14日目 修正指示

呪文書作成士デザイナー部のみなさん、ご苦労様でした! すごくいいものができたと思います! これで王都へのプレゼンもね、うまくいくことを祈ってます。ただ、ちょっと直してほしいところがあってね……」


 前日、呪文書作成士デザイナー部の長たちが何とか完成させた企画提案書を確認した社長は、会議が始まった当初はご機嫌だった。

 ちなみに、企画提案書は各支社で完成したページをもとに本社の呪文書作成士デザイナー部員がそれを書写し、順にページ数をかきこんでまとめ、装丁して一冊のしっかりした本の形にしている。その作業だけでも大変な時間がかかっていたようだ。


「今朝、頭から見ていったんだけどね、ちょっと直したほうがいいんじゃないか、もっといいものができるんじゃないか、と考えました。最初の方からね、みんなで一度に見ていきます」


 えっ? 完成したからもう作業は終わりじゃないのか。コタンはちょっと面食らった。


「まず表紙ね、『全自動戦術型ネクロマンシーの王都への提案』、これね、「提案」じゃなくて「ご提案」の方がいいね。受け取る人のことをちゃんと考えてね! 表紙作ったのは誰? 誰? ザルトータン君、作ったの誰かわかる?」


 コタンの手元に提案書はないので修正指示の内容はよくわからなかった。

 社長は1ページずつ、修正の指示を会議中に行っていった。コタンは疲れてすこし眠くなってきた。


「じゃあ次のね、この〈死亡者自動リスト作成〉のところ、このページを作ったのは誰?」

「は、はいっ?!」


 コタンが作成したページの順番が回ってきた。コタンの心臓が早鐘のように鳴る。


「ここね、死亡者の名前が順番で書類に出るって書いてあるじゃん。それは死んだ順なの? それともケイロン文字順なの?」

「あっ、えっと、死んだ順……? かと……」


 予期していなかった疑問を出されて、とっさにコタンはいい加減な答えを返した。水晶玉に移るほかの人間の顔を見てみたが、本部の呪文書作成士デザイナー部から助け舟は出ないようだ。


「それと、指揮官の手元の書類にリストが出るって書いてあるけど、指揮官が死んでた場合はどうなるの? あと、戦争で火が出たりしたら燃えたりしない? 燃えてなくなったりしたら保険策はあるの?」

「ええっと……」


 全くわからない。

 額から汗が滝のように出てきた。


「何? 何も考えてなくて作ってるの? どうしてこういう仕様になっているか聞いてるのよ。コタン君。コタン君?!」

「すっすいません!」


 社長の口調はすでに怒鳴り声と言っていいものになっていた。


 そもそも仕組みができていないものだから、なぜそのように記述したのかはコタンにもわからない。上司のアムラトにも、他の呪文書作成士デザイナー部員にもわからないだろう。

 しかし、それをそのまま社長に伝えてはまずいような気がした。


「こういう姿勢じゃだめだからさ、アムラト君、ザルトータン君と3人で後でミーティングして! 今日中にどういう方向で作っていくか決めて、報告してね! コタン君は日報で報告するように。聞いてる、コタン君。コタン君?!」

「はいっ、き、聞いております」


 混乱しているうちにコタンのページの確認は終わった。

 コタンはちらりと隣の席のムリエラを見たが、彼女は真面目な顔をして水晶玉の会議に集中しているようだった。

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