半ではステージから大ジャンプして観客席を渡り歩きながら歌ってた。あんな所からジャンプして怪我でもしたらどうするの?

通路で歌いながらファンにハイタッチをして回る。私たちの横に来た時は目を見ながらハイタッチしてくれた。嬉しい。

アンコールまで息をつく暇もなく時間は過ぎていった。あっという間の2時間だった。終わった後も少し放心状態で椅子に座っていた。周りには同じようなファンが沢山いる。

帰りに販促コーナーで、千秋の写真集とタオルを見つけたので買ってしまった。千尋ちゃんも写真集を買ってた。

私たちは興奮冷めやらぬまま帰宅したのだ。



~上原母~

高校2年生の息子がいつの間にかモデルで歌手になってた。

本人も軽い気持ちで始めたバイトだ。でもまさかこんなに人気があるなんて知らなかった。

CDを発売する事も話半分に聞いてたし、ホールを借りてコンサートをすると聞いた時も、あそこまで大きい会場だとは思わなかった。

内緒で見に行こうかしら。だってちゃんとできるか心配でしょ。

娘はチケットを貰って行くらしい。あら、母さんにはないのかしら。ない?あ、家族全員分もらえる訳じゃないのね。チケットの値段は?5000円?そんなにするの?

息子の所属事務所もHPから購入した。私が購入した少し後に完売になっていた。間に合ってよかったわ。

コンサート当日。会場に着いたら沢山の人がいる。これ全部ファンなのかしら。学生からお婆さんまで年齢に幅があるわね。私と同年代のおばさんも沢山いる。

チケットを購入したのが遅かったからか、私の席は2階の後ろのほうだった。まぁ。いいでしょう。

コンサートが始まる。本当に千秋が歌ってる。いや、歌っているのは知ってるけど、生で見ると息子は歌手と改めて知らされた。

会場には光る棒を持った女性が沢山。キラキラして綺麗ね。私も買ってくればよかった。

千秋は会場を走り回り、観客と手をバチンバチン打ち付けあいながら歌ってる。私の所にはこないのね。少し残念だわ。

2時間のコンサートはあっという間だった。案外楽しいのね。あの子が頑張ってるのがよく分かった。お父さんにも教えてあげましょう。

私の自慢の息子には大好きなハンバーグを作ってあげましょう。目玉焼きにのったやつね。

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