第21話 当事務所の期待の新人歌手
午後の部
午後のステージも流れは午前と一緒。一度立ったステージなので緊張もない。
俺の番になり、自己紹介や曲の紹介をする。午前よりも面白く話をしたので、お客さんのうけは良かった。
歌に入ろうとした時に、司会者が突然割って入ってきた。
「みなさんに嬉しいお知らせです。なんと上原さんの所属事務所の先輩が応援に駆けつけてくれました。それではどうぞ~」
何にも聞いてない俺は辺りをキョロキョロする。
「みなさん、こんにちは。レイヴンプロモーションの安西彩奈です。今日は私たちの事務所の新人歌手、上原千秋を見に来てくれてありがとう。彼は期待の新人で私も注目してるんですよ。”夢で逢えたら”って曲なんですけど最高です。多少、贔屓が入ってますが私のお気に入りです。みなさんも是非彼の曲を聞いてファンになっちゃって下さい。あ、私もファンなんですよ。カッコよく決めてもらいましょう。それではどうぞよろしくお願いします」
聞いてないよ。ステージ脇にいる西野さんを見ると、いい笑顔でサムズアップしている。
「千秋、私はいつだって応援している」
もう頑張るしかないよな。そんなこと言われたら燃えるでしょ。
俺はいつもの120%の笑顔で歌い始めた。
2曲を歌い切り、少し興奮気味の体が熱い。気持ちいい。自分のすべてを持って挑んだステージ。やり切った感が半端ない。
「みなさんありがとうございます。僕は駆け出したばかりの新人ですが、会場にいるみなさんや事務所の方々に支えられて走り出しました。これからは支えられるだけじゃなく、自分の力で駆け抜けます。いつかいっぱしの歌手になったら、初ステージだったこの場所でまた歌いたいと思っています」
お客さんを見渡しながら、声と目で想いを伝える。ありがとうございますって。
ステージから降りて控室の向かう。
「彩奈、来てくれたんだ。びっくりしたよ。最初から決まっていたの?」
「決まってないよ。千秋の初ステージだもん、直接見たかったから駆け付けたよ。カッコよかった。ますます好きになっちゃった」
さすがに控室なのでキスはしない。会場のほうからは”千秋ーっ!”と叫ぶ女性の声が聞こえてくる。
「大人気じゃない。浮気したら許さないわ」
「俺には彩奈しか見えないよ」
「さっ、握手会でしょ。会場に戻って。私は仕事に戻るね。抜け出してきちゃったから」
彩奈はそう言って帰って行った。
会場に戻ると握手会の列ができていた。午前中よりあきらかに多い。これって彩奈効果かな?あ、男性もちらほら交じってる。
お客さん一人一人を大事に握手してお礼を言う。みんな、頑張れとかイベントまた来ますと言ってくれる。ありがたいね。
すべてのお客さんと握手を終えたのは1時間半後だった。疲れた~。
西野さんはとても嬉しそうに、
「今回のイベントは最高だったわ。彩奈効果もちゃんとでたみたい。午後の売り上げはCDが162枚、ステッカーが131枚よ。合計でCD246枚、ステッカー207枚。この調子でファンが増えれば最高ね。目指せ東京ドーム」
ドームってすごい目標だな。いや、やる前から諦めるな。とにかく頑張るぞ。
「西野さん、ありがとうございます。俺、もっともっと頑張ります」
「どんどん歌の仕事を入れるわ。レイヴンプロモーションの歌手部門を引っ張ってちょうだい」
控室に戻るとベリルのみんなは撤収した後だった。能登さんはまだ残っており、戻ってきた俺を出迎えてくれた。
「すごかったね。沢山のファンを獲得できたんじゃない?CDもすごく売れてたみたいだし。しかも安西彩奈さんまでステージ呼ぶなんてすごい」
「あれは俺も知らなかったんだよ。事務所が気を利かせてくれたみたい」
「大切にされているんだよ。そうだ、ライン交換しよ。情報交換や相談がいつでもできるように」
彼女と連絡先を交換して俺たちも撤収した。
事務所に戻って社長に報告だ。西野さんと今回のライブイベントの報告をした。社長からは期待してるので頑張ってほしいとエールを貰う。
俺のプロデュースが成功すれば、歌手部門でどんどん新人を送り出すんだろうな。後輩とか楽しみです。
ある日学校で。
いつも通りの授業が終わり昼休みになった。いつものメンツで昼食をとろうと中庭に移動した。
6人でシートに座り弁当を食べる。食事中に桂子さんが俺を見ながら呟いた。
「……夢で逢えたら」
ぶっ
食べていたサンドウィッチが鼻から出そうになる。
「あれ、桂子さん知ってたんだ」
俺の言葉に恵と俊彦が、何々教えてと声を上げる。
「あの、レイヴンプロモーションのHPにでてたので」
ああ、確かにHPにはモデルプロフィールや活動報告が上がっているな。俺は最初モデル部門に写真が載ってたけど、最近できた歌手部門に写真が移動してたな。
「ねぇ、私に内緒話なの~」
恵が彩奈に聞いたので、彩奈はレイヴンプロモーションのHPを見るよう恵に促した。
「何々、当事務所の期待の新人歌手”上原千秋”って何だこりゃ~」
スマホの画面をみんなに見えるように掲げる恵。
「おい、上原千秋って聞いたことあるな。そんなやつが歌手デビューだと?」
俊彦がこちらを見ながら言う。
「千秋のファンって結構いるのよ。最近はファンレターがくるようになったから」
彩奈が楽しそうにみんなに報告。
「マジで歌ってるの?ってCDデビューしてるのか。え、もうステージに上がっているのか?」
俊彦さんや、興奮しすぎだ。秋司も目を輝かせるな。
「この歌のCDってどこで買えるんんだ?」
今のところHPの通販か、関東のいくつかのCDショップだ。HPに店舗検索ができるようになっている。
「HPに買える場所でてるよ。でも俊彦は俺の歌声をカラオケで何回も聞いてるだろ」
「ばっか、売り上げに貢献すんだよ。一枚しか買わないけどな。お前がすげー売れたら、俺が育てたってみんなに自慢するんだ」
「ねぇ、千秋は学校辞めないよね」
恵が心配そうに俺を見る。
「辞めないよ。ちゃんと卒業するさ。事務所の人にも言ってあるよ、学業を優先しますって」
「良かった~。じゃあコンサートやるときはあたし行くよ。サイリウム用意してさ」
キラキラを体で表現しながら恵は言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます